第三章[彼女の思い」その2
両陣営が例の村の復興を一週間かけて完了し、そこを出てから時間が経っていった。
そんなある日の深夜、山口県との県境に近い都市の近くの森の中。
「死ねぇい!」
「な、またか(・・・)!」
花枝たちの襲撃があった。ちなみに二度目だ。
「アンタ達を排除してしまえば、いいだけよ!最初のようにね!」
そもそも、競争などせずとも、相手陣営を全滅させれば済む話なのである。それがダメとは、自然王も言っていないわけであるし。相手が消えてしまえば、道中で都市に入って破壊なり、修理なり、しながらゆっくりと自然王の所にいけるわけであるし。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
今大きすぎるいびきをかいて寝ているマスターは前の無理が祟っているせいで疲労であまり起きている時間も少なく、アソシアード達はマスターに乗れず、徒歩で行くことになっているため、進行速度は遅い。
一方花枝たちは、前の村でのマスターとの戦闘で巨体を破壊されており、徒歩を使わざるを得ない。アーフに掴まって空をいくこともできなくはないが、完全なる重量オーバーで彼女に多大な負荷がかかるため、よっぽどのことがない限りは使わなかった。
そして宇沙と上総の不思議な力で移動するという手段だが、原理は不明なその手段、どうやら小さな子一人ぐらいしか一緒に移動できないらしい。それに該当するのは御枝だけだが、理性がほとんどない状態の彼女だけを自然王のもとに単身向かわせるのは、あまりに不安だ。また、宇沙や上総だけが向かうとしても、試練が何か分からないので危険なので、お互いその手段は使わず、結局、両陣営は同じような速度で進んでいた。
「今度こそ退場してもらいます」
アーフが言い、御枝に突撃してくる。
花枝と詩は巨体の残骸から作り上げた手製の重火器や薙刀や剣(重さを軽減するために様々なものを削ったため、殺傷力は低い)を持って迫ってくる。
明確な武器を持たないアソシアード達には、逃げる以外に術はない………と思われていたのだが。
「………邪魔を、するなぁ!」
そう言って周囲の大きな木や岩を片端から投げる御枝に、花枝たちは苦しめられている。いかんせん投擲される数が多い。そのコントロールはかなり悪いが、御枝の背中の腕は無際限に投げつつける。そんな数で逃げ場をなくすような攻撃の応酬に、花枝たちは防御する術を失った以上、奇襲から速攻で勝負を決めない限り、勝ち目はないのだ。
襲撃地が荒地などであれば話は違ったかもしれないが、自然界が活性化して広がったことで、そういうところは道中にほとんどなかったのだが。
「……します。こんな弾幕、すぐに超え……ばぎゃっ」
余裕層に言いながら空を飛び、御枝に迫ろうとしていたアーフだが、数の暴力には勝てず、あっさりと叩き落され、吹っ飛んでいった。
「………次は」
アーフを墜とした御枝は、アソシアード達を倒そうと銃を撃ちながら接近していた(別に上手くないのでこれっぽっちも命中していない)花枝たちに、ギロリと目を向ける。
「…ま、不味いんだぜ、花枝。今回は失敗だ、間違いなく。ちくしょう……もう少し遅く来れば、アイツも完全に寝付いてただろうぜ………!」
「私たちだって眠くはなるんだから仕方ないわ、詩君。………アンタ!」
花枝は詩とじりじり後退しながらアソシアードに叫ぶ。
「絶対に負けないからね!」
「それはこっちもだ!」
そう彼が叫んだ直後、御枝が十本ほど腕を、羽たちがいる付近の地面に突き刺し、はじけさせた。
だが、土煙が止んだときには、倒れている花枝たちの姿などなく、どこかに消えたようだった。
「……行ったか。どうせまた襲撃してくるんだろうな」
彼はため息をつきながらそう言って山道に設置されている街灯の下に腰を下ろす。
「…大丈夫か、御枝」
「………勝つ、勝てばいいの?勝てば変わる、世界、変わる」
御枝はアソシアードの質問には答えず、呟きながら花枝たちがいた方向に、歩いていく。ただ、その足取りは随分と遅い。深夜になり、完全に寝付こうとしていたところで、襲撃が入ったのだ。無理やり起きて、彼女は応戦していた。
「……御枝」
アソシアードは、眠そうな彼女を制止したのだが、彼女は聞かず、必死になって攻撃を続けていた。がむしゃらに、ひたすらに、一生懸命に。
「御枝、無理するな」
「……会えるように、なりたい」
眠気と狂気が入り混じった目で、ふらふらと歩くようになった彼女を、アソシアードは抱きかかえる。
「……寝とけ。見ててつらいぞ」
「……会え……会う……会う、私……」
御枝は半分目が閉じた状態になりながら、求めるように手を伸ばし、そしてついに寝落ちした。
「くぅ………」
既に、寝息を立て、完全に無理に入ったようだ。
アソシアードはそんな彼女の、疲れた寝顔を見る。
「……なんでそんなに、無理を……するんだよ」
見ていて不安だった。心配だった。
「そんなに、無理する必要が、あるのか……?」
彼は、彼女の主張を、意志を、目的を完全に把握している。だが、それは、理解しているわけではない。だから、その必死さの理由も理解できない。
「分かると、いいんだけどねぇ」
宇沙は独白する彼を、いつも通りの微笑を浮かべながら見ていた。
そして翌朝。
「ア……ソシアード……」
彼が常時稼働による負荷の軽減のためになっていた休眠状態から起きると、御枝は正面から彼に抱き着いていた。
「……苦しくね?」
何分複数本の腕で絡みつくようになっているため、かなり圧迫が強かった。
「……あ……そ……また会えた……むぅ」
御枝は、可愛らしい声を上げながら絡みつける力を弱める代わりに、その胴体を彼の体に密着させた。
「………」
機械だからか、彼自身そういう性質なのか、思い故か、それを恥ずかしがることも、いやがることもなかった。ただ、受け入れるのみ。
「……なぁ」
殆どからっぽで、既にほとんどものも考えられない故に無邪気な子供のような表情でねる彼女をさすりながら、彼はふと思った。
「……どうして、人に会える世界にしたいんだ。どうして、それを望むんだ。……そんなに、会うことが大事なのか」
いつも、彼女は会えてうれしいや、会えて幸せ、などと言う。おそらく心から。しかし、何故それに狂ってしまえるのか。そんなに、会うということは、大切な事なのか。
無理して戦ったりするほど、大事なのか。
(……前の女神機関ときみたいに、命の危険まで侵して。そんなに…大事なのかよ)
彼の胸中には、心配故の不満が渦巻いていた。時に命の綱渡りをし、下手をすれば死ぬかもしれないのに、まさしく狂いながらも、僅かな理性をそこに乗せ、進もうとする彼女に。
「なぁ。会うぐらいのこと(・・・・・・・・)、そんなに大事なことか………?」
彼は独白する。
「………なん、なんだよ」
そして時間は過ぎていく。
(宇沙が言ってたな。目的地まで、あと一週間ほどだって)
着実に、目的地は迫っていた。
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