第13話 ダンジョンの仕掛け 上層第一フロア
洞窟型のダンジョン内部はひんやりと肌寒く薄暗い。
俺とレイヤは【照明の魔石】を使いながら慎重に奥へ進んだ。このダンジョンはまだ攻略されていない。
廃墟ダンジョンと違い、いつ魔物やトラップが俺たちに牙を向くか分からないのだ。
だからと言って本来の目的を忘れてはいけない。今日の目的は死亡保険金を支払うための現地調査だ。死亡者の魔力をトレースして、死亡した階層が連絡通りかを確認する仕事だ。
目指すは第三フロア。上層の一番奥だ。
「ちょっと寒いのじゃ」
レイヤが小さい身体をプルプルと震わせていたので、持ってきた上着を渡した。
第一フロアは分岐が多いが、不変型ダンジョンのため攻略Wikiを見れば問題なく進めてしまう。
右、左、真ん中。間違えないよう気を付けて進む。間違えれば落とし穴や魔物がいる。ただ、四番目の左右の分岐だけ正解とは逆に進む。
「宝箱なのじゃ!」
これが生きているダンジョンの最大の楽しみだった。配置は決まっており、冒険者ごとに宝箱が復活する。
「おお! ハイクラスポーションなのじゃ!!」
「やったな! 店で買ったら1万くらいするぞ」
貴重な武具や道具が入っていることは多い。高ランクのダンジョンなら尚更だ。このハイクラスポーションは、普通のポーションより回復効果が高く、回復速度が速い。回復魔法が使えるヒーラーは貴重な職のため、回復薬は普通の冒険において必須アイテムだ。
「魔物じゃ!」
クモ型の魔物が4匹現れた。
宝があれば魔物の可能性も上がる。ただ今日は戦わない。ダンジョンをより満喫して、かつ定時で帰るためだ。
収納の魔石から【けむりだま】を取り出し投げつける。
「走るぞ!!」
「けむいのじゃ~」
魔物がひるんでいる隙をつき全力で逃走する。けむりだまは会社の経費で買えるため、気にせずどんどん使っていく。これが俺の仕事中のスタイルだ。
そんなことを繰り返し、第一フロア奥に到着した。どうやら先行パーティがいるようだった。男二人組のパーティだ。何やら悩んでいるようだった。
「どうしました?」
「この仕掛けがうまく作動しなくて悩んでいました」
眼鏡の若者が言った。大学生くらいだろう。もう一人もそのくらいに見える。この年齢でS2ランクに潜れるのはなかなかだ。
ダンジョンのフロア間には仕掛けが施されていることが多い。ここに関しては、不変型ダンジョンであろうとも日々変化する部分だった。
「どんな仕掛けなんじゃ?」
「しょ、小学生!?」
「お姉さんじゃぞ! お前らより全然年上……なのじゃあ……なのじゃあ……」
自分で言って自分でダメージ受けてやがる。
「ご、ごめんなさいっ。てっきり小学生かと。あの、適正な魔力を注入すると扉が解除されるみたいなんですが……。うまくいかなくて……」
扉には魔力の注入口が付いていた。そして近くには台座があり天秤が置いてある。天秤には石で作られた心臓が置いてあった。
「この天秤が水平になる魔力が必要だというのは分かるのですが、同じ魔力を注入しているはずなのに開かないんです」
「なんじゃろな?」
レイヤが天秤に魔力を乗せる。数値は54か。
「54ですよね? 見ていてください」
大学生が魔力を送り込む。扉に反応はない。ただ、それを見てああなるほどと思った。
「他に仕掛けがあるんでしょうか?」
「いや」
今度は、俺が魔力を送り込んだ。
ガチャリ。という音と共に扉が開いていく。
「ええ! なんで!?」
「すげえ!」
「おぬしの魔力コントロールが甘いのじゃ。魔力の数値が2もズレておる」
「同じ仕掛けは旧ダンジョンにもあったと思うけど、S帯はより正確な魔力コントロールを求められるからね」
眼鏡の大学生はガックリと肩を落とす。
「僕はヒーラーなので結構自身あったのですが……」
「気にするなよ。俺は戦士だからそもそも魔力のコントロールができないからさ」
友人の大学生が慰めている。いい友達だ。
魔力のコントロールは思った以上に難しい。そして、魔法のスキルがない人間にも魔力攻撃のステータスがあるのはこのためだったりする。
「じゃあ俺達は先を急ぐから。気を付けて。危ないと思ったら逃げなよ」
「ありがとうございます! なんかスーツニンジャさんみたいですね」
「スーツニンジャ? そんな人がいるんだ」
「あまり知られてないですが、ごく一部で有名な人です。S帯をスーツ姿で潜っていて、もの凄く素早いのですが、誰も戦っているところを見たことがないそうです」
「はははっ。
レイヤは笑っているが、俺もそんな気がしてならない。これ以上この話題を深堀されるのも嫌なのでさっさと第二フロアへ行こう。
「ちょーい、ちょいちょい、おにいさんちょっと待ってよ!」
聞いたことがある声がした。先ほどのウェーイパーティだ。追いついてきたのか。
「俺達にもその扉、使わしてちょうだいよ~」
うるせえ。閉めるわ。
****
「本当に扉を閉めるなんて、ちょっとひどくない?」
パーティ唯一の女性が文句を言っている。
「ちょい、俺達にそんな態度取るなんて炎上するぞ?」
「俺達はオーチューバーの【チョコ同盟】ですよ?」
「知らん」
男どもも続くように文句を言ってくる。そして、リスナーの声を読み上げる形をとっているのだが、その音声を外にも聞こえるようにしている。
『チョコ同盟知らない人っているんだ』
『チョコちゃんのかわいさが分からないのか?』
『ほんとにスーツ着てるwwww』
『小さい女の子どこかでみたような……』
『草の草』
『さすがに炎上させる影響力はないな』
『男どもちょっと黙って』
不思議なリスナー層だな……。アンチっぽいのもいる。
自分でも色々な配信者を見ているが本当に知らない。配信者も星の数だけいるし、知らない配信者がいてあたりまえだが。
「く、情弱やろーが!」
三人とも悔しそうだ。
どうやら大学生の一人は知っているとのことだった。
「最近人気が出てきた人たちです。一度見ましたが、ただ騒いでいるだけですね。登録者数は1万人くらいです」
「なるほど」
思った以上人気があるんだな。こいつらも俺のことが分からないようだし、このまま無視しちゃおう。メガネとスーツは偉大だ。
「ちょい。俺の配信に入れてやるよ。どうせまた追いつくから」
「仕事中なので結構です。おい、行くぞ」
できる限り顔を隠し、レイヤの手を引っ張った。
「配信ちょっと気になるのじゃ」
気になっちゃうのかー。ここ数日で配信の楽しさに目覚めてしまったか。そりゃあ、昨日あれだけチヤホヤされればね。
『のじゃって言ったぞ』
『土曜日に話題になった人?』
『知らん。配信的には珍しい口調でもないだろ』
『パクリだろ』
どうやら本人とは思わなかったようだ。ただ、バレるのも時間の問題かもしれない。それは面倒だ。
「ねー、一緒に配信すればいいじゃん! その子かわいいし乗り気だし。断るなんて、ひどー」
一つの案が浮かんだ。レイヤの身バレは最悪諦める。ただ、俺は仕事に支障をきたす訳にはいかない。今日の俺はあくまで社畜だ。
「連れじゃない。たまたま駅で会ってパーティを組んだ。この子が良いというなら反対はしない。ただ、俺を映すのはダメだ。仕事に支障がでる。俺はあくまで業務で来ている。顧客情報の問題もある。もし同意なく配信をした場合、業務を妨害したとして賠償請求も辞さない」
ちょっと強く言い過ぎたかな。
「ちょ、わーったよ。恐い奴だなあ。その子だけ映すわ。じゃあ交渉成立な」
「分かった」
「わしは映ってよいのか? 話してもいいのか?」
レイヤは照れながらもちょっと嬉しそうだった。喜んでいるならいいか。
俺は秋葉原部長に電話をし、残業することを伝えた。
部長はめちゃくちゃ笑っていた。「配信見るわ」とノリノリだった。
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