第7話 襲撃

「昔、この最深部にはボスとしてオークがいました。当時としてはかなりの攻撃力を持っていたそうです。単独による基礎能力のごり押しが特徴です。現在では下位ランクのオークの特徴として知られてますね」


『はええ』


『俺そこで死んだんだよなあ』


『今日は亡霊ニキ多いね。成仏して』


 あれっと思った。【隠し通路】のスキルが発動している。このフロアに隠し通路があるのかもしれない。


 調べたいのは山々だが、色々考えた結果、やはりどんな魔物がでてくるか分からない。映えを優先してノのそらさんを危険に晒すわけにいかない。今回は無視をしよう。


「さて、何もいないですね。【脱出の魔石】を使いましょうか」


「ちょっと待ってください。奥、なんかキラキラ光ってませんか?」


『まじか』


『たしかに光ってるわ』


『誰がハゲやねん』


『前回、それで凸さんが隠し部屋を発見されてましたよ!』


『行ってみようぜwww』


『二人目ののじゃロリくる――――!!!!』


 コメント欄が盛り上がってしまっている。あまりいい流れではない。ノ宙さんに危険性を耳打ちした。


「そうなんですね……。ただ、盛り上がっちゃってるし……。ちょっとだけ、ちょっとだけのぞかせてください! 危なそうならすぐ逃げますから」


 そんな感じで押し切られてしまった。まあ、Sランクの冒険者だし間違いはないだろう。


「凸さんのスキル【隠し通路】が発動してたらしいよ! やる男ですよ、この人は」


「いや~発動しちゃいました」


『さすが凸さん!』


『レアなスキル持ってますなあ』


『そんなスキルあるんだ』


『危ないからやめとけ』


『さす凸』


『wkwk』


『他のダンジョンにも隠し通路がありそうですねえ』


『ノ宙ちゃんの隠し通路()』


 俺とノ宙さんで光る壁に近づく。この先はどこに繋がっているのだろうか。


「いかん! 逃げるのじゃ!!」


 レイヤの大声がダンジョン内に響いた。


 弓矢が―――――――。


 配信に気を取られ過ぎて、気付くのがわずかに遅れた。


 「ああっっ!!!!」


 鈍い悲鳴が上がった。ノ宙さんの太ももに矢が刺さっている! 出血もひどい。スカートが血塗れになっていく。


 ノ宙さんの前に立ち、第二波、第三波の矢での攻撃を刀で叩き落とした。


 ガチィ! ガチィ! 刀が押し込まれそうだ。攻撃が重く鋭い。


「レイヤ、ポーションをくれ!!! あと【脱出の魔石】だ!!」


「すぐ準備するのじゃ!!!!」


 攻撃が止んだ。ノ宙さんの肩を抱き後退する。


「ご、ごめんなさい……」


 申し訳なさそうにうな垂れている。


 この矢の形状……。そして、Sランクの防御力を貫く攻撃力……。まさかな……。


「大丈夫、話は後だ。すぐにここから脱出する」


「だめじゃ!! 魔力の妨害じゃ! 【脱出の魔石】が封じられておる」


「―――わかった。とりあえずポーションをくれ。……奴らがもうすぐここに来るぞ」


 ノ宙さんのスカートを切り、太ももから矢を抜いた。そして、止血と同時にすぐにポーションをかけた。ヒールではないので完全回復には時間がかかる。

 

「ごめんね……私が行こうなんていったから……」


「気にしないで。魔力妨害のせいで、どうせ脱出は無理だった。治ったら頼らせてもらうよ」


 考えられる中で最悪のケースだ。


「オーク種じゃな。かなりの能力じゃ。三匹いるのじゃ」


「ああ、渋矢シブヤオークだ。まったく、最悪の魔物だよ」


『ノ宙さんのおみ足がああああああああああああああ』


『通報だ通報だ』


『凸さんありがとおおおおおおおおおおおおおお』


『凸さん!!!!!!!』


『ちょっと待ってちょっと待って』


『何が起こってんの?』


『あああああああああああああああああああああ』


『大丈夫?』


『は? 渋谷オーク? は?』


『仕込みだろ』


『↑なわけねえだろ!!!! 消えろ!!!!』


『S3クラスって……オワタ……』


 渋矢オーク―――。東京都渋矢区にあるS3ダンジョンの中層が主な出現場所だ。


 身長は約3m。3~4匹がパーティを組んで人を襲う。個体は全て同能力でありながら、各々が役割を持っている。特にやっかいなのが、魔術師のオークが【脱出の魔石】を封じてくることだった。姿は似ても低ランクのオークとは生態が全く違う。


 物理攻撃力  72  S3

 物理防御力  72  S3

 魔法攻撃力  72  S3

 魔法防御力  72  S3

 個体名:渋矢オーク  種別:オーク



「とにかく、魔術師の役割を持ったやつを倒す」


「ワシも手伝うのじゃ」


「助かる。タンク役を頼む」


「了解じゃ」


 緑色の豚の巨人が、壁を通り抜け、姿を現した。


「さあ、気合い入れてけよ」


「メガミダ、メガミダ」


「メガミ、オカス。ホメテモラウ」


「アナヲクレ。マダアナガタリナイ」


 全く汚ねえ魔物だ。装備的に剣士、戦士、魔術師か。


 しかも、よく見れば、血痕のついた服の切れ端を持ってやがる。すでに犠牲者がいるのか。


 防御はレイヤのふざけたランクのおかげでなんとかなる。問題は火力だ。圧倒的に火力が足りない。


 ノ宙さんの攻撃力でギリギリか。俺の攻撃力じゃあ、猫じゃらしで人を叩くようなもんだ。


 さあ、どうやって戦うか―――。

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