第4話
その人は板橋区に住む派遣社員の人で、一人暮らしだと言っていた。わざわざ俺の横に座って来たのに、なぜか自分の話ばかりする。
「エドさんが紹介していたお店、全部行きました」
「うそ。まじで?」
夜遅いからか、化粧が取れかかって顔がテカテカ光っていたが、色白で肌がきれいな子だった。黒縁の丸い眼鏡をかけているけど、顔の作りはきれいだった。その子の話は全然頭に入って来ないで、この後店を出たら、その子を何とかしてホテルに誘えないかということばかり考えていた。
「今日は一人?」
「はい。大体、いつも一人なんです。友達がいなくて」
「へえ。そんな風に見えないけどね。だけど、女の人で一人は珍しいね」
「ですよね。でも、平気なんです。いつも、思いつきで行動する方なんで。今日もたまたま思い付いて来たんです。今、派遣なのも、すぐにどこにでも行けるようにって思って」
「いいね。そういうの…俺なんか月曜日また会社だし…」
俺は今日死ぬのにそう言った。
「私もですよ。一応、契約のあるお仕事は必ずやるようにしてるので」
「えらいね」
「でも、当然ですよ。派遣先に迷惑かけちゃうし」
「どの辺で働いてるの?」
「今は〇〇です」
その駅は、俺の自宅の最寄り駅の隣だった。
「うちの近所だ」
俺は思わずそう言った。
「すごい!あんな都会に住んでるんですか」
「うん」
「めっちゃ、金持ちですね。だから、食べ歩きとかできるのか…いいなぁ」
「そうでもないよ。タワマンとかじゃないし。もし、いつも一人なら、今度、一緒に行く?」
「え?本当ですか?」
「うん。俺も一人だとつまらないし」
俺はできもしない約束をした。
「ぜひ!連絡先交換してください」
「じゃあ、TwitterにDMして」
「はい!」
俺たちは三時間くらい店にいた。さすがに長居し過ぎたから、その後、飲み物やスイーツを追加で注文した。もう、お腹がいっぱいだった。
その子は全然帰ろうとしないまま、最終的に閉店まで一緒だった。
ホテルに誘ったら、付いてきそうだなと俺は思った。
二人一緒に店を出た後、俺は白々しく言った。
「この後、時間ある?」
「はい!」
どこまでも付いて来そうな感じだった。俺はタクシーで自宅近くの夜景のきれいな公園に行くことにした。
「タクシー初めて乗りました。東京で」
「はは。若い子はタクシーなんか乗らないよね」
「移動は100パー電車です」
若いうちはその方がいい。電車に乗って、後は目的地まで歩けばいいのだ。タクシーは高すぎる。
俺は公園につくと、彼女の手を握った。すると、嫌がる様子もなく照れながら笑っていた。変わった人だなというのが俺の印象だった。
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