The First Day

「ねぇねぇ、聴いた?この近くで殺人事件が起きたんだって」

「え!?怖いね」


中学3年1組の教室に入るなり、クラスメイトが美結の周りに集まってきた。

時刻は8時10分。

美結は自分が探偵であることを隠すと同時に何も知らないことを装う。

それはもちろん、情報黙秘をしなければいけない上、目立つことは好まないからだ。

週明けでいつもなら週末の話で盛り上がっているクラスだが、今日は違う。

今朝の事件の話題で持ち切りだ。


「犯人逃走中なんでしょ?」

「私知らないよ〜。今始めて知ったんだから」

「あ、そっか」


美結は友人との話を終わらせると、教材を取りにロッカーへ向かった。


「・・・・・・ん〜どうなんだろ」

「何が?」

「わ!?」

「びっくりし過ぎでしょ」

「急にやめてよ〜」


驚く美結とは正反対にしてやったり顔を浮かべる友人と話しながら本日の授業に臨んだ。



5限目は数学だった。


「え〜・・・・・・ここが、中点連結定理によって1:2になり・・・・・・」


数学科の先生の話を右から左に聞きながら美結は今回の事件について考えていた。

事件の概要はこうだ。

殺害されたのは塚田浩聖さん48歳。

職業はとある会社の社長だ。

死因は崖からの転落死と見ている。

また、多数の打撲痕があったことや擦り傷があったことから犯人と揉み合った後に崖から転落したと考えられる。

死亡推定時刻は昨夜23時〜今朝2時と推定されると昼に連絡が来た。

周辺には監視カメラがあるものの、人通りの多い場所であり、車通りも多い。

つまり役に立たなかったのだ。


「じゃぁ・・・・・・今日は3日だから・・・・・・3番の安斎」

「・・・・・・あ、はい!」

「この問題解けるか?」

「えっと・・・・・・AD=BCで、M,Nはそれぞれ辺AD,BCの中点だから、AM=BN。また、AD//BCより三角形EBNで、EB:EM=BN:MA=1:1。よって、Eは線分BMの中点で・・・・・・。同様にして、Fは線分CMの中点である。E,FはそれぞれBM,CMの中点だから、中点連結定理により、EF//BC。・・・・・・証明終了」

「おぉ、流石だな」


何も解いてなかったが、この程度の問題なら出来ると判断して解きながら答えた。

案の定余裕で解き終わり、続きの思考を巡らせる。

凶器が使われていないことからおそらく計画殺人ではないということが推測される。

また、被害者の携帯や財布はなくなっており、証拠を隠滅しようとしたことが分かる。

被害者は昨日午後から山に行ってくると家族に告げて山に言っており、あまりに遅いことを心配した家族が警察に通報、捜査したところ死体を発見したという流れだ。

放課後、また現場に行くかと美結は思い、授業を真面目に聞き始めた。

迎えた放課後。

学校帰りにそのまま直行する形で現場に行く。

今朝ほどではないが、まだ人だかりが出来ている。

警察官に会釈をして中に入ると、待ってたかのようにこちらに歩いてくる人が1人。


「安斎か、久しぶりだな」

「そうですね〜。半年前が最後ですね」


話しかけてきたのは今回の事件の最高責任者、横川よこかわりょう警部。

185を超える身長を持ち、ガタイがよく怖いように見えるが実際は以外とフレンドリーな人だ。

会話で分かる通り、半年前に共同捜査をしている。


「今回もよろしく頼む」

「かしこまらないでいいですよ〜。今回の事件については私も多少は知ってますから詳しいところをお願いしていいですか?」

「分かった。滑り出しは省くぞ?」

「は〜い」

「鑑識により完全に死亡推定時刻が絞られた。昨夜23時〜23時半の間だ」

「おぉ、分かりやすくなった」

「他にも死因は転落死、これは変わっていない。そして被害者の携帯の解析も終わった」

「あれ?それって盗まれたんじゃ?」

「少し離れた所に落ちていたんだ。最後の通話履歴は昨夜22時だ。電話相手は林崎という人だな」

「誰だか特定できたの?」

「これからだな。他には居ないが・・・・・・、あそうだ。この山の登山口にあった監視カメラに被害者は写っていたが、同時間帯に入る人は居なかったな。それに1回入った人も出るのを確認している」

「他に入る場所は?」

「ないな」

「じゃぁ、順当に考えるなら・・・・・・」

「そうだ、自殺だ。おそらくそういう進行で進められていくな」

「でも揉めあった跡があるって・・・・・・」

「まぁ、疑問点はそこなんだよな」

「それって、確実に揉めあった跡なの?」

「おそらくな。骨が凹んでいたんだが・・・・・・転落した時に着いた傷とはまた別だったんだ」

「なるほど・・・・・・整骨院とかには通ってなかったの?」

「現在捜査中だ」

「それが分かれば話は早いんですけどね・・・・・・」

「待つしかあるまい。とりあえず、現場に行くか?」

「立ち話も何だし、そうしましょうか。今朝行ったんですけどね」

「そうなのか?まぁ、学校行く前だろうな」

「今まで遅刻したこと無いです」

「意外だな」


意外とは何だ、と思いながら美結と横川は現場に向けて歩き出す。

現場につくと、まず崖の上の方へ行く。

殴り合ったであろう跡、血が飛び散っていたりすることから判断したのだろう。

美結は被害者たちが揉み合ったであろう場所に立つとそこから下を見下ろす。

岩などが出っ張ったりしていてかなり険しい崖となっている。

確かにが現場になっている。

しかし、これが何を意味するのかを理解するには少しばかりの時間を有した。


「もしかして・・・・・・」

「どうした?」

「自殺をするときって、助走付けて飛ぶかな?」

「いや、基本的に自殺未遂をする人、した人を含めて助走をつけることはない。むしろ少しだけ踏み出して落ちるケースが一番多い」

「じゃぁ、殴り合ってて真下に落ちる確率は?」

「それはあるんじゃないか?」

「私、思ったんだけどさ」

「何だ?」

「あの位置に落ちることはほとんどなくない?」

「え?」

「さっきも訊いたけどさ、自殺する時に真下に落ちないし、殴り合ってても真下には落ちない。それに崖の岩のはみ出し具合とか見てもあの位置に落ちるのは無理じゃない?」

「それは・・・・・・確かに・・・・・・。――――――ってことはまさか・・・・・・」

「私が考えてる可能性は3つ。1つ目は順当に運良くここから落下した。2つ目は別の場所で殺された後にここに運ばれてきた。3つ目はここで殺した後に転落死に見せるために下に落とした。もしくは運んだ、かな」

「なるほど。少し見た程度で分かるとは流石だな」

「でも、これがわかったところで犯行現場の特定くらいにしかならないし、何だったら曖昧だから犯行現場の特定も出来ないかも」

「分かることは少しでも多いほうが良いさ」

「まぁ、そうだけど・・・・・・」

「気にすることはない。これからが勝負と言っても過言ではないのだからな」


そう話し合って、美結と横川は下へ移動する。

遺体があった場所から上を見上げると、美結の予想通り岩で遮られており、 上から落ちてきたら岩に当たって軌道が変わる。


「すなわち、どこからかで殺されて運ばれてきた可能性が高いと」

「そうですね〜。それとここに入っていったのは本人ではなく変装した犯人である可能性が高いですね」

「――――――となると・・・・・・一纏めにすると犯人はここに運んできたということでいいのか?」

「私の予想ではそうなるけど、信じないでよ?まだ可能性は出て来るから」

「その可能性も頭に入れながら捜査をするとするか」

「まぁ、それが妥当だよね」


そこで美結は気付いた。

計画殺人であれば凶器を使う可能性が高い。

それにも関わらずに凶器を使ってないということだ。


「・・・・・・なぜ・・・・・・」

「なんか言ったか?」

「いえ、また明日会いましょう」

「そうだな。また明日な」


横川と別れ美結は帰路につく。

色々考えているが、何も考えがまとまらなかった。

沈み行く太陽の光が乱反射するように。




≪The First Day was Finishing, And To The Next Story...≫

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る