第22話 オタク街のダンジョン

「今後の配信について話をするのじゃ」


 『のじゃのじゃ~』


 『どうした突然』


 『助かる』


 仕事終わりの平日。『おっさんが行く! 廃墟ダンジョン解説チャンネル』は、今後潜る予定のダンジョンについて報告をすることになった。


 もちろん、元魔王城である新塾ダンジョンでの配信を伝えるためだ。


 懸念されていた休日を超える可能性が高い攻略日数だが、会社に相談したところ、条件付きでオッケーをもらった。当然、ついでに会社の仕事もしてきてねというものである。


「最下層までは嫌がる人が多いから助かったよ。単価は高い仕事からね」とは社長のお言葉。ダンジョン外に魔物が出現するなんて出来事がなければ、元魔王城に潜るなんて気持ちにはならなかっただろう。


 ちなみに、先日の件はダンジョン協会に報告はした。あまり真剣に取り合ってもらえなかったが。


「元魔王城を最下層までしっかり解説するのじゃ。来月頭くらいを予定しておるのじゃが、詳細はあとでお知らせするのじゃ」


 『まじか』


 『魔王城の最下層なんてまた物好きな』


 『最低でも三日連続ってこと?』


 『専業じゃないって言ってたけど、凸さん退職したん? 仕事は?』


「安心してください。辞めてないです。今回は仕事の出張としても潜ります。なんと、配信のオッケーをもらったんです。仕事の合間に配信、みたいな。なんの仕事かは秘密ですけどね」


 『あー補助金でてるよね。変わらずの社畜っぷりっすなあ』


 『おれらは楽しめればそれでいいので』


 『でも魔王城って解説することある?』


 『ずっとレイのじゃを見ていらるる。至福……』


「わしもバンバン魔法を使って活躍する予定なのじゃ。それに、ノ宙も一緒に潜る予定なので、きっと楽しくなると思うので、絶対見て欲しいのじゃ」


 『マホウナンテシラナイデス』


 『ネタバレ予告きたこれ』


 『タンクとして頑張って』


 『ノ宙ちゃんも一緒なのは知ってた』

 

「そんな訳で、皆さんぜひ楽しみにしてください。それともう一つ、その前にどこかのタイミングで【秋葉波良あきばはら】のダンジョンに潜ろうと思っています」


 『おおおおおおおおおおついに行くのか』


 『えっっっっ』


 秋葉波良のダンジョン。それは、レイヤが言っていた分散された能力が封印されていると思われるダンジョンだった。ここ数日、廃ダンを潜っている配信を見まくった結論だった。


 『ノ宙ちゃんも一緒ですか?』


 『ちょー楽しみ』


「残念ですがノ宙さんには断られました」


 『ですよね』


 『そりゃあ普通の女子は行かんよ』


 『なんでや! レイのじゃが普通の女子じゃないみたいな風評はやめろ』


 『レイのじゃは痴女なんですか?』


 リスナー達のこの反応には理由があった。秋葉波良ダンジョンの特徴に、パーティ内に女性がいた場合、その姿を模倣した魔物が出現するというものがあった。


 それは、ただの模倣ではない。


 秋葉波良という街は以前からアニメやゲームの女性キャラクター商売で有名だった。いわゆるオタクの街だ。それに影響を受けたと思われる魔物が、様々コスチューム着せて対象の女性を模倣をするのだ。


 その魔物は【秋葉波良ドール】と呼ばれており、多くの男性冒険者とリスナーに愛されている。


「わしも……行きたくて選んだ訳じゃないのじゃ……。グスン……本当に仕方がなかったのじゃ……」


 『凸さんに無理やり……』


 『凸は変態だからなあ』


 『泣かないで』


「い、いや俺のせいじゃないからな。なんというか、レイヤが封印されていた秘密がもしかしたら分かるかもとか、そういう理由だから!」


 『ほんと~?』


 『えっちならどちらでもいいですよ』


 『さす凸。それは仕方ない』


 『垢バンだけには気をつけてください』


 こいつら、やっぱり俺の事を変態だと思っているな。秋葉波良に封印されていると聞いた時は、まあちょっとだけ喜んだけど、それは男なら仕方がないことだ。


 『今回のボスはオーチューブのガイドラインですね』


 この言葉が的を射ている。ただのコスプレなら女性冒険者がそこまで嫌がることはない。叡智でそれ以上のことが起きる可能性があるからだ。もしかすると、文章でも危険なダンジョンかもしれない。


 垢バンしたチャンネルは数知れず、配信では多くのリスナーを見込める半面、登録者数が多い俺の様なチャンネルではリスクのが大きいダンジョンでもあった。


 ****


 今週は三連休のため金曜日からの始動だ。


 電車を乗り継ぎながら秋葉波良へ向かう。


 車で行けないことはないのだが、駅近くのダンジョンのため電車の方が楽だった。今回は攻略に二日間かかるという事情もあるが、基本的に都心にあるダンジョンは電車で行くのが正解だったりする。


「のじゃ~……。満員電車は本当に嫌いなのじゃ~」


 乗客に押しつぶされたレイヤの顔が、つぶれたメロンパンのようになっている。あまりにも哀れだ。休日の早朝と言えども、やはり都心の電車内は込み合っていた。


「もっとこっちに押しかかっていいから……」


「助かるのじゃ」


 レイヤはそう言うと、俺の腹周りに全力で頭を押し付けてきた。


「いてえ……」


 朝食が胃から飛び出る勢いだ。もうちょっと加減して欲しい。


 ****


 ようやく秋葉波良駅に到着し、電機街口へと向かった。駅周辺は人で溢れていた。


「少し休憩したいのじゃ……」


 冒険前なのに顔が死にかけている。しょうがないので近くのファストフードで一服することにした。ダンジョンはもう目と鼻の先だったのに。


 「はあ~生き返るのじゃ……。コーラは最高なのじゃ」


 レイヤは生き返ったようだ。


 都心部のダンジョンの特徴として、何らかの人工物が入り口になっているということだった。


 秋葉波良の場合はメインストリートから少し外れた場所にある神社の鳥居だった。


「言われるほど二次元の街っぽくないの。ちょっと女子の絵の看板が多いくらいじゃ」


「そうだけど、普通の街にそもそもそんなに女の子の絵の看板はない」


 これではただの秋葉波良の観光だ。


「カレーおいしそうなのじゃ……。お腹も空いたし、ちょっと食べちゃうのじゃ」


 ええ……1時間ちょっと前に朝ごはん食べたでしょうが。


 ****


 まさかの二回目の朝食という意味の分からない行動のレイヤを待った後、なんとかダンジョン前に到着した。


 ビル街の真ん中に、突然現れる鳥居だけの狭い空き地。異様な風景だった。


「ども。廃ダン解説チャンネルです」


「のじゃのじゃ~。今日はよろしくなのじゃ~。ケプ」


 配信開始でげっぷをするな。


『のじゃ~』


『待ってた(*’▽’)』


『秋葉波良解説きたーーーー』


『くさそう』


『Hi』


「じゃあステータスの抽選をします」


 秋葉波良ダンジョンは旧型後期Aクラスの可変教会型。能力的にはBもあれば十分なのだが、レイヤ絡みの探索になるのでSから2Sは欲しかった。


『おお、早い。Sランクいいじゃん。余裕』


『条件満たしたけどステータス抽選続けるの?』


 試行回数5回。最低限の能力は確保している。これで行こう。


 今回は、念のため仕事でも使っている逃走道具を多く準備してきた。これは会社の支給品ではない。配信収入が増えすぎて税金を納める必要が出てしまったため、自分の副業経費として買った物だ。なので大事に使おうと思う。


「じゃあ出発なのじゃ~」


 一泊二日の秋葉波良ダンジョン探索が始まった。

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