第5話 決意表明

一日二回もくつが落ちているところを見た人はいるでのしょうか?おそらくいないでしょう。でも、そんな不思議なことに思いをはせるよゆうは、その時のわたしにはなかったのです。その黒いスニーカーのとなりに茶色のサンダルをおいて、きた道をのろのろと帰りました。それでも、家に帰って(ぎりぎり間に合いました)、ご飯を食べて、おふろに入って、テレビを見て、ふとんに入ると、やっぱり気になってきてしまいます。だから、次の日、小さな声で「行ってきます」と言って、また、橋に行ったのです。


橋の真ん中には昨日と変わらずに茶色サンダルと黒いスニーカーが落ちていました。まだ、おっちょこちょいさん達は、来ていないようです。ふと思いたって、黒いスニーカーをさわってみることにしました。

黒いスニーカーはふかふかで、よごれひとつついていません。

そして、びっくりするほど軽いのです。

風に飛ばされないのが不思議なぐらいでした。

見るからにサイズが大きくなければ、ほんらいはだめなのですが、思わずはいて走ってしまっていたかもしれません。

それぐらいそのくつをながめていると、走りたくなってきてしまうのです。

次に、改めて、茶色のサンダルにもさわってみました。

スベスベしています。それ以外は、とくだんいうことはありません。

ただのサンダルです。

でも、落としてしまって何とも思わないような物ではないと思うのです。

こうしてみると、やっぱり、こうばんにくつを届けようとしたことは正しいことだったと思うのです。

おそらく、持ち主は今もあたふたと自分のくつをさがしているのです。

そうでなくても、どんよりと過ごしているはずです。だって、くつなのです。

わくわくしながら自分で選んだ物なのです。

うつむいた時にじぶんを支えてくれる物なのです。

それがなくなるのは、たぶん、つらいことだと思うのです。

わたしは、じっと、今はいている星マークがついた、水色のくつを見ました。

それは、わたしにピッタリとくっついて、よりそってくれている物でした。

同時に、すでにわたしの一部でもありました。

今まで考えたこともありませんでしたが、このくつが、無くなってしまうと考えてみます。

考えただけで、目につぶがたまってしまいます。

だから、やっぱり、わたしは昨日のわたしは、正しいのです。正しいかったのです。

けれど、正しいとどれだけ思えても、わたし一人では正しいことすらできません。それは、わたしがまだ小さいからでしょうか?そうであったらいいのです。でも、そうでなかったら?とても怖いです。だってそんなわたしは、正しくないと思うのです。よくないと思うのです。だから、わたしはこの時決めたのです。

たとえそうであったとしても、今日から正しくなれるように。このくつ達の持ち主がむかえにくるまで、ここに毎日来ることにしたのです。

それが、今自分にできる正しいことだと思ったのです。

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