地より出づるモノ
地面から現れた太い管のような肉塊は横に伸び、地面から舗装された道路、果ては建物を破壊しながら空へと持ち上がっていく。
どこに繋がっているのかと管の先を辿ってみれば、巨大な柱が今まさに地中から伸びてきているのが見て取れた。天辺には丸い果実のような物体をいくつもつけており、すでの先ほど戦っていた巨人よりも高く柱は聳えていた。管と同様に柱も肉塊で出来ているようで、どす黒いピンク色の嗜虐的な肉体を惜しげもなく晒している。
奇しくもドレイナの攻撃によって開けた視界には見渡すだけで全容の半分近くを確認することができた。目視できるだけでも四つの柱が生え出てきているようで、管は町を囲むほどの大きさの円と、五芒星を形作るように柱を繋いでいた。
「な、なんだこれ……!」
「――想像以上に状況は悪いみたいね」
『ドレ……様! 聞こえ……レイナ様!』
不意に聞こえて来た女性の声に、ドレイナは応える。
「エクルーナ、どうなっているの。町が大変なことになっているんだけど」
『それはこちらでも確認していますが、目前の肉塊ではなく至急、お伝えしたいことが』
「なに?」
『エルフの子供が敵の手に渡りました。先ほど、調査に言っていた職員から連絡が入りまして』
「それで?」
『この気持ち悪い物体は子供を狙っていた敵が関係しているのだと思います。恐らく、敵の目的は最終段階に入ったのだと』
ドレイナは舌打ちしたくなる衝動を寸前で押しとどめた。ここで苛立ちを露にしたところで事態が好転するわけでもない。それよりこれからどうするかに思考をシフトさせる。
「なら、この肉の塊は今すぐに消し炭にした方がいいのかしら。見ていて気分が悪い」
『どうでしょうかね……刺激を与えても大丈夫なモノなのかわからないし、下手に手を出さない方が賢明かと』
エクルーナと話している間に柱は三十メートル以上にまで達した所で、ようやく成長を止めた。びくびくと果実が蠢いたかと思えば、花が咲くように開く。そこから牙の生えた口のついた触手が何本も現れた。
「あれは、食肉トレント……!」
「それって、食った分だけ成長するっていう……あんなにデカくなるんですか!?」
「際限なく成長する、とは聞いたことがあるけど、本当だったなんてね。知りたくなかったわ」
「まさか、行方不明になったエルフを食わせて? いや、それにしては大きさがあまりにも」
「考察は後にしましょう。オルトは混乱しているであろう騎士団の指揮に戻って国民を可能な限り町から離れさせて。エクルーナは攫われた子供の場所の特定と、敵の目的の特定と阻止する方法を模索を」
「では、陛下は安全な場所に退避を」
「馬鹿を言わないで。ここまでやられて逃げ隠れするわけにはいかないわ」
声音こそ平静を保っていたが、瞳は怒りに満ちていた。その殺意は味方であるはずのオルトでさえ気圧されるほどであった。
「私のことより、今は民を護ることを優先しなさい。それが騎士団の役目でしょう」
「……わかりました。ですが、くれぐれも無茶なことはしないようお願いします」
不承不承ながらも、オルトは命令に従いその場から離脱した。一人残されたドレイナは空に張り巡らされた不気味な肉の塊を見上げ、
「さて、どうしたものかしらね」
と言葉を零した。
『――! ――い! 起きろって、兄弟!』
シャム猫の声が聞こえて眼を開けると周りの風景は一変していた。天井は通路に沿って丸々なくなっており瓦礫が辺りを埋めていた。
幸いにも生き埋めになることはなかったようだが、安心する間もなく久々に見る青空には気持ち悪い肉塊が浮いている。
『どうなったんだ? なにが……』
『あの人間が助けてくれたんだよ』
言われて視線を向ければ、横たわるモータルの姿があるのを見つける。攻撃をモロに食らったのか、体中に血が滲んでいた。息はあるようで、ミクロアが必死に手当てをしていた。
魔法は使っていないようだが、魔力が枯渇しているのだろう。手当こそしているが、意識を保つのがやっとのようだった。
『アリィは?』
『連れて行かれちまった……追いかけようと思ったんだが、暗いし道も塞がっちまって、どうしようもなくて……そうしたらいきなり、天井がなくなっちまったんだ』
話を聞いても要領を得ない。シャム猫も何が起こったのかよく分かっていないのだろう。とにかく状況の確認と、アリィの行方を調べないと。
「おーい! 大丈夫か?」
不意に頭上から声が聞こえて視線を上げれば、騎士がこちらを覗き込んでいる。
「見つけたぞー! こっちだ、みんな来てくれ!」
騎士が呼びかけると、数人の騎士たちが集まって来た。数人が下に降りて来てモータルやミクロアを保護していく。
ミクロアはもともと限界だったのか、助けに来てくれた騎士の手を取り立ち上がろうとして、そのまま気を失ってしまった。
猫たちも上から垂らしてくれた縄梯子を伝って、下水道から自力で脱出していく。見た感じ、怪我こそしているものの欠けている仲間はいないようだ。
救助される二人と脱出していく仲間たち。けれどその中にラムダの姿は見当たらなかった。
もしかしたら吹きとばされてそのまま瓦礫に埋もれてしまったのかもしれない。そう思って、俺はラムダが吹き飛ばされていった方へと探しに行く。
青天井になってしまった通路を少し歩くと、瓦礫の影で身体を丸めるように膝を抱えて座り込むラムダを発見した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます