第6話【朗報】おっさん強かった

 おっぱい、でかいなあ。

 

 ノのそらさんをしみじみと見る。何を食べたらこんなに育つんだろう。


 昼休憩中ということもあり配信を止めている。休憩場所はダンジョンの中層途中にある広間だ。


 内部構造が変わる可変型ダンジョンのため、休めそうな場所があればしっかり休むのが鉄則だ。他の冒険者パーティも食事休憩をとっている。

 

「凸さん、私、お昼作ってきたんです。よかったらどうですか?」


「本当? 嬉しいなあ。ありがとう。お昼を絶対持ってこないでって言ったから何かと思ったよ」


「コラボのお礼です! めっちゃがんばりました。ありがたく食べてくださいね。レイヤちゃんもどうぞ」


「お肉か! おいしそうじゃの~」


 レイヤさん。その足の動かし方は下着が見えますよ。今日もレイヤのパンツは白か……。そうだよ、一緒にお店に買いに行って、白のパンツしか買ってないし当然だよ。洗濯して、毎日干してるのも俺だよ。


 おっと、油断しているとレイヤに料理を全部食べられてしまう。


 ノ宙さんが作ったというのはカツサンドか。どれ一口。


 パンに挟まれた肉厚のとんかつが、中濃ソースと絡んでうますぎる。


「おいしいでしょ。おいしいって言って。凸さん、おいしいよね?」


 そんなに近づかないで。おっぱいも近いから。いい匂いだから。


「おいしいよ。かなり」


「よかったあ。レイヤちゃんとちがって、凸さん表情に出なさすぎ! ボーっとしちゃって。お疲れかな?」


「ああ、うん。ちょっとだけね」


 太もも、とってもいいなあ……。挟まれたい……。


 ―――ダメだ。何を考えているんだ俺は……。頭が叡智じゃないか。


 喋りに気を使いすぎたせいで脳みそが完全にマヒしてやがる。仕事のダメージが今出ているのかもしれない。まったく、三大欲求が踊り狂ってやがる。


 いつも通り少し昼寝をするか……。


 東小和ひがしこわゴブリンが死に際に言い放った言葉が気になるのは確かだった。どうやらあの言葉はリスナーに聞かれていなかったようだ。聞かれたらちょっとした騒ぎになるかもしれない。


 ……眠い!……おやすみ―――。


「なあ凸よ」


 ―――寝させてくれレイヤ。寝ないと三大欲求の踊りが止まらないんだ。あれ、なんか……今日のレイヤちょっとエッッッッッッ。


「レイヤ……今日は、なんかとても叡智に見えるよ……」


「変態がいるのじゃ」


 ああ……蹴らないで。


「『メガミ』ってどうことじゃろな。あのゴブリン、ワシの目を見ながら言っていたのじゃが」


 やっぱり気になるか。


「そのままの意味なら女の神様ってことじゃないの? 女神さま……は、おっぱいとお尻と太ももが太いんだよ……」


 もはや自分でも何を言っているのか分からない。


「ワシ、その条件を何も満たしていないのじゃ……。誰かと間違えているのかのお……」


「これから成長するんじゃない?」


「のじゃあ……もういいお姉さんなのじゃが……」


 ここで俺の記憶は途絶えた。眠気には勝てなかった。レイヤすまん。


 ****


「お待たせしました。それでは後半戦のスタートです。まだメタルゴブリンとは遭遇してませんので、なんとか見つけて倒したいですね」


『がんばれ!』


『次はお昼も配信してー』


『旧型のダンジョンは最深部まであっという間やね』


『焼きそば食べてきた』


 一眠りして頭もスッキリしたし、後半は解説だけじゃなく積極的に戦っていこうと思う。そろそろ、「あいつ、『ずんだ餅』の合成音声でいいんじゃね?」と言われかねない。後半は戦いもかんばるのだ。


「ここには隠し通路はないんじゃろうか?」


 レイヤが不思議そうに尋ねて来た。


「まだ半分近く残ってるし、これからあるかもな」


 配信的には大きな見どころになるだろうけど。またS4クラスの魔物が出てきたらたまったもんじゃない。


「あ、魔物じゃ。おお! ついにメタルゴブリンじゃ」


「いっちょやるか」


「絶対逃がさないようにしようね!」


 魔石から日本刀を取り出し構える。全身銀色のゴブリンが1体。魔物ランクはA。このダンジョンにいたボスより強い。倒せばS3クラスの経験値が手に入るのだが、いかんせん逃げ足が速い。


 物理攻撃力  60  S

 物理防御力  47  A

 魔法攻撃力  1  E

 魔法防御力  47  A


 個体名:メタルゴブリン 種別:ゴブリン


 攻撃力の数値を分解するとほとんど【素早さ】と言われるタイプだ。ただ、このスピードが攻撃力のブースターになることも多いため油断できない。


「私が回り込んで逃げ道を塞ぐよ!」


「わしは応援じゃ。がんばるのじゃ~」


『がんばるのじゃ~』


『がんばるのじゃ~』


『メタルゴブリン速いからなあ』


『にげちゃらめえ!!!』


 ノ宙さんの方に誘導しながら距離を詰める。―――たしかに速いが追いつけないほどでもない。


 これなら! 


 ズガン!!! という鈍い音がする。切断しきれない。


 メタルゴブリンに対してステータス負けしている。やっぱり一撃では無理か。すぐに立て直し、二撃目を全く同じ部位、メタルゴブリンの肩口を狙って振り下ろす。


 ズバシュ!!!!!! よし! 通った。


「グアアアアアアア」という悲鳴と共にメタルゴブリンが倒れ、身体は魔石に変わった。【経験値の魔石】だろう。


「やりました! 討伐完了です! ステータス上がるといいなあ。このスキルのせいでなかなか上がりずらいんですよ。あはははは」


 我ながら良い撮れ高だと思う。


『なんだ今の動き……』


『チートだろ』


『Bランクの動きじゃねえ』


『2Sランク以上のスピードはあったぞ』


『ステータスの数値間違ってんだろ』


『引くわ(引くわ)』


『みんなドン引きだよ!!!』


『どこで修業したんですか?』


『Oh……』


『かっこよかったです(≧▽≦)』


 なんかみんな引いてる……。


「修業じゃないですが、仕事でSランク帯を潜ることが多いんで自然とですね。人手不足なんで、保険金申請の現地調査もやってます。あ、俺、本職はダンジョン保険の販売してます……」


『普通、自分のランク以上は仕事でもそうそう潜らないよ』


『よく生きてんなあんた……』


『【朗報】おっさん強かった』


『ステータス数値なんて所詮飾りですよ(飾りとは言ってない)』


「凸さん!! 前の配信の時にも思ってましたけど、めっちゃ!!! 強いですよね!!!」


 ノ宙さんが凄いキラキラした目で俺を見てくる。そんなに凄いのか? 一人でしか潜らないから全然分からん……。


「ふふふ、リスナーさん達、凸の強さを理解できたようじゃな! だが~まだまだじゃ!」


 師匠的な上から目線だなあ。もし『メガミ』が『女神』で、それがレイヤのことだったら、この感じは許されるのか。


 その後、メタルゴブリンとは一度も遭遇をしなかった。


 気付けば下層を抜け、ダンジョンの最深部に到着していた。

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