第五章[ざまぁみろ]その3

「………」

「………」

 二人とも、ないカウントダウンがあるかのように、一秒が立つごとに意識を集中していった。全く同じタイミングで。そこは、一度は仲間であったが故なのだろうか。

『……っ!』

 そして。御枝は、宇沙は、待った同じタイミングで走り出す。爪を振り上げる。視線を交錯させる。

 距離はない。差はつかない。故、お互いの得物は、全く同じ瞬間に打ち合った。

『………』

 そして。

(取った!)

 宇沙は僅かに自分が勝っていると感じた。勝利を確信した。使命をバカにし、自分から自然王の座を奪った、憎い相手の敗北を。

 だからこそ、隙が生じた。少しだけ、本当に少しだけ、力が抜けた。

 ずっと、ただ一つの切実な思いに背中を押された彼女に、その瞬間、競り負けた。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「え………ば、か」

 競り負けた獲物の角度はずれ、競り勝った獲物は、宇沙の体に深々と突き刺さった。

(……そんな、バカな………わたちぃが……使命を帯びた、わたちぃが……)

 裂ける。皮膚が、血管が、骨が、全て。宇沙という存在を構成する肉体の要素のことごとくを裂き、御枝の一撃はついには宇沙の背中を貫いた。

「か……………はっ」

 御枝はそのまま走り出し、背中の腕を一気に伸ばして地面に叩きつけて宇沙ごと宙を舞う。そして彼女を地面に叩きつける。

「……御枝、ちゃ、んに………!?」

 彼女にとってその傷は致命傷ではなく、叩きつけられたショックも致命傷にはなりえない。だが、その傷は動きを止めるには十分であり、その衝撃は、耳栓を弾き飛ばすには十運だった。

「……そんな、ことがぁ!」

 宇沙は、相当無理をして鍔迫り合いをしたのか、荒い息を吐き、頭を少し低くしている御枝に手を伸ばす。

「止まって、宇沙」

「あ………」

 自然王の命令である。従う他ない。彼女が今まで、他人に敷いてきたことのように。

「いなくなって。二度と……私の所に来ないで!邪魔を、しないで!」

 その瞬間、宇沙の体だけが地面に沈み始めた。さらには、自身の存在が霧散するような感覚に、襲われる彼女。

「こ、これは………世界から追放される!?消される!?」

 本能的に彼女は恐怖に染まった声を上げる。

 いなくなって(・・・・・・)。

 それは、この場においては、世界からいなくなれという命令として実行されたのだ。

「わたちぃが、負けた!追放される!どうして、どうして、こうなった!」

 宇沙はやけになって叫ぶ。

 それに上総が答えた。

「君は、人を馬鹿にし過ぎた。使命とやらを楯に、心を踏みにじり過ぎた。そんな悪人は負けると、相場が決まっている。そして何より…………」

 彼女は宇沙に冷たい目を向け、続けようとしたが、

「いや。分かり切っている事か」

「な、なにが……なにがわたちぃが、負けた原因だって、いうんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

一言でいえば。他人を舐め過ぎだろう、君は。


 上総の、その呟きに尽きる。 


▽―▽


「なんか、事後っぽいんだけど」

「そうだな」

「ねえ、詩君」

「何だぜ」

「私たち、完全に蚊帳の外だったわよね」


『はぁ~』


 ドームから抜け出した二人は、ため息をついた。

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