The Third Day

今日は朝から冷たい土砂降りの雨だった。

美結は目覚めるとメールを確認し、横川から追記が来ていないことを見ると朝食を食べにキッチンへ行く。

家に誰もいないので自分で冷蔵庫から適当に朝食を出して用意する。

さすがに寒いなと思いながら家を出て学校に向かう。

風に煽られて時折横向きになった雨が肌に纏わりつき、寒さが一層増す。


「おはよ〜美結、寒いね〜朝から」

「ね。まだ10月になったばっかなのに」

「まぁ、暑いよりは良いけどさ」

「そうだね〜」

「あ、そういえば今日の朝のニュースで例の山で起こった事件について報道されてたよ」

「え?そうなの?」

「相も変らずテレビ見ないね〜・・・・・・。VTuberは見るのに」

「うるさいな〜。それで、何て言ってたの?」

「まだ犯人捕まってないって」

「うわー・・・・・・怖いなぁ」

「今日一緒に帰ろうよ、怖いから」

「いいよ〜」

「ついでに美結の家に―――――」

「それは今日はダメ」

「えぇ・・・・・・」


美結が断ったのにはもちろん理由がある。

彼女と帰り道が同じなのは最寄り駅までだ。

駅からそのまま警察署に行くために家に来ないように言ったのだ。

特別美結は彼女が嫌いではなく、ということは補足しておこう。



「1453年、ビザンツ帝国が滅び・・・・・・」


社会の授業の範囲は世界の歴史だ。

この先生の話し方眠くなるんだよなぁ、と思いながらノートを写す。

美結はそこでふと横川からのメールを思い出す。

鑑識によれば完全な死因は転落死であるが、その前に殴られた跡があり意識はなかった状態で崖から落とされたのだろうということと、崖上にあった血痕は被害者のものと一致したとも追記してあった。

美結はそれをもとに考える。

少し前に考えた可能性とは違った。

今自分の中で一番有力な説は、殴り合った跡に転落、そして自力まで崖まで近づいたが力尽きて死んでしまったという説だ。

しかしそれだと何点か不明な点が出てくる。

まず、落下後に何故被害者は崖に近づいたのか。

それくらいなら少しでも逃げるだろう。

そして鑑識によれば意識はないとのことだったので、自力で崖まで行くのは不可能だろう。

少しの疑問を抱えつつも美結はやはり今のところこれしか無いな、と思う。

何が原因かと言うと、情報量が少なすぎることだ。

だから断定に至ることが出来ない。

とりあえず授業を真面目に受けるか、と美結は前を向き直した。



迎えた放課後。


「それじゃぁ、帰ろうか」

「そうだね〜。あ、ちょっと待ってて」

「どうしたの?」

「先生の所に行かないと。提出物を出しに」

「付き合うよ」

「ありがとうね、美結。すぐ終わるから」

「焦んなくていいよ」


美結は彼女が職員室に入るのを見ると、近くにあった椅子に座る。

その間虚空を眺めながら事件のことを少し考えていたがすぐに止めた。

考え出すと夢中になって周りが見えなくなるからだ。

実際、考え出すと少なくとも30分は潰れると美結は自分のことを知っている。


「おまたせ」

「大丈夫だよ」


2人は駅に向かう道を歩き出す。

雨は朝から弱まる気配を見せずに振り続けていた。

そんな中、他愛の無い会話を繰り広げながら彼女らは帰る。


「でさ〜、昨日帰ってたらさ・・・・・・」


この雑談が探偵としての唯一の息抜きとなっていた。

事件のことを考えて疲れ切っている時に話すだけで疲れが抜ける。

そして電車に乗ること約10分。

美結は友達と別れると警察署へと足を運ぶ。

相変わらず雨は収まる気配はないようだ。

傘をさして5分ほど駅から歩くと警察署に到着する。


「横川警部はいらっしゃいますか?」

「横川警部ですね、少々お待ち下さい」


美結は受付の人が電話を始めたのを見届けるとつかれたように椅子に腰を掛ける。


「待たせたな」


約10分ほどすると、横川が来る。

仕事をしていたのだろうか、凄い疲れている顔をしている。


「いえ、大丈夫ですよ」

「事情聴取の件だろ?」

「はい。よく分かりましたね」

「まぁ、このタイミングで聞きに来ることなんてそれしか思いつかんからな」

「分かってるなら話が速いですね」


美結はそう言うと、手帳を開いてメモの構えをする。


「いや、そうなると思ってまとめてきた。昨日の夜にな。まぁ、これで終電を逃したわけなんだがな・・・・・・」

「大丈夫でしたか?」

「大丈夫じゃなかったな」

「あらぁ・・・・・・」

「とりあえず、これだ」

「その後どうなったか凄い聞きたい」

「ん?簡単な話だ。朝まで署にいたぞ。というか何だったら署で寝てたし」

「マジか。とりあえず、事件のことを話そうか」

「この話にしたのは誰だったか・・・・・・」


最初に言い始めたのはあなたですよ、と苦笑いしながら美結は書類に目を通す。

容疑者は5人。

1人目、山口。

この人は被害者の会社の同期であり、仲がよく飲み会によく行っていたと言う。

事件当日は飲み会を断られた。

アリバイは居酒屋のレシートを持っていた。

2人目、稲。

この人は被害者とライバル関係にある会社に勤めており、被害者との仲はあまり良くなかったと周囲の人が言っていた。

現在この人は事件後に行方不明になっており、最重要容疑者となっている。

また、当日のアリバイはない。

3人目、林崎。

この人は大学生時代からの友人で、被害者との関係はとても良かったと言っていた。

事件当日は自宅にいたと言っており、スマホのGPSで裏付けされている。

また、被害者の携帯に残っていた最終通話履歴の相手でもあり、内容は自殺するとのことだった。

4人目、福島。

この人は中学生の頃からの親友である。

中高大全て同じクラスであったと言っていた。

故によく遊びに行っていたが、就職後は互いに忙しく最近はあまり会っていなかったという。

事件当日のアリバイはない。

5人目、田中。

この人は稲と同じ会社に勤めており、被害者との関係もあまり良くなかったと言える。

事件当日のアリバイは裏付けはされていないが自宅に居たと供述していた。


「かなり大雑把だけど、分かりやすくて助かります」

「それはよかった。まだ被害者についての調査があるが見るか?」

「もちろん」


もう1枚の紙を貰った美結は目を通して納得した。

内容はこうだ。

被害者は1週間後にやる予定だった会社のプロジェクトをとても楽しみにしていたそうだ。

というのも、会社の改革とも言えるプロジェクトで、社長自ら世界に向けての発信だったそうだ。

テレビも中継予定があり、今現在、それについては局内で検討中とのことだ。

周囲の人によれば自殺する理由はなかったとのこと。

そして美結が納得した理由は、やはり自殺ではなく他殺だったことだ。

それに今の話を聴く限り、不慮な事故ではなく稲という人が犯人であり、確実に計画的にやったのであろうということだ。


「んー・・・・・・。なるほどね。じゃぁ、稲って人を捕まえて話を聴くことにしましょうか」

「今全力で操作中だ。最後の手がかりは東京駅構内だ。そこから行方が辿れなくなった」

「なるほど・・・・・・」


東京駅からどの電車に乗ったかもわからないと言うことか、と美結は思う。

そうなると捜査の範囲は格段に上がるのは言うまでもない。


「どういう方法を使ったのかは分からないが、東京駅の真ん中らへんの監視カメラが最後だ。ホームにあったカメラにも映らずどうやって消えたのかが謎だ。なんかわからないか?」

「わからないことはないと思うけど・・・・・・。例えば変装とか」

「変装・・・・・・そうか、その手があったか」

「逆に思いつかなかったんだ」

「あぁ。何も思いつかなかった」

「えぇ・・・・・・。っていうかその最終視認は何時いつのですか?」

「事件翌日の朝7時だ」

「通勤時間帯か・・・・・・」

「だから誰に化けても正直言って分からない」

「めんd・・・・・・他に手がかりは?」

「今面倒くさって言いかけたよな?」

「言ってないです」

「言っただろ」

「言った」

「言っただろって、言ったんかよ。まぁいいや。他に手がかりはないな。とりあえず我々は稲の行方を追う」

「よろしくおねがいします」

「任せておけ。ちなみにその間何をするんだ?」

「私?・・・・・・試験勉強」

「そういえば試験近いんだっけ?」

「うん。1周間と2日で試験。2学期中間テスト」

「おう、頑張れよ。くれぐれも赤点だけは取るなよ」

「なんでみんな口を揃えてそれしか言わないの・・・・・・」

「他に言ってほしいか?英語の成績を上げろ」

「この前悪くてクラス落ちたなんてことはない」

「なおさら頑張れ」


みんな同じことしか言わないな・・・・・・、と美結は思うが正論のため反論できない。

反論したとしたらどうなるか美結は分かっているのだ。

論破されるに決まっている。

だからそれ以上自分の首を絞めることを言わないで資料に目を落とす。

横川が言ったこと以上のことは書いてなく、あとは捜査中ということなので大人しく待つことにする。

警察署を後にした美結は傘をさしながら土砂降りの雨の中、帰路についた。



家に着き、美結は自室に入ると大きなため息をついた。


「ムズすぎ!!」


そう発叫するとベッドに身を任せる。

仮眠を取ろうとした所にふと横川のセリフが頭をよぎる。


「・・・・・・英語やるか」


中間試験が1週間後に迫っている今、事件よりも大事なのだ。

学生の本領は勉学であるとは言ったものだ。

美結は机に向かうと夕食まで勉強に集中することにした。


「うぃ、We were surprised at his presentation.・・・・・・え?」


授業は真面目に聞いているのだが、わからないものは分からないのだ。

事件の方には頭が回る物の、勉強のことになると殆ど頭が回らない。


「うーん・・・・・・surprised・・・・・・驚く・・・・・・his presentation・・・・・・彼のプレゼンテーション・・・・・・私達は彼のプレゼンテーションに驚く、と」


正しくは『私達は彼のプレゼンテーションに驚かされた』という受動態になることを美結は知らない。

いや、正しくは知っているのだが。

勉強を終えた美結は食事をして横川からのメールを確認する。

するとそこには驚くべき内容が書かれていた。


「え!?」


美結自身は驚きのあまり深夜だと言うのに大きめの声を上げてしまう。

そして落ち着いて文面を読み直す。


『稲容疑者確保の旨を伝える』


たった12文字の短いメールだが、内容は12文字を超えていた。

今すぐにも聞きに行きたい衝動を抑えるために深呼吸を数回。

そして横川に返信する。


「明日放課後伺います・・・・・・っと」


するとすぐに了承のメールが帰ってくる。

それを確認すると、友人とLINEを始めた。

外には雲の切れ間から明るい一等星、シリウスが覗いていた。




≪The Third Day was Finishing, And To The Next Story...≫

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る