The Fourth Day
美結は朝、駅に向かうところで横川とばったり出会った。
本当に偶然だ。
「おう、おはよう」
「あ、おはようございます。朝から早いですね」
「ハハ、まぁな。事情聴取があるからな」
「あー、頑張って。なんて偉そうなこと言えないな」
「別にいいだろ、安斎は関係ないんだから」
「まぁ、そうか」
「そこは否定してくれw」
「え?否定するところだったの?」
「あぁ。まぁ、放課後待ってる」
「はーい」
美結は思わぬ出会いにあまり動揺することなく、今日の朝の漢字のテストのことを考えていた。
昨日の夜あの後勉強したけど、出来るかな?と。
電車に乗ると、漢字のプリントを眺める。
昨日書いた記憶がないところも埋まってて苦笑する美結。
ふと前に気配を感じて見ると、友人が立っていた。
美結の目線に気付くとピースをしてきたので美結もピースで返す。
「おはよ〜」
「おはよ〜美結。朝から漢字なんて偉いね〜。まぁ、小テストあるしね」
「そうなんだよ〜。私全然出来ないから」
「嘘つけ。いつも満点か1問ミスかで終わってんじゃん」
「・・・・・・いや?」
「今の間は?」
「前前前回2問ミスだったのを思い出した間」
「実質満点でしょw」
「え〜でも満点取りたいよ〜」
今ので気付いたかも知れないが、美結は圧倒的文系の頭をしている。
英語や数学が苦手な反面、国語は勉強しなくても滅茶苦茶出来るということだ。
次の駅で隣の席が空いたため、友人も隣りに座って同じプリントを2人でみて勉強を始めた。
◆
「はい、では、漢字テストを返却します」
漢字テストが返却され、美結は満点だったことに安心感を覚える。
客観的に見れば満点をとると喜ぶところなのだが・・・・・・。
彼女は少しズレているところがあるのだ。
天才は常識外れとは言ったものだ。
閑話休題。
次の休み時間。
「美結〜結果どうだった〜?」
「満点でーす」
「だから言ったじゃん」
「ごめんって」
「美結は満点取れるかも知れないけど、私なんか2点だからね?」
「・・・・・・なんかごめん」
「今回の中間は赤点ギリギリかなー・・・・・・」
「英語と数学は私もそうかも」
「マジ?」
「うん。ちょっとまじヤバイ」
「じゃぁ、一緒に勉強しよ〜」
「いいよ〜。いつが良い?」
「今日」
「今日・・・・・・は無理」
「え〜」
危うく『いいよ〜』と了承しそうになった美結だが今日の朝に横川と会ったのを思い出し、事情聴取があったのを思い出す。
即ち、今日の朝横川に会ってなかったら忘れていたということだ。
偶然に偶然が重なる。
「じゃぁ、明日で」
「分かった。どこでやる?」
「美結の家!」
「凄い食い気味に言ってるけど無理ね」
「え〜。じゃぁ・・・・・・」
2人は会話を弾ませる。
その反面、事件は刻々と深刻化していることを知らない。
◆
「・・・・・・来たか」
「うん。なんか、うん。その、なんて言ってほしい?」
「お疲れ様」
「お疲れ様」
「うぃ。疲れたわぁ。あれから事情聴取をしてるんだが、出てくる情報が多すぎて確認作業に追われている」
「あー、そういう感じね・・・・・・。頑張れ」
「頑張れ!?そこは手伝うよ、とかじゃないの?」
「私は中間試験勉強があるから」
「赤点取るなよ」
「昨日も言われた気がする」
「それだけ大事なことということだ」
「否定できない」
「頑張れよ」
「うん。・・・・・・じゃなくて!今日来たのは事情聴取の内容を聴くためだよ」
「事件より勉強の方が大事だろ?」
「そうかも知れないけどさぁ・・・・・・せっかく来たじゃん?」
「英数なら教えられるぞ」
「じゃぁお願いします、なんて言うと思った?」
「思ってない。何を言っても事情聴取の内容を聴くつもりだろ?」
「もちろん」
「分かった分かった。付いて来い」
横川は折れて美結を別室へと連れて行く。
「それで、何で詰まってるの?」
「毎度話が速くて助かる。何で詰まってるかって言うと純粋に情報の裏取りをしないといけないことだな」
「・・・・・・それはウソですね?」
「なんのことだ?」
「私の勘がそう言ってるだけ」
「ハハハ・・・・・・さすがにバレるな・・・・・・」
「うん。私の勘は90%当たるから」
「凄いな。まぁ、いいや。何で詰まってるかって真面目に言うとだな・・・・・・稲容疑者がデタラメを言っている」
「・・・・・・え?その根拠は?」
「情報の裏取りの話はしただろ?」
「うん」
「その時間帯に確実に居ると言っている所に確実に居ない」
「・・・・・・?」
「つまり、言っている情報と実際の情報が噛み合わないんだ」
「あー・・・・・・、なるほど・・・・・・」
「よくあることではあるんだがな・・・・・・事件が事件なだけに捜査に尽力を尽くしている」
「(よくあっちゃ困るやつでしょ・・・・・・)。なるほど・・・・・・」
「なんか聞こえたぞ」
「気の所為ですよ」
「そうか。まぁいいや」
「いいの?」
「そういうことにしてやったんだからそれ以上言うな」
「はいはい」
「んで、話に戻るんだが、今回の事件はどう思ってる?」
「ん〜どうって・・・・・・」
美結は迷った。
自分の予想に自信がないのもそうだが、あまりにも不確かすぎる情報の上に成り立っている推理だからだ。
「まだ、かな」
「そうか。自分の中ではなんとなく出来てるような雰囲気だが・・・・・・」
「まぁ、出来てるっちゃ出来てる。けどね・・・・・・」
「確かではないのか」
「うん」
「んじゃ、こっちも情報提供出来る限りするから分かり次第教えてくれ。あ、その前に試験勉強な」
「うるさいな〜。分かってるって」
「分かってなさそうな顔してるがな」
「ん〜?何のことだか」
美結は少し恍けるが、諦めたように頷くと現状の捜査資料を受け取る。
「えー・・・・・・っと、いくつか質問を」
「何だ?」
「まず1つ目。容疑者の足取りを掴んだのは防犯カメラで、ですか?」
「そうだ」
「2つ目。犯行日の容疑者の動きはどういう感じでしたか?」
「足取りは書いてあるとおりだ」
「いや、そうじゃなくて。挙動の話」
「大分おかしかったな」
「見せてもらえますか?」
「もちろんだ」
美結は横川からパソコンを受け取ると動画を見る。
もちろん犯行当日の一部始終をだ。
「あ〜、なるほど。すべてを察した。怪しすぎて笑った」
「一瞬『私が犯人です』って言ってるのかと思ったわ」
「確かにね〜。次の質問」
「質問多いな」
「そりゃね。えっと、捕まえたってことは変装している人が分かったってことだよね?」
「あぁ」
「誰に化けてたの?」
「被害者だな」
「わお、自分が殺した人の皮を着るんだ」
「な、驚きだよ。ちなみに那須市で容疑者を確保した」
「・・・・・・茄子・・・・・・死・・・・・・?」
美結は地名を覚えるのが致命的に苦手である。
ちなみに那須市は栃木県北部にある場所だ。
今、彼女は茄子の産地を必死に考えている。
故にたどり着いたのはもちろん高知県や宮崎県。
「場所は分かるよな・・・・・・?」
「も、もちろん。てか、遠くない?」
「まぁ、そうは言っても東京駅から電車一本で行けるしな」
美結はその一言で引っ掛かった。
高知県も宮崎県も電車一本で行けない。
さらに、関東であることも自ずと想定できた。
「そうだね。まぁ、近いと言えば近いし遠いと言えば遠いからね〜」
「福島との県境まで行けば遠いだろ、多分」
確実な情報が出て来た所で美結は栃木北部だと理解した。
日頃から勉強していればこんなことはなかっただろうに。
「まぁ、遠いのかな?私は関東と静岡から外は行ったこと無いから知らない。
「行動範囲狭っ」
「試験後の修学旅行で初めて外に出る」
「マジか・・・・・・そういうレベルだったか・・・・・・」
「あれ、バカにされた?」
「いや」
「まぁいいや。とりあえず質問はこれくらいじゃないけど終わりにしとこう。私の勘がそろそろ帰らないとマズいと言っているから」
「そうか。気をつけろよ」
「なんか聞くことあったらメールするね」
「分かった。なるべく早めに頼むな」
今どき美結とメールでやり取りしているのは横川だけだ。
逆に横川はLINEという代物が分からず全てメールでやり取りをしている。
つまり、お互いの連絡手段が噛み合っておらず、あまりやり取りをしていないのである。
警察署を出た美結は小走りで家に向かう。
先に美結が言っていた通り、美結の勘は9割方当たる。
だからこの嫌な予感を頼りに急ぐ。
本音を言うならまだ警察署で聞くことを聞きたかった美結だが。
◆
家に帰って自室に入る。
特に何も変わった所は無い。
少し首をかしげて、残りの1割が当たったのか、と納得しかけた時のことだった。
家のチャイムが鳴り、美結の緊迫が一気に高まる。
そっと扉を開けると、そこには先程別れたばかりの友人が立っていた。
あれ、断ったはずでは?と美結は思考を巡らせる。
「あれ?」
「いや、暇だから来た。LINEに返信もなかったから〜、いいかな〜って」
美結はスマホを取るとLINEを確認する。
『暇だから美結の家に行くね〜』
『沈黙は肯定とみなすよ〜』
―――――送信取り消し―――――
『じゃぁ、行くね。勉強道具は持ってく』
「・・・・・・・・・・・・これで来る人始めてだよ」
「私が最初?ありがと〜」
「褒めてない」
美結は完全ポジティブ思考の友人と話して苦笑いする他なかった。
さすがに来たのに追い返すわけにいかずに、中に入れると自室に案内する。
「あ、美結。そうだ。借りた本まだ読み終わってない、ごめん」
「いいよ〜ゆっくりで」
「ありがと」
2人は雑談混じりに勉強を始める。
中間試験が近づいているのもあり、段々と真剣になっていく。
「あのさ、これどういうこと?」
「え〜?The box was stopped by me.・・・・・・え、分からないのこれだよね?」
「うん」
「う、マジか。今回の範囲の基礎だよ?重症だなぁ」
「マジか・・・・・・」
授業も真面目に受け、課題も熟し、復習もしているのに基礎が分からない。
これは重症極まりない。
本人は中間テストが1週間後に迫る中、基礎が出来ていないことに改めて絶望をした。
「え〜、っとね。受動態ってわかってる?」
「バカにしてる?受け身だよ?」
「日本語の意味は聞いてない。英語文法」
「え〜っとね・・・・・・主語+動詞+過去分詞+By+・・・・・・形容詞?」
「最初っからやろっか」
「え」
「正しくは主語+Be動詞+過去分詞+By+名詞、だよ」
「そう言われればそうかも」
「いや、それしかないでしょ」
「私そんなに頭良くないの」
「まぁ、私の地頭がいいだけかな」
「マウント取らないでよ〜・・・・・・。で、教えて」
「はいはい」
◆
美結が目を開けると、前にはテレビの大画面でアニメが再生されていた。
何があったのか寝ぼけている頭を働かせながら思い出す。
あの後、英語を1時間ほど教えてもらった後に3時間ほどアニメを鑑賞していたのだと。
美結の後ろには美結をバックハグしたまま寝ている友人が。
迂闊に動いて起こしてしまっては申し訳ないのでそのままアニメを見る。
とはいえ、時刻は19時過ぎ。
彼女も変える時間が迫ってきている。
少し悩んだ末に美結は起こすことを決意する。
「お〜い、そろそろ帰る時間だぞ〜」
「・・・・・・(zzz)」
「もしもし?」
「・・・・・・(zzz)」
「えー・・・・・・どしよ」
ここまで起きないとは思わなかった美結はまたしても絶望した。
方法をいくつか試したが無駄だ。
例えば頬をぷにぷにしたり、引っ張ったり。
他にも色々。
挙句の果てには彼女が凭れ掛かっているクッションをどけた。
もちろんバランスを崩し地面に頭を強打する。
が、起きない。
「こ、ここまで起きないとw、どうしようもないw」
美結は笑いながらテレビを消すと、グラスなどの後片付けをする。
19時まで残り1分を切った時だった。
「美結〜・・・・・・今何時?」
「(起きたw)えっとね、7時1分前」
「マジ?良かった」
そう言うと彼女は帰り支度を始める。
「何回も起こしたんだけどね・・・・・・」
「あー、ごめん」
「面白かったからセーフ」
「えw私が寝てる間に何があったw」
「い、色々w」
正直にあったことを言える訳なくうまく誤魔化す。
しかし、勘が良い彼女はなんとなく察してしまったのだろう。
あぁなるほどね、と言うと納得していた。
「とりま、私帰るわ」
「はーい。ってか、本当にいきなり来ないでね?」
「じゃぁLINE見てね?」
「痛い所突かないでくれる?」
「だって事実じゃん」
「―――――早く帰ってね?」
「はいはい。またLINEするね」
「うーい」
友人が帰ったのを確認すると、美結はため息を1つ付いた。
◆
半月が沈む時間帯。
要するに深夜零時。
「あー・・・・・・疲れた・・・・・・」
美結はやるべきことを全て終えて机に倒れ込んだ。
ベッドじゃないんか、と突っ込みたくなる気持ちは非常に分かるが、現実は違う。
「てか・・・・・・今月行事多すぎ・・・・・・」
確かにそうだ。
中学3年生とて、行事が多くて当然だ。
14日、15日には中間試験、16日〜20日は修学旅行、さらに11月の1日にはなるが、体育祭がある。
確かにハードスケジュールだが、仕方のないことである。
「はぁぁぁぁ・・・・・・」
誰にでも分かるような大きなため息を1つ。
そんな時にスマホの通知を知らせる音が鳴る。
度重なる嫌な予感を覚えながら美結は携帯を開く。
嫌な予感は見事に的中。
横川からのメールだった。
「うーん。開かないほうが良いのかな・・・・・・いや、でも開かない訳にはいかないし・・・・・・」
迷った末に、美結はメールを開く。
『調査報告資料在中』
そう書かれた題名を見た瞬間に見る気が失せるが、仕事だからと割り切って読む。
「えっと・・・・・・稲容疑者が供述した内容と事実が噛み合ってきたため、起訴する旨を伝える・・・・・・。へー。で、なんだっけ、他被疑者は放免することでよろしいか・・・・・・。うん、良いと思う」
1人で納得しつつ、他の人の事情聴取の音声を聞いてなかったから聞くことにした。
≪The Fourth Day was Finishing, And To The Next Story...≫
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