第10話
だいぶ綺麗になった荒屋は、やっぱり人が住めるような状態ではない。どこから修理するのが正しいのか悩むノアは、荒屋に戻るついでに手に取った『建築のすゝめ』という題の本をぱらぱらと捲りながら、むむっと眉間に力を入れる。
ここにはノアのことを鞭打つ教育係も教師もいない。
そう思うと、ノアはいつもは苦しむお勉強のことをなんだか楽しく思うことができた。
純粋に興味を持ったことについて知る、学ぶという行為は、ノアにとってとても有意義なものであると感じた。
———他人に与えられたものを頑張るだけじゃダメなんだ。自分で必要なものを見つけないと………!!
ぎゅっと本をほんの少し小さな力で握りしめたノアに笑いかけた魔女は、ノアの指示をじっと待っている。
———わ、分からない。
修理の順番なんて本には書いていなかった。
どこからやれば正しいのか分からないし、どうすれば上手くできるのかも分からない。けれど、魔女がいればなんとかなるんじゃないかとノアは思った。
だから、自分の思うように指示を出す。
「ま、まず床を塞ぎます」
「はぁーい」
足場がしっかりとしてくるだけでも作業は格段にやりやすくなると踏んだノアは、魔女に手により修復されていく床に視線を釘付けにした。
ぱらぱらと広がる木屑が淡い光を放ちながらぴっちりとくっついていきぴかぴかに磨き上げられた床になるさまはもはや圧巻でしかない。
人智を超えた力を目の当たりにすることが初めてであるノアには、その光景はとても美しく映った。そもそも、こんなにも美しい景色を見慣れる日なんて来ないかもしれない。
「ふふっ、面白いぃ?」
「はい。とても興味深いです」
超常現象が起きる原因を知りたいということは、誰もが1度は思うことだとノアは思う。魔法のような神秘的なものの理論など、なおのことだ。
———学びたい。
心の奥底でふつふつと湧いていた欲望は、やがて大きな泡となってぱちぱちと弾ける。
弾けた欲望をグッと抑え込んだノアは、魔女に次のお願いをする。
「次は屋根を直してください」
「はぁ〜い」
塞ぐついでに錆なども取り除く魔女の早技に感心しながら、ノアは普通ならば半年ぐらいかけるであろうリフォームがあっという間に終わっていくことに、遠い目をする。
———これ、僕絶対にいらないな………、
床と屋根がぴかぴかになったのを見届けたノアは、ネズミが入って来そうな穴を指差しながら、くちびるに声をのせる。
「次は壁を———………、」
1時間後、荒屋は元の影形を失った美しきログハウスへと変貌していた———。
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