The Fifth Day(1)
『うーむ・・・・・・お大事な。また熱が引いたら言ってくれ』
「本当にすいません・・・・・・」
美結は横川と電話をしていた。
現在時刻は午前5時45分。
電話の内容で分かる通り、美結は風邪を引いた。
それも、熱は40度台。
「あー、やば。目眩が・・・・・・頭痛もするし・・・・・・」
熱があまり高くなければ無理に動いて事件のことを捜査するのだが、さすがに無理だと思う美結だった。
――◆――
さて、場面切り替えが速いなと思った読者の諸君。
ここからは少し事件の話をしようではないか。
今回の事件の容疑者の話をしただろうか、いやしてないだろう。
被害者は塚田浩聖さん48歳。
とある大企業の社長だ。
年収は大企業の社長なだけに3000万は余裕で超えているし周りから恨まれる要素もあるだろう。
だが、塚田はそういう人の不服を聞き入れ改善していく素晴らしい社長だった。
給料の問題、人事の問題など数え切れないほどの問題に対処してきた。
その彼が殺される理由が思い当たらないという社員がほとんどだろう。
さて混乱している読者の諸君もいらっしゃることだろう。
少しばかり今回の事件についての真相を語ろう。
これ以降真相となるので最後まで知りたくない人は次の話まで飛ばしてくれると助かる。
◆
話をするには事件3日前に戻る必要性がある。
その日は生憎の雨だった。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
いつも通り塚田は出勤してくる社員を笑顔で迎える。
いつも通りの朝で特に何も言うべきことはない。
ただ、今のところ皆勤賞だった山口が出勤していないことを除いては。
塚田は無断欠勤となる山口に少し疑問を覚えつつ、風邪でも引いたか、と勝手に理解した。
山口はいつも真面目に出勤して仕事をしているのであまり気に留めなかった。
1回の無断欠勤、誰にでもあるだろうと妥協していた。
時間は同じにして、山口。
山口は昨日急遽亡くなった祖父のお通夜の準備をしていた。
場所は事件が起こった東京都から大きく離れて愛知県。
これは事情聴取で話していないことだ。
彼は幼い頃から可愛がってくれた祖父が亡くなった現実を受け入れられなくて職場に連絡を忘れていた。
少し視点をずらして林崎。
林崎はこの日は会社に普通に出勤していた。
特に言う事はない。
次に福島。
彼は同僚に移された風邪で寝込んでいた。
熱は高めで仕事を休まざる負えなかった。
この日、福島は歩くことさえ困難だった。
最後になるが、田中。
田中はこの日は林崎同様言うことはない。
会社に普通に出勤し、定時で上がっている。
さて、それぞれ容疑者の話をしたが、1人分だけ違う人がいる。
それは後ほど話そう。
場所は変わって事件現場となった山へと焦点を写す。
こちらでは1人の人影が罠を作っていた。
罠とは・・・・・・それも後ほど。
雨の中1つの人影のみが動いていた。
◆
事件前日は動きがなかったので飛ばさせてもらおう。
2話ほど前に事情聴取の内容を載せたが・・・・・・。
それとは別で話をしよう。
事件当日の17時から動きがあったのでそこから話させてもらう。
「あ、浩聖。上がりか?」
「あぁ。お前もか?」
話しかけたのは山口。
彼はエントランスで複数の社員と話しているところで塚田に声をかけた。
「おうよ。今から飲み会に行くんだが、一緒にどうだ?」
「いや、今日は遠慮しておくよ。すまんな山口。今日は大事な約束があるんだ」
「ん?分かった分かった。次を楽しみにしとくぜ?」
「おう。都合が合えば次は参加させてもらおうか」
「分かった。それじゃぁな」
塚田は会社を出ると、自宅に向けて歩きだした。
家は会社から徒歩で45分ほどの距離にある。
自転車や自動車の便が悪く、徒歩で毎日歩いている。
ちなみに会社から塚田の家の方へ200メートルほど歩いたところにいつも行っている居酒屋がある。
更にそこから1キロほど行ったところに事件現場となった山がある。
塚田がその居酒屋を通り過ぎた辺りで前から知った顔がこちらへ歩いてきた。
福島だ。
「お、そこを行くは塚田のところの浩聖さんじゃないですか」
「福島か。お前、風邪は大丈夫なのか?」
「熱が下がったから少し買い出しにな。おふくろに俺の風邪を移しちまって。買い物行かないと今日の夕飯がないんだよ」
「大変だな。どれ、俺が奢ってやるよ。風邪が引いた祝いに」
「マジか?助かる」
塚田と福島は居酒屋からスーパーの方へ塚田が歩いてきた道を戻るように歩いて向かった。
「最近の調子はどうだ?」
「まぁまぁだな。会社でも昇格したし、これからが腕の見せ所よ」
「気がついたら定年かもな」
「何でだよwそういうお前はどうなんだよ?社長だろ?」
「あ〜、会社のプロジェクトが最高に絶好調だな!」
「最高と絶好調は同じだな。そのプロジェクトとやらはどれくらい自信あるんだ?」
「会社の革命」
「わお、すげ。頑張れよ、―――って俺が言うことじゃねぇなw」
「確かになw」
お互いの近況報告をしながら2人は買い物を終えた。
「それじゃ、また会おうか」
「そうだな。最近会ってなかったしな」
「だな。林崎辺りとまた出掛けたいな」
「今度言っとくわ」
「お、頼んだ」
口約束を交わして2人は別れた。
塚田は家の方へ歩き出す――――――のではなく、近くの喫茶店へ入った。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「――――2人です」
この時点で犯人と待ち合わせをしていたのだ。
今日の大事な用事とはこれだったのだ。
警察の捜査が
「こちらへどうぞ」
塚田は角の席に座ると相手が来る19時まで待機することにした。
◆
場所は変わって事件現場となった山。
そこに入っていく人影が1つ。
今最重要容疑者となっている稲だ。
彼は普通に山登りをしに来たのだ。
昔から運が悪く、度々事件や揉め事に巻き込まれる。
この体質が今回の事件を大きく錯乱させている。
ちなみに、残りの容疑者の林崎、田中は自宅に居た。
さて、ここから事は大きく動き出す。
「―――――待たせたな」
「―――――俺を呼び出したのがまさかお前だとは・・・・・・。大丈夫なのか?」
「あぁ。奴らには少し抜けると言った」
「少し相談があると言ったから心配になったぞ。それについては大丈夫か?」
塚田は相手に問を投げる。
相手は少し微笑んだ。
「まぁな。ここじゃなんだから、場所を変えよう。登山が好きだったよな?」
「ん?あぁ。まさかあの山に今から?」
「悪いか?」
「いや、別にいいが」
「それじゃぁ、少し俺は奴らに一言言ってくる。だから先に登り始めててくれ。あ、待った。一旦家に帰って懐中電灯を持って行く。だから浩聖も1回家に帰って準備してきてくれ。そして入って少し行ったところのベンチで待っててくれ」
この時点で塚田は犯人の思う壺だった。
塚田は言われた通りに家に帰って準備をして山の方へ向かった。
犯人は塚田の後を追うように小走りで喫茶店を出ると、監視カメラを迂回するように移動し、茂みへと入る。
そして集合地点に塚田が到着したのを見届けると、懐中電灯を付けて茂みから出る。
「来たか」
「すまんな。行こう」
2人は歩き出す。
並んで。
闇に溶け込んだ犯人はもう止まらなかった。
計画を進める。
「とりあえず頂上まで行こうか」
「おう」
稲が通ったであろう道を登っていく。
その間2人の間に会話が流れることはなかった。
◆
半月が東の方から登ってきた。
頂上から見た夜景がやけに虚しいと塚田は感じた。
「それで?話はなんだって?―――――――山口」
そう、犯人は居酒屋に居たという山口だ。
「あぁ、少し深刻でな。聞きたいことがある。1つ」
「なんだ?」
「友人との関係に
「そんなことか」
「あぁ」
塚田は夜空を見上げる。
隣の山口がそっとその場から離れていることにも気づかずに。
きれいな星空だ。
それこそ都会ではあり得ないくらい今日の星は煌めいていた。
「例えば、その人と金輪際関わらないとかk―――――」
ゴッ
鈍い音がして塚田の意識は飛んだ。
背後には崩れ行く塚田を冷たい目で見る影が居た。
その影は塚田に2発目の拳を入れた。
3発、4発、5発・・・・・・。
気が済むまで殴った後、崖の方へ蹴り飛ばした。
そして走って山を下っていった。
塚田は重力に抗うことなく垂直に落ちていった。
そして偶然、そう、偶然だ。
あの位置に落下した。
「眠れ、永遠に」
塚田が耳にした最期の言葉だった。
◆
「お、山口さん。大丈夫っすか?」
「すまんなぁ。トイレで腹壊した上に寝ちまってよw」
「ハハハハ、面白いなぁ。どうせトイレでスマホやってたんでしょ?」
「まぁそれもあるw」
「やっぱりなぁw長すぎると思ったんだよ」
居酒屋に戻った山口は何も知らぬ顔で再開した。
その飲み会は翌日朝にかけて行われ、朝方に塚田が死んだという報せを会社で警察より説明があった。
◆
時間は戻り、稲の行方の話をしよう。
彼は普通に山登りをして、反対側から下山して駅から東京駅へと向かった。
それも終電で。
東京駅に着くと、ベンチで一夜を過ごす。
翌日に栃木に居る祖父母の家を尋ねるためだ。
偶然、監視カメラの目から逃れたのが運の尽きだったのだ。
おっと、少し前に話すと言って話していなかった。
山口の3日前の動きについて最後に話そう。
彼が愛知に祖父のお通夜に行ったと述べた。
これに何のウソも混じっていない。
だが、愛知に行ってその日のうちに東京に戻ってきている。
そして変装をして会社近辺の監視カメラなどを調べ尽くした。
その結果、先のようなことになった。
先のこととは監視カメラの目をくぐり抜けることだ。
それによって自分が居酒屋にいると錯覚させた。
社員には腹を冷やしたと言ってトイレに籠るふりをしてうまい感じに抜け出したのだ。
酔っ払いは時間の感覚や記憶が怪しいので、それを利用したのだ。
故に警察に証言する時は必要最低限だけ喋り、後は社員に同意をもらうだけなのだ。
これで完璧なアリバイが確立すると同時に塚田との仲は良いということを主張できる。
――◆――
この事件の真相を知っているのは山口本人だけである。
が、その山口は警察はシロだろうと処理していた。
山口の計画はこれでは終わりではない――――――これだけは言っておこう。
果たして、熱にうなされてる美結は
次話に期待しよう。
≪The Fifth Day(1) was Finishing, And To The Next Story...≫
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