第18話 残業の終わり
俺はレイヤに手を貸した。ひっくり返ったレイヤが体を起こす。
「びっくりしたのじゃ。あはは、魔法が出たのじゃ」
「
「今の魔法はフレイムなのじゃ……。それでもわしの全盛期の魔力と比べると、かなり小さくなっているがの」
「十分な威力だよ。これでタンク役は引退だな」
「そう言いたいところなのじゃが、魔力が底をついてしまったようなのじゃ。記憶だけじゃなく、魔力のコントロールもいい加減になっているようじゃの」
魔法使いとして戦力になるのはまだまだ先ということか。それでも、この火力の魔法を使えるなら今後頼りになる。
「そういえば、また魔物がレイヤのことを喋ったな。最近倒した魔物がみんなメガミ、メガミって言っている気がする」
「以前はわしが魔物の力を封じていたからの。殺したいと思われるのは当然なのじゃ。きっと、この世界で封印が解けたことが知れ渡っているのじゃろう」
魔物がレイヤを積極的に探している可能性もあるということか。やはり廃ダンに現れる高ランクの魔物と関係があるのだろう。
「この度は本当にありがとうございました」
誰かと思った。どうした、ちょい男。そんなにかしこまって。
「この御恩は一生忘れません」
「恥でしたね。自信過剰になっていましたよ」
サイトウまで。二人は深々と頭を下げている。今回の件はよっぽどこたえたみたいだ。ケルベロスに喰われたのによく生きていたよ。
「生きていて本当によかったよ。そんなにかしこまらなくていいよ」
「え、まじっすか。ちょい、そうします」
切り替え早いな。まあ言葉だけで、以前のような上から見下すような態度でもないし、性格だと思って諦めるか。
「ねー、鈴木さん。せっかくだし、もうちょっとリスナーに紹介させてよ。チャンネルの宣伝もしていいからさ」
目が涙の跡で腫れぼったいが、すっかり上機嫌になったチョコだった。
「なんで俺がチャンネルを持っていることを知っているんだ?」」
もちろんチョコ達には話をしていない。もしかするとレイヤが教えたのかと思ったが、レイヤは違うと首を振った。
「これだけ一緒にいたらわかるよー。今話題の人だしね。どこかで見た顔だなとは思ったんだよね。メガネと服装で全然分からなかったけど。でも、戦い方がそっくりだし、レイヤちゃんは【鈴木さん】って言ってるしで、もう廃ダンチャンネルの人じゃんって」
そういうことか。本当に有名になったもんだ。この前の買い物の時もだが、顔を知られているのは嬉しい反面、いつでも見られているような気がして落ち着かない。
「初めにも言ったけど、今日は仕事で来ているから止めておくよ」
「会社を気にしてるところがいかにも社畜っぽいね~。いっそ辞めちゃえば? 今の登録数があれば配信だけで生活できるじゃん。お金も今より全然増えるし」
「まだその勇気はないな」
もし5Sのダンジョンに潜って帰ってこいと言われない限りは仕事を続けるだろうと思う。自分にとって、仕事を続けるのはお金のためじゃない。ただの社会的な信用を失うことへの怖さだ。死ねと言われない限りは仕事を続けてしまうと思う。
「ふ~ん、私にはよく分からないや。じゃあスーツニンジャとして挨拶してよ。そっちならいいでしょ? どうせリスナーにはバレたんだし」
「えー……」
「挨拶しないなら、あの猿ぐつわの仕打ちはスーツニンジャの趣味でした~って言っちゃうから。配信外では色々されちゃいましたって」
「お前なあ……」
「どーせ鈴木さんとは関係ない人のせいになるだけだからいいじゃんっ!」
チョコはいたずらな笑顔を見せる。いい年齢なんだから少しは落ち着こうよ。
「名案ですね。スーツニンジャのコミュのためにもお願いします」
頭を下げてきたのは、とよとよだった。コミュってなんだよ。
「まさかスーツニンジャを広げてるのはとよとよなのか?」
「へへ、そうです。実は僕がリーダーとしてファンコミュを運営しております。今話題の人と同一人物とは、僕は先見の目ありますね」
へへ、じゃないよ。とんでもないコミュ作ったな。
「分かったよ。その代わり、俺が
「おっけ~」
「ありがとうございます!」
まったくしょうがないな。
男どもが念のために病院へ行くこともあり、俺達は魔石を使ってダンジョンから脱出をした。
****
「ほんとうに無事で良かったです~。これからコメクッキーとサイトウは病院に行くので、配信はここまで。ごめんね~。最後に、ずううっと顔出しもコメントもなかったスーツさんから一言あるから心して聞くように! 実はスーツニンジャっていう肩書を持つ珍しい人なんだぞっ。やっぱり顔出しはなしだけどね」
『お大事にー』
『鬼畜スーツさんついに喋るのか』
『まじでスーツニンジャなのか。戦ってるとこすらレアな人じゃん』
『そんな有名な人なのね。手伝ってくれてありがとう』
何を喋ったらいいのやら。最初の印象は最悪でした、今は悪くらいにはイメージが回復しました、とか。皮肉っぽく駄目だな。気軽で親しみやすい感じでいこう。
「チョコのあの姿は最高でいたね。たくさん動画で保存させていただきました。また機会があれば、この動画で呼びつけようと思います。あはは」
どうだろう、親しみやすい下ネタを絡めたジョークだ。チョコをいじっているのがポイントだったりする。
『やべえ』
『ガチで鬼畜スーツだった』
『変態の所業』
『冗談……だよね……?』
反応がやばい。冗談に思われてない。
「冗談です。 いやあ本当にコメクッキーさんとサイトウさんが助かってよかったです。またどこかでお会いしましよう! では~」
『冗談……でいいんだろうか』
『ガチトーンだったから誤解しちゃった』
『チョコの貞操は大丈夫っぽい?』
『草。天才肌だな』
『スーツニンジャおもしれえ奴www』
レイヤとチョコもこのタイミングで爆笑しているし、ウケたなら良しとしよう。
こうして配信は無事終了し、チョコ達に別れを告げた。
「ほんとうにありがとね~」
チョコはいつまでも手を振っていた。
時間はすでに午後の8時を過ぎている。会社に連絡を入れ、自宅のある昼間市行きの電車に飛び乗った。今日は直帰だ。自宅に着くのは10時近くだろう。
電車の中でレイヤはぐっすりと眠っていた。疲れたのだろう。さすがに俺も腹が減った。晩御飯は最寄りのスーパーで余りの総菜をかき集めて帰ろう。
想定外の一日はこうして終わったのだった。
****
翌日。
秋葉原部長のメッセージで『レイヤと一緒に来社すること』という指示があったため渋々ながら命令に従った。完全にレイヤを社員扱いしている気がする。しっかりとした人間であることを伝えて二人分の給与をもらう必要がありそうだ。
ただ、レイヤはとても喜んでいるようで、
「今日はどこのダンジョンに行くのじゃ?」
と言っていた。勘弁してほしい。
事務仕事は好きではないが、毎日ダンジョンに潜らされたら流石に身体が持たない。そんなことを考えていたら、あっという間に会社に着いた。
「よお、スーツニンジャ。絶好調だねえ」
会社には
退職しても友好的な関係なのは空山先輩の人柄のなせる業なのかもしれない。
「好きでスーツニンジャなんて名乗ってないですよ。見てください、わざわざ眼鏡変えたんですよ」
色は青、縁は厚く。昔使っていた眼鏡だった。
「あはは、そのままでいいのに。ところでさ、魔王がいた廃ダンって配信する予定ってない?」
突然何を言いだすのかこの先輩は……。あんな観光地を配信する予定はないですよ。
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