第三章[彼女の思い」その1

「自然王、ですって!?あれが………」

 花枝が驚きを露わにしつつ言う。

 天井の円の中心部から見える空間。そこには丘のような大きさの玉座に座り、頭をヴェールで覆った巨体の姿があった。全身をふわりとした服で覆っており、人型をしているという以外は分からない。

 目の前に直接いるわけではないが、見えるその姿からは、王のそれらしい、それらしすぎるオーラが出ている。

「あ、あのお姿が、長年自然界を統べてきた自然王の……」

 上総は呟きながら跪く。

「……曲がりなりにも王と名のつく相手。守るべき礼儀がある。君たちもそうするんだ」

「……面倒くさいぜ」

「……なん、なん……はい?礼儀ですか。はい。そうですね」

 詩は悪態をつき、アーフは上総と共に跪く。

「……なんか引っ掛かる言い方ね。アンタ、会ったことないの?」

 花枝はそのままで、上総に問う。

 彼女は視線だけを寄越しながら、

「一度もない。自然王は、存在だけは確実だが、明確にどこにいるのか、どんな姿なのか、どんな人物像なのか、全く持って不明だ。分かっているのは、全ての自然界の住人の頂点にあり、自然界に関する全てを把握し、言葉一つで自然界の住人を、命令に従わせられる、ということだけ………後は、その能力の大半は、頭に凝っている者に由来しているとか」

「……へぇ。アフレダ問題の解決の方法を知ってる存在、ってだけでもないのね。っていうかそもそも、上総は場所、知ってるって話じゃなかったの?」

「……大まかな場所は、知っていた……」

 目が泳ぐ、上総を花枝が半眼で見つめる中、アソシアード達は自然王となのった存在をじっと見つめる。

「あいつが。……アイツに会えれば」

「会える……誰にでも会えるように、会える、会える……会えるんだぁ」

 御枝の瞳は、また狂気をはらんでいた。必死さが限界を超えてしまった先に在る、強すぎる思いの。

「……さて。何の用かな。自然王さん。何の面識もないのに、いきなり接触を図ってくるなんて」

『我はそなたらのことを知っている。自然界のものが関わっておるからな』

どうやら、自然界に関する全てとは、自然界の住人が関わった者も含まれるらしい。

「そしてそれぞれが何を望んで行動してきたのか知っている。お互いの主張の仕合も、今しがた見させてもらった」

「へぇ。それで」

「……宇沙、君は失礼だな。礼儀と言うものを知らないのか」

 上総はじろりと宇沙のことを睨んで言う。

「そんなのは地平線の彼方に置いてきたけど?」

「意味わからん言い方だぜ!どうでもいい、っていうことだろ」

 微笑を浮かべながら、当然の様に言う宇沙に、詩がツッコんだ。

「結局、何のようなんだい?」

 宇沙は詩の発言は無視し、自然王に問い掛ける。

『ああ。そなたらにあることを伝えに来た』

「それは?」

『我は九州の、この位置にいる』

 天井の色が変わり、日本地図が映りしだされ、本州と九州の境目が拡大され、かなり海岸寄りの場所に丸が付けられた。本州との距離は、数時間で行けるほど、僅かしかない。

『そなたたち二つの陣営のうち、先に辿り着き、試練を乗り越えたものに、アフレダ解決の方法を伝授しよう』

『………は?』

 宇沙を覗く全員が、あまりに突発的な話に驚いて口をぽかんと開ける。

「ど、どういうことだ!?」

『我は待っていた。長年。今の最悪な世界を変えようとする意思を持つ者を。我は一か所から自由に動けないからな。アフレダの解決法なら既に把握しているが、それを実行するために動くことが出来ない』

「だから、実際に動く者を探していたと」

 花枝が言うと、自然王は頷く。

『自然界の住民では出来ないことだからな、これは。そなたらのように、人や機械が動き出すのを待っていた』

「…なんと」

 アーフが驚いた顔をする。

『だから我が世界を変える術を知っていることを流布した。それが十二年かけて実ったのがそなたらだ。それ故、今すぐにでも教えてやりたい。だが……』

 全員が見つめる中、自然王は間を置き、続ける。

『そなたらの主張は、どちらもいい点と悪い点があり、目的の半分は致命的なまでに食い違っている。故、和解はしえない。絶対に揉める。それは良い結果をもたらさないだろう。自然界を巻き込む可能性すらある。解決法が分かってしまえば、どちらの目指す世界を実現するかで、確実に争う』

「………確かに、こいつらとは、もう仲良くなんて無理だな。元から無理だったが」

「そうね。そこだけは同意してあげるわ」

 花枝はアソシアードに視線を寄越しながらそう言う。

『やはりな。それにそこの村で、既に被害が出ている。エスカレートするのは分かり切っている。だからこそ、だ』

 自然王は立ち上がって続ける。

『そなたらのうち速く訪れ、試練を乗り越えた者たちに、方法を伝授する。出来なかった者は、諦めよ。この競争で白黒つけるのだ!』

 大きすぎる音量の言葉が部屋に響き渡った。そして、

『どちらが目指す世界でもよい。人が消えゆくだけの世界を、我は好かん。せいぜい、頑張るのだな』

 その言葉とともに、自然王を移していた天井は、ただの天井にもどった。

「………分かっているわね?」

「……ああ」

 花枝の言葉に、アソシアードが応じる。

「……単純な話だ。先に付いたもん勝ち。白黒つける?いいじゃないか。それでスパッとあきらめ、邪魔をしない。よな?」

「負けたらね。でも、負けるわけないわ」

 どのみち、自然王の提案に従い、勝たなければ自分たちの望む世界の変革は実現できない。だから彼らは、競う。どちらが先に辿り着き、アフレダの解決方法を握るか。

「アフレダの解決法、なんなのかしらね。アフレダは、やっぱり自然界に関わる現象だったみいだし、どんな不思議な物やら」

「もっとも、それは勝った方だけが知れる話だけどな」

「ええ……だから」

 全員が、二つの陣営に分かれ、その言葉を言った。


『負けない。絶対に勝つ』


 そして彼らは、一刻もはやく自然王のもとに辿り着くため、即座に村を飛び出す………つもりだったのだが。

「待つのじゃ!この流れだと修理を放棄して逃げるじゃろ!それは許さんぞぉ!」

 村の出口のところで突如彼が、怒号とともに現れた。

「さぁ!復興を手伝うのじゃ!でなきゃ全員叩き潰す!」

 そう叫び、抵抗する間もなく巨大な丸太を振り回すのは、宿の管理人だった。

『……全力で、やらせていただきます』

 既に数本の丸太で動きを封じられた全員がそう言い、復興を手伝いに行った。

『完全に出鼻をくじかれた………』

 珍しく、八人の意見が一致したのだった。

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