協力者

 タイプライターを使ってモータルへの手紙をしたためる。


 内容としては、軽い相談事のお願いだ。


『モータル様へ。突然のお手紙、失礼いたします。今回は折り入って相談したいことがあり、連絡を取らせていただきました。

 以前、黒猫にお使いを頼んで持って来てもらったお弁当ですが、空間に作用する魔法を使用すると聞きました。

 私は現在、転送魔法について研究を行っているのですが難航しており、空間魔法についてご教授願えないでしょうか。関連書籍を教えていただくだけでも構いません。

 協力してもらえるのであれば、私が出来ることであればお力をお貸しできると思います。

 返事は使い魔である黒猫へ渡してください。ご検討のほど、よろしくお願いします。

 ミクロアより』


 こんなもんかな。ちょっと文章的に変な部分もあるだろうが、俺がこちらの言語で書ける丁寧な文章はこれが限界だ。


 ミクロアもまだ若いし、多少の不備は許してくれると信じよう。


 完成した手紙を持って先ほど、実験をしていた場所へ行ってみる。治療を終えたのか、モータルは研究を再開させていた。


 彼女が一人になって、尚且つ手が空いたタイミングを見計らって近づき、声をかける。


「あれ、この前の猫ちゃん。どうしたのぉ、こんな所で……ん、なに咥えてるのぉ?」


 こちらに気づいたモータルは、しゃがんで俺の咥えていた手紙を手に取った。


「これ、あたしに?」


 俺が頷くのを確認して、モータルは手紙の内容を確認する。ざっと目を通し、怪訝な表情を浮かべてから複雑に表情な浮かべる。


「あのお弁当、ミクロアさんの所に行ったんだぁ……というか、あなたミクロアさんの所の使い魔だったのねぇ」


 ちらりと、他の職員たちの方を気にしながらモータルはこそっと俺へ耳打ちする。


「お弁当、ごめんね。あの時は徹夜続きだったのと実験が成功して変なテンションだったから……大変なことになったでしょ? ミクロアさん、怒ってなかった?」


 どちらかと言えば怒っていたが、俺に対してだけだったし、多分もう忘れているだろうからここは頷いておく。


 ホッと安堵した様子を見せてから、モータルは手紙に視線を戻した。


「空間魔法についてか……教えるって言っても複雑だしなぁ。しかも転送魔法に使えそうなモノとなると……」


 ブツブツと考えを口にしながら手紙の内容に応えようとしてくれる。しばらく逡巡した後、モータルは立ち上がって仲間たちの方へと振り向いた。


「ボタルクさーん、ちょっといいですかぁ?」


 モータルの呼びかけで反応を示したのはチームリーダーっぽい壮年の男だ。彼は話を中断してこちらに歩み寄ってくる。


「どうした。モータル」


「実はぁ、ミクロアさんが転送魔法で使えそうな空間魔法を探しているらしくてぇ」


「ミクロア、ってあの……? お前、あの子と接点があったのか」


「いや、あははー、まあちょっとぉ……で、なにかいい感じの魔法、あります?」


「転送魔法関連はマーロックの事件以来、タブー視されてたからな……俺も詳しくはないんだが」


 そう言いながらもボタルクはモータルの問いかけを無下にすることなく逡巡する。


 そうして、何か思い当たる記憶があったのか「そういえば」と口を開いた。


「一時期、転送魔法の研究に協力していたって聞いたことがあるな」


「えぇ、そうだったんですかぁ? 初耳です。誰が言ってたんですかぁ?」


「確か、あれはジャスタさんだったかな」


 予想外の人物の名前が出て、ピクリと耳が動く。驚く俺の横では、モータルはピンと来ていない様子で首を傾げる。


「えぇと、ジャスタさんっていうのはぁ……」


「おいおい、まさか知らないって言わないだろうな。ジャスタさんは空間魔法の第一人者だぞ」


 えっ、そうだったのか。あの人、もしかして物凄い人なのか?


「昔は空間魔法研究のほとんどはあの人が取り纏めてたんだ。俺も部下として働いていた」


「へぇ、凄い人なんですねぇ。でも、今は違いますよね? あたし、会ったことないと思うんですけどぉ」


「そうだな。今は所長の下で働いているからな。というか、本当に知らないのか」


「あははー、まあ、はい」


 モータルの反応に、ボタルクは頭を抱えながら深いため息を吐く。


「お前なぁ……よし、いい機会だ。お前、ちょっとジャスタさん所に行っていろいろと聞いて来てくれ」


「えぇ、あたしがですかぁ? というかいろいろって」


「研究も行き詰ってたし、いい案を出してくれるかもしれない。あの人、結構面倒見良いし、俺が行くより若いお前が行った方がいいだろ。時間調整はしておくから、質問とか考えとけ」


「わ、わかりましたぁ」


 モータルは戸惑いながらも頷く。そうしてポタルクが立ち去ってから、俺に向き直った。


「と、いうわけだから、日時が決まったらまた知らせるねぇ」


 どうやら俺も一緒に来いと言っているようだ。


 いちいちアポイントを取ってもらわなくても俺はいつでもジャスタとは会えるのだが……せっかくだし一緒に行くか。


ミクロアは、誘っても来ないだろうな。


 というかジャスタは以前、転送魔法に関わっていたことがあったのか。エクルーナは何も言っていなかったが……まあ、俺に伝えることではないと判断したのだろう。


 実際、別に俺には関係のないことだし、ただちょっとくらい言っといてくれてもよかったんじゃないかと、どこか釈然としない気持ちがあったのも確かだった。

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