九回目の異世界 3
……どういうことなんだ? これは。
俺はそれから三つの村を発見したんだけど、これが何処も塩対応。いや、もう完全に拒絶された。俺が勇者である事を明かすと即刻拒絶、無視だ。うーん。
魔物の痕跡はあるんだよ。魔気の濃度も高くて、こんな所に何時までも人間が暮らしていたら、その内に段々魔気で身体も心も侵されて魔物化してしまう。普通の人間ならもう苦しみ初めても良いような濃度なんだけど、村人達は平気な顔をしていたな。
しかし困った。全く情報が集まらない。初期の頃の冒険だったら、食料も手に入らず休息も出来ないで困っただろうな。今の俺ならダメなら直ぐに王都までテレポートの魔法で帰れるから困らないけど(一度来たところには魔法で来られるので、もう一度ここに来るのも一瞬だ)。しかし、何の情報も無いのにこのまま進んでも良いものか?
初期の頃の冒険なら、油断と慢心が大ピンチを呼んだ事は何度もある。しかし、今の俺なら余程の不意打ちを喰らったとしてもまず負けることはあり得ない。背後からミサイルぶち込まれても無傷だろうからな。今の俺は。
結局、俺は情報収集を諦めて真っ直ぐに魔王城へと進んだ。まぁ、行けんだろ、みたいな甘い考えだった。……つまりこの時、既に俺はすっかり魔王の術中に嵌まっていたわけだな。
俺はすっかり油断していたから、ドンドン濃くなる魔気の中を進んだ。しかし、魔物が全然現れない。一回も戦いが起こらない。おかしい。下級の魔物は人間を見付けると無条件に襲って来る奴もいるというのに。
俺くらいになると、魔力の強さを感知出来るようになるから、魔王城の方向は分かる。そして魔物が潜んでいたなら直ぐ分かる筈なのだが。
まぁ、いいか。と魔王城に向かって真っ直ぐ飛ぶ。そしていよいよ魔気が強くなってきたな、と思ったその時だった。
突然、俺は浮力を失った。な、なんだ? 慌てて浮遊魔法を掛け直しても飛ぶ事が出来ない。俺はなすすべなくかなりの上空から地面に落下した。そこは深い森の上空だった。
「うわあぁぁぁぁあ!」
漫画のように地面にクレーターが出来る事はなかったな。地面に叩きつけられたおれは三回くらいバウンドしたよ。ぐおー! さ、流石に痛い。ヒットポイントが二割くらい減ったぞ! って、おかしい?
俺には物理攻撃、魔法攻撃耐性上昇のバフが掛けてあった筈だ。確かにあんな高さから落ちたなら、多少のダメージは喰らうだろうけど、それにしたって魔物の魔力弾を軽く跳ね返す俺の防御力で、いきなり全HPの二割ものダメージを負うはずがない。
俺は慌ててステータスを確かめる。するとバフが消えているどころか、ダメージ率上昇のデバフまでが掛けられていることが判明したのだ。な、なんだと?
そして更に驚きだったのは、HPを回復させようと治療魔法を自分に掛けようとしたのに、なんとMPは減ったのに魔法が発動しない事だ。なんだと? つまり俺は魔法を封じられているのだ。突然飛行魔法が効力を失ったのはそのせいだろう。魔法無効の術をかけられたのだ。
そ、そんなバカな!
確かに、魔法無効術というものはある。初期の頃、魔物の中にこの技を使う奴がいて、かなり苦しめられた。しかしながら、魔法無効が効力を発揮するには、術者側が相手よりもかなり高レベルである必要がある筈だ。
俺は今の時点でレベルは27だ。前回倒した魔王のレベルは15だった。それはそうだ。俺は九回目だもの。なのにその俺が魔力無効に囚われ、しかもデバフまで掛けられている。これは敵が、おそらく魔王のレベルが30以上であることを示していた。
俺はゾッとした。しまった。まさかこの世界の魔王がそんな高レベルだなんて。
ここ数回の冒険で、俺より強い魔王などいなかったから完全に油断していた。当然、そういう可能性も考えておくべきだったのだ。俺のレベルは別にカンストしているわけではないのだから。
とにかく、魔法が使えず、デバフで防御力も魔法防御も衰えている俺がこのまま進むのは危険過ぎる。俺は魔王城に向けて進むのを諦めて戻る事にした。飛べないしもちろんテレポートも出来ないので徒歩でだ。方向も怪しい森の中をトボトボと歩く。
しかしすぐさま困難にぶつかった。しまった。水も食料も無い。飛んでいってあっという間に決着をつけるつもりだった事。補給しようにも途中の村では塩対応過ぎて無理だった事が原因である。俺はすぐさま飢えと渇きに苦しむ事になった。懐かしいなぁ、最初の冒険では森の迷宮にハマって仲間と五人で、飲まず食わずで死にかけたっけなぁ。
って、懐かしんでいる場合ではない。当時よりHPは多いとはいえ、今はダメージ率上昇のデバフも掛かっている。自動回復のバフも切れている。このまま迷い続ければ命に関わる。
そして更に悪辣な事に、この期に及んで魔物が出るようになったのだ。飛んでいる最中には全然見なかったのに。
しかも魔物は生意気にも正面から攻撃するのではなく、俺の後ろや側面から奇襲を仕掛けて来た。更に、攻撃したらすぐさま逃げ去るヒットアンドウエイの戦法を仕掛けてきたのだ。俺が休息していると木々の間からドカンとくる。俺が攻撃しようとすると逃げる。うざい事極まりない。
しかし俺はゆっくり休息を取る事も出来ず、ジワジワズルズルとHPを減らされ続けた。まずい。これは本当にまずい。俺はもはや恥も外聞もなく、木の葉を齧り朝露を集めて飲んでなんとかHP減少を食い止めようとした。
しかしながらそんな程度ではどうにもならない。俺は疲労困憊し、HPは残り二割になってしまった。
そしてその時、奴が現れたのだった。
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