第三章[彼女の思い」その3

「ねぇ、詩君。私、前々から疑問に思ってたんだけど」

「お、なんだ?」

「あのアーフって女神機関、なんなのかしらね」

 花枝は、草原を歩きながらそう言う。

 アーフは、どうも機体そのものは自動で修復できるらしく、今は上総に片手で持たれながら、修復に専念している。

「あの背中腕の娘といる奴もそうだけど。やっぱり、自我を持つのが気になるのよねぇ。私たちの専門外ではあるけど、調べたくなるわね」

「そうだなぁ。飛び方もなんか変だし。俺たちの作ったデカブツとは違う原理っていうか、なんで羽が常時浮遊して、それが飛行ユニットになるんだ…?」

 詩は頷きながら言う。アーフの羽は、それ自体が浮力を起こしていたり、彼女をジェット噴射で強制的に空にあげる、などの機能も持たないのに、飛行ユニットとして機能している。それはあまりにも奇妙だった。

「……ええ。なんか奇妙なのよね。そんな開発すらされていない機能を持ってるなんて。……自動修復もそうよ。情報を妙に持ってるのも気になるし」

 今まではさほど気にしてはいなかったものの、目的の実現が現実味を帯びてきた今、そちらに思考を及ばすことが出来るようになっていた。

「……一応、目的自体は、元々コードAの端末であった以上、そんなに変でもないけど。………一番怪しいのは情報を持っている事ね」

「そうだな。俺たちのことを、情報共有もできない状態で、どうやって知ったんだ」

 二人は、同じように腕を組んで考えながら歩く。

「……まさか自然界が絡んだりして」

「ありえなくはないぜ。……けど、そもそもアイツが何か裏に持ってても、少なくとも俺たちに危害を加える可能志絵は、一応ないと思うけど」

 もしアソシアード達の刺客であると考えても、彼女の行動からつじつまが合わない。そもそもあちらから接触をはかってきたのに、その後に危害を加える理由が分からない。

「………そうね。裏があるのは確実だけど、無視しても問題は無さそうね。むしろ利益になる可能性に賭けるわ」

「なんでだ?」

「ただの願望よ。余計な心配があっても怠いだけだし。今は自然王の所に行くのが先決だし」

 花枝はさっぱりとした感じで言う。

「が、願望って……花枝。機械工学の天才なら、もうちょっとそういうの……」

「だからこそよ。メカづくり何て、夢と希望と願望がなきゃできないからね!こんな形のが作りたい!できる才能がある!こんな面白機能を積み込みたい!ってね?」

「はぁ、まぁ、うん」

「分かるでしょ、詩君」

 そう言い、花枝は突如彼に抱き着いた。

「ってわぁぁぁぁ!?な、なにを……」

 彼は当然の出来事に、顔を真っ赤にし、驚いて思わず叫ぶ。

「いいじゃないの。……あ、そういえば」

 花枝の表情はパッと明るくなる。

「な、なんだ?」

「……私と詩君が五歳の時に出会ってから、ちょうど十二年のときが近いわね!その日が来たら」

彼女はにやりと笑う。

「………そろそろ結婚でもしましょ、ね、いいでしょ?十二年付き合ってきたんだから!」

「……そ、それは開発であって、だ、男女交際の意味じゃないだろ!」

「結局、ずっと同室でいっしょにやってきたんだから、いいのよ、十二年間同棲していたようなものだし、家族同然。なら、正式に家族になってもいいでしょ?」

「わ、分からん!その理論は、俺には分かんないぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 詩はそう言い、顔が熱で膨張し、破裂するのではないかと想像してしまうぐらい顏を真っ赤にし、花枝から距離を取ろうと、全速力で駆けていった。

「あ、待ってよ、う・た・く・ん♡」

 甘い声をだしながら、それを追いかける花枝。

 だが、そのいっそ怖いぐらいの純粋な思いを妨げる事態が発生した。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!お、ちょ、ちょうどいい所に森だぁ!この中に入……ってぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 勢いよく立ち止まって叫ぶ詩に、どうしたのかと少し勢いを抑え、彼の指さす方を見る花枝。

 そしてそれを見た瞬間、一切の間を置かずに彼女は叫んだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!アンタ達は!」

「な。ま、また襲撃か!?……この際だ。こっちから仕掛けて追い払ってやる!マスター!」

「グルァァァァ!!!」

 森の端の木々をなぎ倒し、マスターが十メートルほどの巨体となって現れる。

「……いいぞ!相手になってやるぜ!折角だからここでしとめやる!……だから花枝、さっきの話はまた後で」

 詩は少しだけ申し訳なさそうに言う。

「う、詩君!………く。よくもこんなところで現れたわね!許さないわ!んもう!上総!アーフたたき起こして!」

「別にいいが」

 そうして花枝の要求に応えてアーフを起こした彼女等の陣営と、アソシアードの陣営は、またも小競り合いを始めた。

 結局、突如暴風が襲ってきたことで、決着はつかなったが。




 それから自然王の所へと向かう道中で、二つの陣営の小競り合いは幾度も発生した。時に襲撃側が逆転したり、寝床を巡ってくだらない争いをしたり。何気に死人は出ず、決着(どちらかの陣営の全滅)はいつもつかず、自然界のモンスターのような見た目の生物に襲われる、仲間が穴に落ちるなどの想定外の事態にも見舞われ、双方ボロボロになりながら、徐々に自然王の所に向かって、意図せずほぼ等速で進んでいっていた。



そして村を出てから一か月が過ぎたころ、両陣営は、目的地の対岸にある廃港までやって来たのだった。


「……もうすぐ、だね」

 彼女は、静かに笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る