第11話 配信で杖の自慢をするのじゃロリ 

 昼間市のショッピングモールはとにかく横に広い。

 

「ラーメンおいしかったのじゃ」


 レイヤは洋々と階段を昇っていく。あんまりはしゃぐと転ぶぞ。


 よくやく目的のアイテムショップに到着した。ブランド名は【エクスカリバー】という、新品も取り扱っているお高めの店だ。様々な武具や冒険者用の便利な魔石を販売している。

 

「なんじゃろな……もの凄く高い武器屋のような気がするのじゃ。お金は大丈夫なのか?」


 ガラス張りに、威圧感のある黒を基調とした店構え。気のせいでなく実際お高い。だが、


「ふっふっふ。レイヤ、今の俺達には動画収益がある。今日の俺は無敵だ! なんでも欲しいものを言いなさい」


 ボーナス時期でもないのに月収以上のお金を手に入れる無敵感よ。


「いつになく頼もしいのじゃ……。わかったのじゃ! 遠慮なくいくのじゃ」


 ****


「これがいいのじゃ!」


「無理です」


 レイヤが指さしている魔法使い用の杖、お値段300万。車が一台買えてしまうじゃないか……。


「む、無敵はどうなったのじゃ……?」


「無敵なんか自称ですよ。言ったもん勝ちです」


「意味が分からないのじゃ。まあ仕方がない、他のにするのじゃ」


 すんなり諦めたようで、他の杖を探しに向かった。


 まさか店の一番真ん中にある、ガラスケースで囲まれた超高級杖を選ぶとは思わなかった……。


「お客様、もしかして鈴木凸様でいらっしゃいますか?」


 20代半ばくらいの女性店員が声を掛けてきた。さすが高級店、立ち姿から美しい。


「そうです。よくご存知ですね」


「もちろんです。今もっとも注目されている冒険者様ですからね。そうなりますと、あちらの女性はレイヤ様ですね」


 最も注目されている、という言葉がこそばゆい。そう言われると、ショッピングモールに来てから視線を感じることが多かった気がする。


「こちらの杖が気になるようでしたので、さすがお目が高いです。こちらは―――」


 いけない、営業トークに巻き込まれる。どんなにいい物でもこれは買えない。間違いなくローンを組まさせる。俺の保険営業としての経験がそう言っている。


「おーい、この杖なんかどうじゃ~」


 渡りに船、助かった。「ありがとう」と女性店員に伝えレイヤのもとに向かった。


「これはどうじゃ?」


 レイヤの身長と同じ135㎝の銀製の杖を指さしている。値段は20万+税金。いい値段ではあるが、この動画収益はレイヤのおかげでもある。この位なら妥当な値段だ。


「いいじゃないか。どこが気にいったんだ?」


「さきっぽに魔石が付いているのじゃが、それが花の形でかわいいのじゃ」


 たしかに花の形をしている。魔石を削って加工したのか。


「こちらは、昨年攻略された不二山ダンジョンで採掘された魔石を使用している杖になります」


 先ほどの店員さんだ。この解説はありがたい。不二山ダンジョンと言えば最強のS4ダンジョンだ。このダンジョンを№1冒険者の【鯨次郎】が攻略したことにより、新たにS5ダンジョンが出現し始めたのだ。


「魔力の高さももちろんですが、精工にデザインされたお花が特徴的な逸品です。試しに装備されてみますか?」


「するのじゃ!!」


 レイヤは飛び跳ねるように喜んだ。そして、鏡の前で杖を構えてポーズを始めた。


 時には天から稲妻を呼び起こすように、時には濃縮した魔力を相手に放つように、時には戦友である杖に願いを込めるように。


 面白いので全部動画で撮影させていただいた。(もちろん店側の許可も取った)


 クレジットカードで支払いを済ませると、店員さんがおまけをくれた。魔法使い専用の防具らしい。高級価格帯の魔法使い用商品を買った人にはプレゼントをしているそうだ。カチューシャ?のような感じに見えた。


「あー、次のダンジョンが楽しみなのじゃ」


 レイヤはめちゃくちゃ喜んでいる。包装された杖を大事そうに抱えている。買ってあげて良かったなと思う。どうやら名前を付けたようで【はなちゃん】と呼んでいる。そのまんまか。


 その後、俺は刀を補充した。格安店のアウトレット特売品、3本セットで1万円の刀だ。大変お買い得だった。一方、レイヤは買い物に飽きたようで、その間はペロペロとソフトクリームを舐めて待っていた。


 ****


 家に帰り配信の準備をした。家電量販店で購入したカメラとマイクの設置だ。


 ダンジョンの外では魔石の力は無に近くなり、不思議な力については一切なくなる。ダンジョンの外を出れば、冒険者はただの人間だ。銃火器には勝てない。


 魔石の力をエネルギーに変換する技術は近年生まれたが、それでも効率よくタービンを回すのが精一杯だ。魔石の不思議な力をダンジョン外に持ち出す技術はまだ存在しない。


 そろそろ配信の時間だ。


「こんにちは、なのじゃ~」


「こんにちはー、廃墟ダンジョン解説チャンネルです。今日は15万人突破のお礼緊急生配信、という形のレイヤの杖自慢配信です」


 『15万おめでとうございます!』


 『レイヤ自由すぎる……』


 『のじゃ~。早く杖見せて』


 『お礼ついでかよww自慢したいだけなのかwwww』


 『Hi』


 コメントが自動で読み上げられていく。自分でコメントを読むよりこっちの方が楽でいいな。ダンジョン内でも設定を変えておこう。


 形式的な御礼を述べた後はレイヤに丸投げだ。台本なんかないので、とりあえずはキリのいい所までダラダラと配信をする予定だ。


「これが【はなちゃん】なのじゃ! ここのお花がかわいいじゃろ?」


 『ほんとかわいい(*’▽’)』


 『きゃわ』


 『エクスカリバーって高級ブランドじゃねえか……』


 『なんかポーズとってー』


 『れいやちゃんの役割ってタンクでわ……』


「分かったのじゃ。これが稲妻の魔法のポーズなのじゃ!」


 『神々しい……』

 

 『かわいいいいいいいいいいいいい』


 『It's so cute. excited』


 『足の角度がいいね』


 『他のポーズもやってえ』


 『みえ』


 盛り上がってるなあ。ただ、相変わらずレイヤのスカート管理が甘く、ポーズをとる度にパンチラの危険があった。


 俺は、クマさんの人形を置いたり、手を間に入れたりとパンチラブロックに神経を注いだ。この状況で垢バンは笑えない。次は絶対スカートで配信はさせん。


 その【地面から魔力を吸い出すポーズ】で最後にしていただきたい。


「そういえばカチューシャをオマケにもらってたな。レイヤ、せっかくだし着けてみるか?」


 『凸さんナイス』


 『さす凸』


 『無害そうにしてるけど。一番の変態こいつだからな』


「誰が変態だ。ほらこれ……ん?このカチューシャ、猫耳ついてる」


 『猫耳きたーーーーー』


 『今やってるエクスカリバーの特典ですね』


 『やっぱ変態じゃねえかwww』


 『猫耳のじゃロリきたな』


 『ね こ み み や っ た ぜ』


「そ、それはちょっと恥ずかしいのじゃ………」


 レイヤが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。


 『かわE』


 『ぐへへ』


 突然RINE《ライン》がうるさいな。仕事か?


『猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫ハアハアハアハアハアハア猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳猫耳』


 ノ宙からかよ! ちょっと黙れ!


 コメント欄が狂喜乱舞する中、頑張って猫耳カチューシャを付けたレイヤは、照れた姿が掛け算となり大好評であった。たしかにとてもかわいい。


 猫耳を付けながら「のじゃ~のじゃ~」と目を回したところで配信は終わった。次の配信で装備をしてなかったら、リスナーの暴動が起きるのは間違いない。


 


==御礼=============

いつも読んでいただきありがとうございます。

また☆、♡、フォロー、本当にありがとうご

ざいます。大変励みになっております。

ここまでが第一部となっております。

気に入っていただけましたら、ぜひ☆をお願い

いたします。

第二部もどうぞよろしくお願いいたします。

=================

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る