第11話
▫︎◇▫︎
「うわぁ、綺麗になったねぇ」
「………………」
———コレは綺麗になったなんてレベルじゃないと思う………、
豹変した荒屋もといログハウスを前にして、顔や身体に付着した汚れを拭いながらノアは遠い目をしていた。
ぴょんとログハウスの中に入った魔女はくるんとターンし、声高々にナレーションのような言葉を紡ぐ。
「なんということでしょう!屋根からは雨水が滝のように滴り落ち、壁からは元気に木を齧るネズミが入り込み、歩くたびに床が抜けていた巣が、木目の美しいログハウスへと変化しました。これでもう自然環境と同化しすぎる心配はありません。床下貯蔵庫と屋根裏にあるお星さまを眺めることのできるお部屋は、匠からの頑張り屋さんなノアへのプレゼント」
ぱっと両手を広げてはしゃぐ魔女に、ノアは不思議そうな表情を向ける。
「………………それ、なんなんですか?」
ノアの言葉をうけ、何事もなかったかのように普通に佇んだ魔女は顎に手を当て、悩む仕草をする。
「んー、びっくりリフォームの後のお約束ごとぉ?」
「お約束………、」
やっぱり世界にはノアの知らない常識に満ちているようだ。
———僕にはまだ、たくさんの学ぶべきことがある。
決意を新たにしたノアは、魔女と共にリフォームしたお家の中を探検する。
ぴかぴかに磨き上げられた木目の美しい飴色の床、白にクリーム色の蔦柄の入った壁紙、焦茶色の棚たちも綺麗に修復されている。天井には暖かな光を放つランプが下げられていてお空にお花が咲いているようだ。
キッチンには地下室への梯子が設置してあり、下からはひんやりとした空気が登ってきている。ここならば食べ物を腐らせることなく、しっかりと保存することが可能だろう。
———腹痛は2度とごめんだ。
魔女の出した腐った保存食を思い出したノアは身震いしながら、次の場所を探検する。
お風呂場に手洗い場など、橙をメインカラーとしてリフォームされた日常生活に必要な場はキッチン同様に子どもであるノアが使いやすいように、いくつもの工夫が重ねられていた。
———ぽかぽかする。
心の中いっぱいに広がる暖かな感覚に、ノアはくちびるをもにょもにょと動かす。
魔女に促されるままに屋根裏部屋へと上がったノアは、濁りの薄くなった新緑の瞳にきらきらとしたものを宿す。
「うわあぁ………!!」
屋根裏部屋に登ると、そこには秘密基地みたいな空間が広がっていた。
大きくて家の長い水色のラグのひかれた飴色の床に、濃紺のお星さまを閉じ込めたかのような壁紙、そして天井にはお星さまのランプがいくつもぶら下がっている。
『プラネタリウム』
ふっと頭の中を過った言葉がいつ聞いたものだったかは思い出せないけれど、このお部屋がまるでプラネタリウムみたいな空間であることはなんとなくわかった。
「気に入ったぁ?」
「はい、………とっても」
思わずため息のような声を出してしまったノアに、魔女は眉尻を大きく下げる。
「失敗だったかなぁ?」
自分の行動の未熟さに気づいたノアは、慌ててぶんぶんと首を横に振る。
「すごく綺麗で、言葉が、見つからないんです」
「本当にぃ?ほんとのほんとの本当にぃ?」
魔女の問いかけに今度は頭を上下に振ったノアは、けれど次の瞬間首を傾げた。
「でも、こんな素敵な空間、どうやって作ったのですか?魔法だけでは無理、ですよね?」
魔法は基本的に世界への過干渉を禁止されている代物だ。
つまり、魔法を使用して新たな物を作り出すことは原則的には不可能なのだ。
「お外にあったのからぁ、使えそうなやつだけ引っ張ってみたぁ」
「そうだったのですか」
———気づかなかった。
自分の洞察力がまだまだ足りないことを悟ったノアは、ラグの上にどさっと座り込む。夜空に包まれたようなお部屋は、ノアの宝物になった。
「………やっぱり、綺麗だな………………、」
王宮からは見ることのできなかった満点の星空が、このお部屋で見えたような気がした。
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