第10話 朝シャワーは欠かせないのじゃロリ

「朝じゃぞ~。 起きるのじゃ!」


 レイヤの声と謎の重さを感じて俺は目を覚ました。今日は日曜日。東小和ダンジョンでのコラボ配信の翌日だ。


「重いよ……上に乗らないで……」


 どうやら俺の上にレイヤが馬乗りをしているのが原因だったようだ。


「ラーメンを食べに行くのじゃ!」


「まだ朝の9時じゃないか。ラーメンは昼だ」


「のじゃ~。でも、お腹は空いているのじゃ。何か食べたいのじゃ」


 そう言いながら困ったようにお腹をさすっている。そこに食パンがあるじゃないかと思ったが、昨日打ち上げから帰宅した後、小腹が空いて食べてしまったことを思い出した。


「……コンビニ行くか」


「そうするのじゃ!」


 レイヤとの同居も一週間が経ち、この生活にもだいぶ慣れてきた。


「ハムが入ったおにぎりがいいのじゃ」


 自分が女神であることを思い出したので、少し俺への対応が変わるかなと思っていたが、全くそんなことはなかった。相変わらずマイペースに遠慮なく、この生活を楽しんでいるようだった。


 その振舞いは、600歳どころか小学校低学年くらいにしか感じないのだが。お姉さん感が足りない。


 なんとまあ、レイヤの髪が寝ぐせで爆発している。ちょっと面白い。パイナップルのようなヤシの木のような髪型になっている。


 簡単な上着だけを羽織りコンビニに向かう。


 徒歩二分の近所のコンビニだし、身支度は最低限だ。


「お、に、ぎ、りと~コーラじゃ~!」


「朝からコーラはやめなさい。野菜ジュースにしなさい」


「……ミックスジュースでもいいかの?」


「許可します」


 俺は母親か。


「お金の払い方は完ぺきなのじゃ。お姉さんじゃからの」


 レイヤは楽しそうにタッチパネルを操作しているが、店員さんがその爆発したパイナップル頭を見て笑っている。帰ったら直してあげようと思った。


 ****


 朝食の後、部屋の掃除をする。


「魔法使い用の杖を買いに行こうか」


 掃除をしながら俺はレイヤに行った。


 昨日、ダンジョンを潜りながら考えていたことだ。今現在魔法を使えないが、装備はあっていいはずだ。


「やったのじゃ! さあ買いに行くのじゃ!!」


「おいおい、まだ掃除中だよ。それに、せめてその髪を直してからにしよう」


 掃除を終えた後、髪に寝ぐせ直しを付けてヘアブラシを通してやる。


 しかし、全くだめ。抵抗するように、ぴょんぴょんぴょんぴょん白髪が跳ねやがる。


「ごー、シャワー、ごー」


 もう頭を洗った方が早い。


「しょうがないの。ごーシャワーしてくるのじゃ」


 シャワーに向かうレイヤを見送り、俺はパソコンを開いた。


 クラウド上にある昨日の配信動画をパソコン内にダウンロードをした。あとで20分の見どころ版切り抜き動画と30秒程度のショート動画を作成しなくてはならない。


『おっさんが行く! 廃墟ダンジョン解説チャンネル』は登録者数が15万人を突破した。ちなみに『イク』の字はこっそり漢字に変えた。登録者数が増えてくると流石に恥ずかしい。


 昨日の配信動画だけでも200万再生を超えた。昼間市ダンジョンの配信と合わせると300万再生はある。未許可の切り抜き動画や解説動画を含めたら、もしかしたら600万再生以上はあるかもしれない。


 この感じだと収益は20万円は軽く超えるだろう。動画2本でこの勢いは嬉しい誤算だった。始めた当初は、お小遣い程度になればいいなあくらいだったのに。


 このままなら冒険者一本で生活できるのでは? なんて考えてしまう。この人気が維持できれば今の年収なんて軽く超えるだろう。独身だし、これなら王族のような生活が可能だ。


 ただ、俺はサラリーマン気質が強い。空山先輩のように独立したいとは微塵も思わないし、今の職場を辞める勇気もない。個人事業主はやっぱり怖いのだ。金だけの問題じゃなかったんだなと強く実感する。


「凸~~~~~。着替えを忘れたから持ってきて欲しいのじゃ~~~~~~」


 レイヤの声がする。たしかに持っていった雰囲気はなかった。タンスから下着と適当な服を取り、脱衣所においてやる。ついでに、脱ぎ散らかされたレイヤの下着や服を洗濯機に放り込む。


「ここに着替えを置いたからな」


「助かるのじゃ」


 あー! すぐに浴室から出てくるな! 裸のまる見えは流石に慣れていないから! そのまな板をすぐにしまえ!


「ああ、すまんのじゃ! なかなかせくしーじゃろ? これが女神だけが持つ色気なのじゃ」


「はいはい叡智叡智」


 昨日の話はなんだったんだ。貞操概念ガバガバじゃねえか。


 ****


 レイヤの杖を買うために、車で昼間市のショッピングモールへ向かった。


 俺は昼間市内にあるマンションに住んでいる。ここは、よく利用するアウトレット型の大型ショッピングセンターだ。冒険者用品の取り扱いも多く、なにより安い。そして、アウトレットといいつつ新品も置いていたりする。


 廃れたとは言え、昼間市ダンジョンがある影響だろう。住民に冒険者が多い街だったりする。


「杖を買ったらリスナーの奴らに報告したいのじゃ」


「それはいいかもな。配信のお知らせをしといて」


「了解なのじゃ」


 レイヤはたまにSNSのZでリスナーと交流をしている。ノ宙とコラボが決まってからやるようになった。不器用ながら、音声入力で頑張ってつぶやいている。


 レイヤ:『今日は杖を買いにいくのじゃ! 買ったらお知らせするの。かわいい杖を買う予定なのじゃ。楽しみなのじゃ~』


  『まじか! 楽しみ』


  『どんなの買うんですか?』


  『今日は潜らないん?』


  『なんで杖? 盾じゃないの? タンクでしょ』


  『かわいすぎでは?』


  『今日も髪の毛サラサラですね! 何を使ってるんですか?』


  『きゃわE』


  『たまには違う服が見たいです。 ワンピースもかわいいけど』


  『のじゃのじゃ』


  『昨日の活躍感動しました』


  『一人ですか? 樹木型の杖が似合いそうですね』


 レイヤ:『ふふふふふ。これは強くなってしまいそうなのじゃ。お前ら正座して待つのじゃ』


 リプで溢れかえっている。時には誹謗中傷に近いリプも送られてくるようになったが、レイヤは全く気にしていないようだった。変わらず楽しそうに交流している。


「先にラーメン食べちゃうか。何がいい?」


「チャーシューが多いのがいいのじゃ!」

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