第3話
俺が夕飯に選んだのは回転寿司だ。
割といいネタを使っている店なのだが、一人だとカウンター席になるからあまり行きたくなかった。
しかし、今は関係ない。隣にカップルがいても、どうでもいいと思える。俺は値段を気にせずに好きなネタを次々に頼んで胃袋に収めて行った。うまい物を食えるって幸せだ。何だか涙が出てくる。本格的に泣いていたわけじゃないけど、目じりにちょっと涙がにじんだ。
俺はそこで腹いっぱい食って、その後は、前から行ってみたかった喫茶店に向かった。ネットで見た店だが、珈琲が美味しいらしい。レトロな雰囲気に惹かれていた。ずっと気になっていたのだが、俺はカフェインが駄目で行くチャンスがなかった。しかし、最後くらいはカフェインを取ってもいいかもしれない。
俺は珈琲とケーキのセットを頼んだ。もう腹いっぱいで食欲はないのだが、写真を見たら食べたくなってしまった。
俺は写真を撮ってTwitterにあげた。
『最期の晩餐。回転寿司の後は◎◎◎の珈琲』
俺は珈琲をチビチビと飲んだ。カフェイン過敏症だから、手が震え始めた。顔もついでにブルブルと震えてくる。でも、雑味のない珈琲の香りは心を落ち着かせた。
「あの…」
俺は思いがけず、誰かに声を掛けられて聞き返した。
「はい?」
何か落としたのかもしれない。多分そうだ。そういう用事以外で俺に話しかける人はいない。目の前にいたのは、眼鏡をかけた若い女性だった。髪を後ろに結んでいた。女子高生みたいな制服コスプレをしている。いや、普段着なのかもしれないが。
「今、Twitterにあげましたよね。お店の珈琲とケーキ!」
手を組んで目を輝かせながら俺を見ている。
「え?」
「ED Walkerさんですよね?」
「はい…」
俺は普段だったら違うと言っただろうけど、最後だから「そうです」と答えていた。
「前からTwitter拝見してたんです。まさかご本人いお会いできるなんて。感激です」
「ああ、ありがとうございます。もしかして、フォローしてくださってるんですか?」
「はい。まだ30人くらいの頃から」
俺のフォロワーなんて300人くらいしかいないのに、どうやって俺のことを見つけたのかと不思議だった。
「お隣いいですか?」
「どうぞ」
その人は店の店員に言って席をわざわざ変えてもらっていた。最後の日に初対面の人と話すのも悪くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます