The Second Day

10月4日火曜日の朝。

彼女、安斎あんざい美結みゆはクラスメイトの会話を聞きながら考えていた。

もちろん、昨日の事件についてのことだ。

もし、彼女が考えている通りだとしたらこの事件の犯人は崖から落としたのではなく別の場所で殺したということになる。


「ねぇ、美結。今日の小テストの自信はどう?」

「え?」

「今日のHRホームルームで小テストだよ、英語の」

「え?そうだっけ?」

「そうだよ。なんかボーッとしてたけど大丈夫?」

「うん。少し考え事を」


そう言いつつ英語の単語を広げる。

そして意外と難しいことに美結は絶句した。

これだったら昨日の夜、事件ではなく勉強をするべきだったと強く後悔をした。

しかし、後の祭りである。

故に、今の時間で覚えられる最善を尽くし、今日の小テストに挑んだ。



さて、小テストの結果はいかに。

20点中18点と高得点にも関わらず、本人はまぁまぁだなと感じていた。

次は勉強を真面目にやろうと決意した美結は英語の授業を聴く。


「be動詞+動詞の過去分詞形で受動態になります。〜されたっていう文章ですね。例えば、He was killed by these boys. 彼はあの男の子達に殺された。まぁ、この場合は・・・・・・」


そういう例えをするなよ、と美結は心のなかで苦笑する。

先生がいった殺すに反応するようにして事件のことを思い出す。

今日実験するということなので放課後は急いで行かなければならないこともついでに思い出す。


「ねぇ、美結。最近思い詰めてる?」

「なんで?」

「いや、そのままの意味だよ」

「まぁ、確かに思い詰めてることはあるけどさ」

「話なら聴くけどさ」

「いや、フツーに言えない内容だから」

「そう。あまりにも酷いようだったら誰かに話すんだよ。それで気が楽になるから」

「うん」


そう返事をしたものの、美結は安易に人に話せる内容ではないと改めて実感した。

さて、少し会話をしていて遅くなったが現場に向かう。

既に実験の準備は出来ており、美結を待っている状態だった。


「すいません、遅くなりました」

「構わん。むしろ友達との放課後を楽しめ」

「楽しみましたよ、十分」

「その割には速かったな。17時を超えるかと思っていた」

「さすがに待たせるわけにはいかないので」

「そういうところだな」

「バカにしてます?」

「さて、始めようか」

「話を露骨に反らしましたね」

「気の所為だ。先に説明をしようか」

「そうだね。お願いします」

「簡単に言うとだな、上から被害者に似せたマネキンを落とす。それだけだ」

「私が昨日行ったからですか?それは」

「それもあるが、やっておこうと思ってな」

「まぁいいや、お願いします」


横川と美結は崖の下側で上で待機していた警官に合図をする。

落ちてきたのは人の大きさほどに巻かれた布団。

おそらく中に重しが入っているんだろうな、と美結は思った。


「おもしは70kg程度、被害者と同じだ」

「へぇ、やはり予想通り離れましたね」

「それに斜面を転がり落ちているのを見るとその位置に落ちるのは無理だな。誰かが運ばない限り」


そこで美結の頭にもう1つの可能性がよぎる。


「・・・・・・今なんて?」

「え?斜面を転がり落ちているのを見ると無理だなと」

「その後ですよ」

「誰かが運ばない限り」

「誰かが・・・・・・運ぶ・・・・・・。落ちた後に誰かが運べば・・・・・・。まぁ、考えだしたらきりが無いか」

「これ以上可能性を増やさないでくれ」

「はい。そうします」


この判断が吉と出るか凶と出るかはこのときは美結も横川も分からなかった。



実験が終わり、一度警察署に行き、その足で容疑者達の事情聴取へ向かった。

今日美結達が向かうのは最後に連絡を取っていたという林崎という人の家だ。

チャイムを鳴らす前にお互いに頷き合っていつもの儀式をする。


「じゃぁ、待ってますね」

「あぁ、何かあれば電話でな」

「はい」


2人は携帯で電話を繋ぎ、携帯を横川はスーツのポケットに、美結は手に持ってそれぞれ構える。

美結は近くの公園に行き、ベンチに座るとイアホンで横川の携帯で拾った音声を聴く。

また、画面収録によって、記録をしっかり取っておくことも忘れてはいない。


『それではまず最初にあなたと塚田さんの関係を伺えますか?』

『そうですね・・・・・・大学時代からの友人ですね』


美結は聞こえていることを確認すると、目を閉じて一言一句聞き逃さないようにする。


『えっと・・・・・・一昨日の23時頃に塚田さんの携帯にあなたと電話したと記録に残っていますが、これは・・・・・・』

『塚田が自殺するとか急に言われたんです』

『どういうことですか?』

『自殺するから後はよろしく頼むって言ってましたね』

『なるほど』

『その時の声に後悔の色は見えなかったんですよね』

『その時、あなたはどこに?』

『そうですね・・・・・・、私は確かあの後自宅に居ましたね。一人暮らしなので証明はできないと思いますが』

『そうですか。ありがとうございます』


軽い事情聴取ではあるものの、かなりの内容が入っていたな、と美結は思った。


「お疲れ様です」

「おう。んじゃ、後で詳しく連絡するから帰っておけ」

「何故ですか?」

「純粋に明日学校だからという心配だ」

「それに関しては心配には及びませんよ」

「その心は?」

「捜査がしたいからですね」

「素直でよろしい」

「あ、ありがとうございます」

「褒めてない。頼まれてもダメだ。もう太陽は沈んでいる。中学生は帰る時間だ」

「・・・・・・わかりました。ただ、連絡してくださいね」

「もちろんだ」


美結はいつもとは違い大人しく引き下がると家の方へ歩き出す。

余談ではあるが、美結の家族でさえ彼女が探偵であることは知らない。

早めに帰らないと説明が面倒くさいから帰ろうと思ったのが正直な心境だ。

美結は家に帰り、食事など一通り終わらせてメールを開く。

横川からは特に何も来ておらず、また後で確認するかと彼女は友人とLINEを始めた。



数時間後。

時刻は2時半。

美結は再度メールを確認する。

すると、横川から『事情聴取結果』という題材のメールが届いていた。


「内容は・・・・・・」


内容は簡潔に言うとこうだ。

容疑者は5人。

被害者との関係上なんとも言えないが、アリバイがない人の中で被害者と対立していた人もいるとのこと。

名前などの記載は一切なく、後日話すとの旨が書いてあった。

これじゃ何もわからないよ、と美結は苦笑する。

メールを見て内容を整理しようとノートを開き、身構えていた美結であったが、この内容では整理する必要がないと思い、別のことを整理することにした。

それは崖から転落したのか運ばれたのかの違いだ。

もし運ばれてきたとすれば、崖の上の血痕の説明がつかない。

逆に崖から落とされたとすれば転落した位置の説明もつかない。


「どちらにせよ、何かの細工があったのかな・・・・・・」


そう考えながら美結は忘れないうちにノートに事件の概要を書き出す。

被害者の名前や性格なども。

性格に関しては推測でしか無いが。

明日も学校があるため、美結はノートを閉じると、眠そうに布団に入っていった。

時を同じにして警察署の中。

横川は同僚の水野と事件のことを話していた。


「今回の事件についてだがな」

「大分面倒なんだろ?」

「そうなんだよ」

「探偵も関わっていると聞いたが」

「あぁ、それで操作の幅が広がって・・・・・・彼女が悪いわけでないんだが大変でな」

「事情聴取の結果が出たんだろ?」

「あぁ、だがあまり分からんことが多い。アリバイがない人も居れば対立関係にあった人もいる。仲が良い人でも理由があれば殺すだろうしな」

「人間の心理は難しいからな・・・・・・」

「哲学はお互い苦手だろ」

「確かになw」


半分笑い話を含めながら互いに笑う。

事件はまだこれからだな、頑張れよ、と言って水野は署を後にした。


「さて、やるかぁ・・・・・・。安斎に何ていうかな・・・・・・」


セリフからも分かる通り、メールはしたものの、それぞれの人から聞き出せた情報は多くはない。

全員のアリバイと友好関係はとりあえず聞けた。

対立にある人は仲が悪い訳ではなく、ライバル関係にあるだけでよく競っていた仲だったと供述していた。

あとは会社のプロジェクトについても聞けた。

横川は深く考えすぎたかなと思い、遅いから帰ることにしたのだった。

正面には沈みゆく三日月が横川を静かに照らしていた。


≪The Second Day was Finishing, And To The Next Story...≫

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