第8話 能力覚醒
剣士型のオークが、戦士型による弓攻撃の支援を受けながら距離を縮めてくる。
大きな盾を持った戦士型は、魔術師を守るために前に出てこない。こちらの魔法に注意しているのだろう。
残念ながら俺達の魔法使いはタンク役として前線だ。
「矢がうるさいのじゃ」
ハエを叩き落とすように飛んできた矢を叩き落とす。レイヤの防御力はちょっとずるい。
剣士型はびびって距離を詰めるのに
「凸さんありがとう、傷はもう大丈夫です」
レイヤの足が回復した。このまま反転、一目散に逃げだすのもありかもしれないと思った。だが、
「ハイファイアだ!」
魔術師型が上位攻撃魔法を放ってきた。ドカンという爆発音。なんとか避ける。
ですよね。早々に逃がしてなんかもらえませんよね。
ノ
退路を確保しつつ、魔術師型オークを倒すことだけに集中する。【脱出の魔石】さえ使えるようになれば俺達の勝ちだ。
「ノ宙さん、剣士型と戦士型は俺とレイヤで引き付ける。その間に魔術師型への攻撃を頼んでいいか?」
「もちろん! まかせてください」
「ありがとう」
せめて自分のステータスの数値が50あれば。不甲斐なさに腹が立ってくる。
「レイヤ! 剣士型を頼む!」
「頼まれたのじゃ~。ふっふっふ、必殺魔法をくらうのじゃ!!」
間違いなく嘘だろう。S5の攻撃魔法を思い出しているなら、そもそもこの戦いになっていない。ただ、剣士型はめちゃくちゃビビってるようだ。
あちらの戦いだけまるで緊張感がない。
一方で、こちらはハイファイアの雨である。ちょっと本当にきつい。
あ、ちょっと弱まった。
その隙に戦士型に突進する。飛んでくる矢を叩き落とし、ノ宙さんの進路が広くなるようにしながら距離を縮める。
オークの素早さはそれほどではない。俺は刀を振り下ろした。
ガツン! ガツン! ガツン! 全くダメージが入らない。
盾の上はもちろん、肉体に届いても刀の先っちょすら入らない。
ただ、これは分かっていたことだ。ノ宙さんが魔術師型と一対一で戦う時間を作るため、攻撃を止めてはいけない。
ガツン! ガツン! バキッ!
刀が折れたか。体制を立て直し、すぐに収納魔石から予備の刀を取り出す。
もう一度――――――。
「た、助けて欲しいのじゃ……」
レイヤが―――剣士型の右腕に抱きかかえられている。捕まったのか―――。捕獲の前では防御力なんてステータスは無力だ。
助けにはいけない。今、ここを離れたら今度はノ宙さんが危険になる。幸いレイヤには防御力がある。刃物、魔法は通らない。捕まえても何もできないはずだ。もう少しだけ我慢して―――。
レイヤのワンピースに、オークの太い指がかかる。服を破くつもりか―――。クソ性欲豚野郎が。くそったれ!!!!
最大速度。目標は剣士型の人差し指から小指の関節部。肉が一番薄いところ。力の限り振り下ろす。
ガチャアン!!!! 刀が砕け散る。もちろん肉は切れない。ただ―――。
「グアアア」
剣士型の鈍い悲鳴。手が痺れたようだ。剣士型は、放り投げるようにレイヤを手放した。
「うわああああん! 怖かったのじゃあ!!!」
レイヤの手を取り、すぐに距離をとる。無事でよかった。ノ宙さんは―――どうやら撤退したようだ。さすがSランク、判断が的確だ。
しかし、状況が振り出しに戻ってしまった。しかも同じ戦法は通じない。レイヤの弱点が分かってしまったのが痛手だった。
俺に力があれば―――。くそっ! 考えるんだ。思考しろ。諦めるな。
ふと【経験値の魔石】のことを思い出した。
もしレベルアップによるステータスの上昇があれば―――。いや、もしノ宙さんのステータスが2~3上がったところで状況は好転しない。
だからと言って、俺はもっとダメだ。最後のステータス上昇は5年前だ。レベルアップはステータスの上昇を必ずしもともなわない。だからこそ、レベル表示はステータスから消えたのだ。
この間のスライムアクアマリンを倒してもステータスは上がらなかった。
じゃあ、何もせずにただやられるのを待つのか? ここはギャンブルをするしかない。
万が一物理攻撃力の数値が3あがれば、俺のステータスは4倍で52まで引きあがる。
その数値なら最低限のダメージを与えられるはすだ。ノ宙さんと共闘ができるようになる。
魔石を使うなら間違いなく俺だ。
願いを込め、経験値の魔石を取り込む。
…………。
状態:倍率ステータス中(4倍)
効果:レベルアップ
物理攻撃力 40 B
物理防御力 40 B
魔法攻撃力 40 B
魔法防御力 40 B
数値が変わっていない……。
だめか……。頭を抱えた。オーク達がニヤニヤと笑っているようだった。知能が高い分、こちらの状況が分かるのだろう。楽しんでいるのだろう。腹が立つ。
「凸さん! コメント欄を見て!」
コメント欄? そうか、配信を切っていなかったのか。
『スキル!!』
『スキル見てて』
『変わってら』
『リセマラ!!』
『解放記念ってなんだよ』
リセ……マラ……? なんだそれ。俺はスキル欄をしっかりと見た。
スキル
【リセマラ付き】倍率ステータス【女神解放記念】
なにそれ。リセマラ? 女神解放記念?
突然、レイヤが頭を撫でてきた。
「……どうした?」
「なんじゃろな、やらなきゃいけない気がしたのじゃ」
それが合図だった。
ステータスが動き出す。
4倍、4倍、2倍、1倍、3倍、5倍、4倍、4倍、4倍……。
何度も倍率の抽選ができるのか―――。たまに弱くなるけど……。これはもしかしたら。
カチリと数値が止まった。
現れた数字は、これ以上はない。ここでリセマラ終了だ。
倍率10倍―――。能力値―――100。ランク―――S5。
『きたーーーーーーーーーーーーー』
『これでかつる』
『S5!!!!!100!!!!!』
『SSRだあああああああああ』
『オークおかしたれ』
『確変きたこれ』
『勝ったな』
『ああ』
力が湧いてくるのが分かる。
「凸さん……」
「俺に任せろ」
「やっぱり、わしは女神っぽいのじゃ。おっぱいはないのじゃが……。少しだけ思い出したのじゃ」
「あとでゆっくり聞かせてくれ」
クソオークが。まだニヤニヤ笑ってやがる。勝った気でいるのだろう。ここからでも分かるくらい下半身の一部が肥大してやがる。興奮が抑えられないのだろう、少し弄り始めている。気持ち悪くて近付きたくもない。
魔石から予備の刀を三本取り出し、オークの頭部に向かって思い切り投げつけた。
ドン!!!! ドン!!!!! ドン!!!!!
刀が三匹の頭部を貫通する。そして、膝から崩れ落ちて魔石へと変化した。周囲には奴らが使っていた武具が転がった。
はい、おしまい。
「やったのじゃ!!!」
「やりましたね!!!!!!」
レイヤとノ宙さんが俺に抱きつき泣き出した。俺も安心して泣きそうだ。勝ててよかった……。
『やったぜ』
『よかったよおおおおおおおお』
『みんな生きてた……』
『凸さんやりましたねえ』
『のじゃもよくやった!』
『ノ宙さんのショーツ隠してあげて。とにかく無事でよかったよう』
『ノ宙さんが無事で本当によかったです。凸さん、のじゃさんには本当に感謝します』
コメント欄に祝福の声が溢れる。ありがたい。
「いえ、スキルの変化を教えてくれた皆さんのおかげです」
『野球のヒーローインタビューみたいやなwww』
『明日も勝つ!!!!』
『それな』
『やはり最後は俺達の力だったか』
『さす俺』
『Zのトレンド1位ですよ』
『草。すげえわ』
トレンド1位……。前回以上にバズってるな……。また今後の対応を考えなくては。
*****
俺達は配信を続けたまま隠し通路を通り、あっという間に隠し部屋に到着した。
そこには、捕らわれた冒険者達がいた。
男2人に女2人。休憩した広間で見た顔だった。薬で眠らされているが、戦いの外傷以外に傷はなかった。
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