第9話 バズる2

「かんぱーい!! 祝! トレンド一位! 結果的にはコラボ大成功ですね! 魔石も武具も高く売れたし、うふふ、しかも登録者数は爆増ですよ。ほんっとうに凸さんには頭が上がらないです」

 

 ノ宙さんは生ビールをグビグビと飲みながら、嬉しそうにスマホを見ている。


 救急車の手配とダンジョン協会への報告を終え、ようやくの晩飯だった。もちろんコラボ配信の打ち上げを兼ねている。うどんが美味しい居酒屋だ。

 

「見てください凸さん! あの鯨次郎くじらじろうさんが『いいね』をしてるんですよ!」

 

 ついにナンバー1冒険者の鯨次郎くじらじろうにも見つかってしまったか。

 

 Zのトレンドも一位だ。


 その効果はとてつもなかった。しかも今回は『そらちゃんねる』の拡散力が合わさって前回以上の反響だ。


 登録数は止まることなく増えている。そろそろ仕事をしなくても動画収入だけで生きていけるんじゃないだろうか。


 軽くエゴサをしてみる。


『東小和のダンジョンの奴が一番やべえ』


『救出された冒険者達の意識が戻ったみたいですね。よかったです』


『最近の冒険者は業者。勇者時代の英傑達が泣いている。ただ、久しぶりに凸という勇者を見たのも確かである』


『よく死ななかったというのが正直な感想です。特に旧型ダンジョン内においての渋矢オークとの遭遇はもっと問題視されるべきです。また新型【脱出の魔石】の開発が依然として進んでいないのも、現体制による冒険者軽視という…さらに表示』


『宙宙のおパンツ…………』


『女神ってなんだ? てか鈴木の能力やばすぎんだろ。実質S5ランクじゃねえか』


『東小和組がエモすぎたのでイラストにしてみました』


『のじゃロリの服が破れてから助けていただきたかった』


『のじゃロリちゃんが一番好きだけど言いにくい。薄い本待ってます』

 

 危険な変態がいるな……。あとで他のSNSも覗いてみるか。盛り上がっているのはやはり嬉しい。


 しかし、事態は違う方向にも進み始めていた。居酒屋のテレビでは、全国ダンジョン協会のお偉いさん達が会見をしていた。


「今後、残存する旧型ダンジョンの総点検を実施します。ただし、今回の、旧型ダンジョン内における全国同時多発的な高ランク種への遭遇は、現在のダンジョン運用規約にある『ダンジョンの不確実性』の範囲であり、冒険者の皆様にはより一層の注意喚起を行っていく次第でございます」


 旧型ダンジョンとはAランク以下のダンジョンのことだ。ちみにSランク以降を新型ダンジョンという。


「まさか全国各地で新ダンクラスの魔物が出現してるなんてな。みんな無事でよかった」


「その中でも私達が一番危なかったみたいだけどね。ほんと、死んじゃうかと……ひっく……」


 またノ宙さんが泣き出した。今回はお酒のせいかもしれない。いつの間にか日本酒が追加注文されている。飲むが早い。

 

 一方で、レイヤはちまちまとオレンジジュースを飲んでいた。


「酒は飲まないのか?」


「女神じゃからの。お酒も飲まんし、貞操も守っておるのじゃ」


 その情報いる? まあ神様が淫乱だとちょっと……。いや、むしろ有りだわ。淫乱であって欲しい。


「ところで、その女神って何の女神様なんだ? 魔物達にはよく知られているようだったけど」


「そうじゃな。こことは異なる世界、ユグドラシルという世界のダンジョンの女神なのじゃ」


「ユグドラシル……。ダンジョンの女神……」


「人の心がある限りダンジョンは必ず生まれるのじゃ。しかし、そのままでは災厄となってしまう。わしはダンジョンを管理し、そこから生まれた魔物を外にでいないようにしていたのじゃ」


「なるほど」


 分かったような、分からんような。


「その女神様がなんで閉じ込められてたの?」


「魔王のせいなのじゃ……。魔王はわしを封印し、この世界にダンジョンを作ったのじゃ……。このままでは世界が滅ぶ。頼む、凸の力で魔王を倒して欲しいのじゃ!!」


 レイヤの表情がいつになく真面目だ。いきなり魔王を倒してくれって言われてもなあ。


 ん、魔王? おれはオーチューブで検索をした。やっぱりこれだ。レイヤにその動画を見せる。


「これは……魔王なのじゃ!!」


「やっぱり。魔王はもう11年前、2012年に倒されてるな。ほら、今テレビに映ってる太った男」


 一生懸命会見をする事務局長の隣にいる、偉そうに座る男だ。


「あれがダンジョン協会の会長で、魔王を倒した【勇者】だよ。」


「の、のじゃ!! のじゃ~↑↑?」


 言葉に詰まると『のじゃ』しか言わなくなる。ちょっとかわいい。


 昔は凄くかっこよかったんだ。俺達の世代はみんなあいつに憧れて冒険者になったんだ。


「うどん食うか?」


「の、のじゃ……。カレーがいいのじゃ……」


「はいよ。すいません、肉2つに、カレー1つください」


 レイヤはまだ少し混乱しているようだ。倒すべき宿敵がもはや死んでいたんだ。混乱もするだろう。


「昔はさ、冒険者じゃなくて【勇者】って言ったんだよねえ。今は会長だけの肩書になったけど」


「そうよ~~~! 昔はみんな勇者だったんだよね~~~。懐かしいなあ」


 ノ宙さんが会話に入ってきた。のしかからないで。おっぱいやばい。

 

 いい感じにでき上ってるな。酒くさいが、楽しそうでよかった。


「2012年まではAランクが最高ランクだったんだよな」


「そうそう、新塾しんじゅくのやつだよね。勇者様の魔王討伐配信、子供の頃に学校で見た! 今でも動画見ちゃうな~」


「俺は新塾の電気屋で見てた。当時大学生だったな。倒した瞬間、知らない人と抱き合ったわ」


「ダンジョンから魔物が出てくるのは時間の問題って言われてたしね。悲観して自殺しちゃう人もいたし、みんな本当に怖がってたなあ……。ついに平和になったって。あんなに嬉しいことはなかったな。ぐす……」

 

 ノ宙さんまた泣いていらっしゃる。分かった、泣き上戸だな。


 気持ちは分かる。あの時の高揚感が忘れられないからこそ、ノスタルジックな廃墟ダンジョンに惹かれるのかもしれない。


「まあ半年も経たない内に横波間よこはまにダンジョンが出現して絶望するんですけどね」


「あはは! わかる~。魔物が出てこれないことがすぐに分かってよかったよね」


「そういえば。そうか、レイヤの力で魔物がダンジョンから出られなかったのか」


「そうじゃ。魔力が残っていたのじゃな。ズルズル。よかったのじゃ〜」


 先ほど運ばれてきたカレーうどんを一心不乱に食べながらレイヤは言った。


 知らない内にレイヤに守られていたのか。


「頭を撫でるのはやめるのじゃ! ズルズル。 ワシはお姉さんなのじゃ! ズルズル」


 ちょっと嬉しそうなくせに。あーあ、服にカレーを飛び散るだろが。せっかく買った白のワンピースが……。


「あはははは! レイヤちゃんのワンピースやばー!」


 って、ノ宙もビールをひっくり返してんじゃねえよ!!! あーあーあー。


 楽しすぎて月曜日に仕事行きたくない。トレンドのことも説明しなくちゃいけないし。


 とりあえず明日のことは忘れて思い切り楽しもう。コーラの追加ください。

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