第五章[ざまぁみろ]その2

「提案があるんだ」

「………」

どこかの真っ暗な場所で、上総は御枝に言った。

上総は宇沙にじっとしていろと命令されたが、そこで、とは言われなかった。なので、体勢はそのままに、別の所に湧き出ることが出来た。

そのため、上総の意味深な発言や行動から何かがあるとにらんだ彼女は、御枝達がいた部屋の隅から全てを盗み聞きしていた。

そして、怒り心頭だったらしい。あらゆる真実に対して。そして御枝に対してあんなことを、宇沙が言ったことで。

「君もあの宇沙の横暴には怒り心頭だろう?それはこちらも同じだ。あれは好き勝手に振舞い、人の心を踏みにじった。部外者が言うのもなんだが、許せる者じゃない。幸い、あれは迂闊にも多くの弱点となりうる情報を明かしている。……宇沙を一緒に、懲らしめないか?」

 どうも真面目と言うか、正義感が強いというか。そういう性格であるからこそ怒った上総は、真剣に提案をしているようだった。

「…いや、あんな後の君に言うのはダメだな。押しつけがましい。君が傷ついたのも、こちらの失態のせいなのだから」

 御枝を襲い、苦しめ、アソシアードが消滅する状況を作る原因となったアーフ。彼女は上総により、彼女の意識の断片をいれ、自在に操れる戦力としてつくれた存在だった。

 上総は、当初敵として考えていた自然界過激派が何をしてくるか分からなかったために、何かあったときのためにつくったのだ。意識の欠片が入っていたため、不完全な自我を形成しており、その中途半端故、上総の手駒以上に女神機関としての役割を重視して勝手に動いてしまったりしていた。その結果花枝たちが仲間に加わってくれたので、悪い事とも言えなかったが。

 しかし、その成り立ちに自然界の住人……ようは生物である上総が関わり、また意識の繋がりが多少なりともあったことや、女神機関として機能して事も相まって、奪われてしまい、御枝達に牙を剥いたのだ。

「すまない」

 上総は頭を下げる。

「………」

 彼女の心からの謝罪の言葉に、御枝は上総を見ながら少し首を動かすだけだった。

「…少々ヒートアップしていたな。こちらのやりたいことを押し付けるのはよくない」

「……」

「気にしないでくれ。………そうだな。付き合わせるのも悪い。君をどこか遠くに送ろう。宇沙が分からないようなところに」

「……私のため?」

 御枝は少し目を細める。

「そうだ。君のため……」

「いい。私のためにしてもらうなんて……苦しいの……!」

 いきなり叫んだ御枝に驚いた上総は、

「す、すまない……」

 思わず謝った。

 そして数秒の静寂の後。御枝は上総を見つめ、口を開く。

「……ねぇ」

「なんだい?」

「……懲らしめたら、世界、変えられる?また会えるように、できる?」

「……はい?」

 上総は変な方向に飛んだ御枝に発言に混乱する。

「どうなの?」

 上総は少し考えてた。彼女が考えている懲らしめる手段で得られるもの(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)で、確かに世界を変えられる……そのヒントだけでも得られるかもしれないと。



▽―▽


「ようやくみつけたよ?二人とも」

『!』

 宇沙はいつもの通りの表情で、御枝と上総の前に躍り出る。場所はドームのあった森の奥地。

 そこに湧き出た二人に気付いた宇沙は、驚かすためにか地面から素早く出てきたのだった。二人は驚き、数歩下がる。

(何を企んでるのかな、無駄なのに)

 宇沙は余裕そうに御枝達から離れるように歩いていきつつ、二人を観察する。

「……宇沙」

 上総は宇沙を睨みつける。

「面白い表情をするんだね?あははは!くだらない!どんなしょうもない事に怒ってるの?」

「ふざけるのもいい加減にするんだ」

「イヤだけど?……っていうかそれはいいんだけど。二人は一体何を企んでいるのさ」

 宇沙は歩みを止めて二人の方に向き直る。

「企むもなにもない。君を懲らしめる……いや、徹底的に痛い目に逢わせる。君は人の心を傷つけ過ぎた。その報いを受け指してやる。そのために……」

 上総は一度言葉を止め、続けた。

「御枝ちゃんと協力することにした。まずは君を、物理的に痛めつける!行くよ、御枝ちゃん!」

 彼女はそれまで黙っていた隣の御枝に向かって言った。

 しかし、彼女の行動は予想だにしないものだった。

「うるさい」

「な……」

「お」

 上総の頬を平手打ちし、あまつさえ蹴り飛ばしたのだ。

 それを見た宇沙は目を三日月形に歪める。

「…………結局、あなたの言ったこと全部、世界を変えるには役に立たない。けど、宇沙は………自然王は。世界を変えられるかもしれない」

 御枝は倒れた上総を見下ろしながら、どこかぎこちなく言う。やや声が固かったが、宇沙はそれに気づかない。

「へぇ」

 彼女は状況が妙な方向に向かったことを面白がり、笑い声を上げそうになって肩を震わせる。

「……ねぇ。私の理性の事、事実をなかったことにするって言ってたけど。知る人が誰もいなくなれば、いいよね。それならなかったも同然だよね」

「そうだけど?」

「だったら、上総たちの記憶を消してよ。私のは消さないで。世界を変えるために協力してよ!そのためなら、私なんでもするから!」

 御枝は宇沙のところに駆けていってそう言う。

「お願い!ねぇ!」

「ふふふ」

(……なんか面白いことになってるなぁ。世界を変える方法なんて知らないけど、了承しとくかな?可哀そうな御枝ちゃん)

「いいよ。一理ある気がするし。それならまず、上総が逃げられないようにボコボコにしてね?」

 その言葉に、御枝は頷く。分かりやすく嬉しそうに見える風に。

「………み、みえちゃん………そんな。利用するのか!」

「うるさい!世界を帰るためなの!アソシアードに会うためなの!黙って犠牲になってよ!」

 相手の声をかき消さんばかりに、御枝は叫ぶ。

「そん、な……」

 その言葉に、上総は絶句する。

「…あははははは!凄い面白いよ、この状況!さぁ、御枝ちゃん、やっちゃって!」

(御枝ちゃんの願いなんて叶わないけど。それはそれでいっか。また絶望する顔を見るのも、また一興だしね!)

 そんな腐った思考を展開しながら、宇沙は自身に背を向け、上総の方を向いた御枝に目入れした。

「上総を存分に痛めつけて」

「分かった」

 そして、御枝は背中の杭から腕を勢い良く伸ばした。

 宇沙に向かって(・・・・・・・)。

「へ?」

 一瞬、状況が理解できずに、宇沙は驚いて止まる。

 だが直後、何か不味い事が起きたと判断する。

「…御枝ちゃん忘れて!アソシアードの事も、なにもか…」

 彼女は、御枝に全てを忘れさせることで、彼女の行動を無意味にしようとした。全てを忘れれば、その時の自分の行動も意味も忘れ、自然にとまるだろうと咄嗟に判断したのだ。

 アソシアードの名前を挙げたのは、先の御枝の呟きから、彼の存在が彼女の今の行動に関わっていると瞬時に考え、真っ先に消そうとしたから。

 しかし、この場においては無駄なことだった。

即座にそんな判断を下すことのできる頭を持ちながら、彼女は慢心によって考えることを何もせず、その長所を潰していたから。自然王と言う位に胡坐をかき、全てをなどっていたから。

「……慢心は好きを生み、騙しやすくなるものだ」

 御枝が宇沙を、背中の腕で弾き飛ばし、上総がその様子を見て笑った時、宇沙の頭にくっついていたヘッドドレスはむしり取られ、既に御枝の頭に収まっていた。

「……な」

「べぇだ」

 彼女もまた笑いながら、舌を出して宇沙を煽った。

「……な」

 彼女はそこで、初めて動揺した。

「……な。な。なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 即座に宇沙は袖を操り、御枝の頭のヘッドレスを取り返そうとする。

「!」

 袖の長さは十メートル。彼女と宇沙との距離はそれほど開いていない。さらに言うならば、袖の動きは速い。御枝が攻撃範囲から逃げるまでの時間など、到底与えてくれないし、彼女が宇沙に止めるように命令する隙もなかった。

「返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 三。二つの袖は御枝の背中から生えた腕の攻撃を回避。二。御枝の頭上に袖二つが素早く昇る。そして一。二つの袖がヘッドドレスを奪い取ろうと広がる……はずだった。

「きゅ」

「……!?」

 宇沙は対応できなかった。それほど素早く、執念を持って投げられた二つの爪は見事に、袖を根元から切断している。接続をたたれた袖はただの布に等しくなり、はらりと御枝の頭に。

そして彼女は、直ぐに走って距離を取る。

「マスター……!?そんな、ただの従僕がなにを……」

(…まさか、自然王の証が奪われたから、絶対服従の命令が、無効になった…!?けどそれでどうしてマスターが攻撃を仕掛けて……)

「きゅぅぅぅぅぅ」

 上総のところに戻った御枝のそばに滑るように行ったマスターは、宇沙を怒りのこもった視線を向ける。声も、音質こそそこまで変わらないが、怒りがにじみ出ているのが簡単に分かった。

 彼は、宇沙の命令に従わされ、自身がつくったアソシアードを好き勝手利用された挙句、あんなことになった。一緒に日々を過ごした彼の意識も、彼女の仕組んだ運命のせいで消滅した。そう言ったことを、彼は怒っているのかもしれない。

「……く、返せ!たかが住人の一体に、それは渡して……」

 そう叫び、上総は直接奪おうと御枝に向かって走る。そして手を伸ばし、あと一歩で目的のものに手が届くというところで、御枝は咄嗟に口を開いた。

「……宇沙は後ろに大股十歩!」

「!」

(命令権が……奪われた……!)

 彼女は冷や汗を流しながら、御枝の命令に従って後ろに大股十歩分、後方に跳躍し、着地する。

 悔し気に顔を歪める。

「……御枝ちゃん。今、どんな感じかな?」

「?…なんか、すごく力が溢れるけど…?」

 彼女は警戒を露わにしつつ、自身の手を開いたり、握ったりしながら言う。

「……そう。やっぱり」

(王座が奪われた……命令権の奪還しなくちゃ……不味い)

「なら………」

 宇沙は立ち上がるような動作をする。

(けど、今はまだ慣れていない様子。……なら、命令するときの言い方は分からない。さっきのはとっさに出たまぐれなんだからね……)

「御枝ちゃん、来るぞ……!」

 上総が警戒した様子で叫ぶ。そこで御枝は何かを命令しようとした様子だが、うまく言葉にできずに口をパクパクさせるに終わる。

(予想通り…………)

「……王座は奪われた。……けど」

 宇沙は冷や汗を流しながらも笑う。

「そこに由来するのは、命令権だけだ……!」

 そして、足を踏み出し、御枝に向かって一気に走り出そうと、

「させるか!」

 ……するふりをし、目の前に湧いた上総を欺いた。

「な!」

 宇沙は一歩を踏み出したところで一気に地面に沈……もうとした。

「宇沙、沈まないで」

「………!」

「宇沙、もう湧いてこないで」

 その御枝の命令にしたがい、宇沙の体は沈むこと叶わず、目の前の上総と衝突する。

『むぐっ!?』

 即座に、宇沙は離れようとしたが、勢いが止まらず、もんどりうって倒れる。その瞬間、上総は宇沙を蹴り飛ばした。

「か………はっ………!?」

 肺から空気を吐き出しながら、彼女は後方に飛ばされ、地面を転がる。

「な……んて。力………」

 ようやく回転が止まったところで、彼女は髪に隠れた側頭部を触りながら、ゆっくりと起き上がる。

 そこに、もう慣れた様子の声が届いた。

「宇沙は、そこを動かないで。二度と」

「な………く」

 宇沙は悔しげな声を漏らして腕を動かそうとするが、微かに震えただけで、それ以上動かないように見えた。

 ヘッドドレスがある御枝は、いまや自然王となっている。である以上、自然界の住人である宇沙は自身の意思に関係なく、王の言葉に従うしかない。

「御枝ちゃん…どうしてこんなことを……」

 もはやどうしようもなくなった宇沙は、とりあえず口を開く。

「……自然王の座を簒奪するなんて……。そう言えば、世界を変えるって呟いてたけど……まさか」

「その通りだ。彼女は世界を変えるためにこれからやってつもりだ。そのために、君には過ぎた権利を、いただいたに過ぎない」

上総は余裕を亡くした様子の宇沙を哀れそうに見ながら言う。

「過ぎた権利……それは御枝ちゃんが持っても同じだよ。何が世界を変える、だ。それはいけないよ。それは究極の星づくりを邪魔するもの。認められるわけがない。今の世界を変えてしまえば、人は進化できなくなる、それは良くない!」

「……知らない。そんな意味わかんないこと、くだらないこと」

 御枝は冷たい視線を宇沙に向けながら言う。彼女はその理由がさっぱり分からない。

「なん?種の進化がどうでもいい?そんなこと……」

「ある!」

 御枝は叫ぶ。

「…じゃぁ、御枝ちゃんはそれを越える動機を持って世界を変えようっていうの!?」

「君は何を言ってるんだ」

 上総は呆れたように言う。

「彼女はただ、大切な相手に会いたいだけだ。君が作り、おもちゃにし、消えるように運命づけ、それを面白がった彼と。それを成すために世界を変えるんだ。分かるか、彼女の悲しみが」

 上総は自身の胸に手を当てて言う。

「部外者で出しゃばりかもしれないが、やはりその悲しみは分かると言えるぞ。君はどうだ!」

 宇沙は目をパチクリさせる。そして首を傾げる。

「どういうこと?」

「……分かるわけないか、今までの行動を見ればわかるな」

「なんなんだよ?」

彼女は心底、上総の言うことが理解できず、さらに首を傾げた。

「まぁそんな君には、そこで永遠にじっとしているのがお似合いだ。雨の日も風の日も、台風の日も落雷の日も、津波の日も隕石が落ちてくる日も、まるで石像の様に居続けるがいい。建物が風化するように、徐々に君の体は朽ちていくだろうが」

「え」

 宇沙の顔が、一気に青ざめた。

「ちょ、ちょっと待……」

「もし朽ちきらずに残るのなら、御枝ちゃんがいつか、この人が会えずに消える世界を変える時を見るんだな」

 上総はそう言い、御枝と一緒にその場を立ち去ろうと背を向ける。

「邪魔は。しないでね」

 鋭い視線を宇沙に向けながらそう言い放つ彼女の後に、マスターも冷たい視線を宇沙に向けつつついて行く。

「ちょっと待って……」

 宇沙は思わず未来を想像してしまう。長い時間をかけ、逃げることも許されずに徐々に体が口行く未来を。

 それはああ。絶対に………あり得ないことなのだが。

「……油断大敵だね。逃げれると思った?」

「!?」

 一気に起き上がった宇沙は疾走し、瞬時に御枝に接近し、蹴り飛ばした。

「かっ………はっ………」

 今度は、御枝が地面を転がることになった。

「残念。取り戻せなかったか」

 宇沙は余裕そうな表情でそう言い、地面に刺さったアーフの爪を抜く。

「うん。抜き身の刀としては、丁度いいかな」

 品定めをするかのように爪を見る彼女に、上総は驚愕した様子で、

「これは、……一体。先程、ヘッドドレスを奪われたことを、君は心底焦っていた。命令権が御枝に映ったのも、君の反応を見る限り事実のはず。それなのに、どうして……」

「上総、もう少し頭を使いなよ」

 宇沙はいつも通りの表情を浮かべながら側頭部の髪を少し、一瞬だけ上げた。

「……耳栓!?」

「そう、耳栓」

「み、みせん……?」

 背中の腕でヘッドドレスが落ちないようにしていた御枝も、起き上がりながら呟いた。

「十分だよ、これで。命令なんて、はっきり聞こえなかったりするだけで、従わなくてよくなるんだから」

「…しかし、君は普通に会話を………」

 そこで上総は、宇沙の目が妙に目まぐるしく動いていることに気付く。

「……読唇か」

「よくわかったね。垂れ流していた情報にも会ったよね?ヘッドドレスは自然王の力の大半。そう、大半。それだけじゃないんだよ。それに、絶対命令権があまりに万能だから、大半って数えてるけど、それがなくてもできることはたくさんあるから」

 宇沙はあざ笑うかのように言う。

「慢心しきってはいるが、腐っても王座についていた者。さすがに特殊技能ぐらいは……ということか」

 頷く彼女。

「さて。散々貶してくれちゃって。ねぇ?」

 その手に握られた剣が空に発生した雷の光を受け、妖しく光る。

「御枝ちゃんは、人類の進化の使命はどうでもいいと言ったけど」




「そんなわけでしょ!」




 大気が、揺れた。

「そんな誰かに会いたいなんて気持ちの方が、よっぽどどうでもいい。そんなことのために、究極の星の構築を邪魔されるわけにはいかない。というわけで」

 宇沙は爪を、鮮やかな動作で振りながら御枝を睨む。

「御枝ちゃん、殺してあげるよ。まぁ、復活は出来るから。その時には王座から追われてるけどね」

「…………」

 宇沙は殺気を発しながら、御枝たちに近づいてくる。

「ああ、そうだ。怒りのままで御枝ちゃんを処理するのも嫌だしね。決闘と言う形にしようか」

 もう一つの爪を拾い上げ、宇沙は御枝の足元の地面に向かって勢いよく投げた。

「使いなよ。言っておくけど、得物がある以上、腕の攻撃は数あっても聞かないから」

 その言い方や出す雰囲気から、それが嘘とはとても思えなかった。

 御枝は目の前に、自身を傷つけたアーフの爪が突き刺さったことで、少し驚き、肩を震わしたが、直ぐにそれを手に取った。

「御枝ちゃん!?わざわざ受けることはない!さっきから潜りも湧いたりしない所を見るに、動くなという命令の前までは効いている。なら、ここは逃げればいい。どこまでも追われるなんてことはない。だからそうすれば……」

「ダメ」

 御枝は首を左右に振った。

「…逃げても、いつか邪魔される。あんなおっきくて、よくわかんない話を理由にして。宇沙は絶対にそうする気がする」

 宇沙は静かに笑う。

「それは嫌なの。はやく、はやく……に、会いたいのに……会いたい、会いたい、会いたい、会いたいのに、邪魔されて遠のくのは、絶対に………!」

 彼女は背中の腕と自身の柔腕を使い、爪を如何にか構える。

「究極の星がどうとか、知らない!分からない、どうでもいい!私は会いたいだけなの!彼に…………!」

「まだ使命をバカにするんだ。………いいねぇ、御枝ちゃん。そっちが勝てたら、好きにしていいよ。……ま、くだらないことに執心する御枝ちゃんに、勝利何てないけどね」

 宇沙は自身の力を誇示するかのように、ヒュンヒュンと音を鳴らしながら、鮮やかな動作で刀を振る。

 御枝はそんな宇沙を、睨みつける。

「勝敗もきっと語ってくれるよ。たかが会いたいなんて感情より、究極の星のための使命の方が、人を後押しするには強く、勝たせてくれるものだってね」

「………あなたも……も?……この思いを否定するんだね……」

 御枝の肩は相変わらず震えていたが、彼女は宇沙をしっかりと見つめながら言う。

「……彼の事も、散々バカにして。仲間って、いつも会えてうれしい人って、思ってたけど。……でも、分かった」

「何が?」

「………私も、あなたが嫌いだよ、宇沙」

「そう、嫌われちゃったか。……ま、勝って記憶消せば関係ないけどね。どうでもいいことだし」

 そう言い、宇沙は手に握る爪を空に掲げる。

「調子に乗った奴を分からせるには、丁度いい」

 いつの間にか、黒雲の隙間から、月が覗いていた。雲に隠れて全体が見えないが、三日月のように見える。

「一撃。それだけで十分。一緒に放とうよ。……そして、自分が無様に負けるのを見るんだよ。そしたら御枝ちゃんに、ざまぁみろと言ってあげるよ。その時、王座は元の場所に変える」

「…………そんなの、嫌だから」

 刀代わりの爪を改めて、片方は正確に、片方は真似するように構えた。

 既に、かつて一緒に時を過ごした仲間同士である、ということは関係ない。

 今この瞬間において、二人はお互いを敵としか認識していない。

 だからここで、勝敗を決する。

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