第二章[相容れない二つ]その3
アソシアードや花枝たちが入った自然界の村。
そこは広くはなく、木製の家が数軒と畑、その他簡易的な生産施設と家畜小屋がある程度の場所だ。
コードAが管理者として人類社会についてから、既に二世紀ほどが何気に経っており、今の世界の都市以外の所は、相当に豊かな自然が溢れている。
コードAの徹底的な自然保護及び再生活動(人類を存続させるには地球を守ることも重要と考えた)によるものと、都市に全人類が引きこもり、自然が侵されなくなったことが主な要因である。
そんな自然の中にあるこの村は、少ない設備でも、狩りや農業を組み合わせるなどし、安定した生活を行っている。少なくとも食事には困っていないし、自然界の者達は高度な文明を持たない状態にあるので、要求するものが少ないのも助けとなっている。
……とはいっても、侵入した巨大ロボットと怪獣のようなものに戦闘をされ、あちこちを破壊されるとたまったものでは無い。
「……なぁなぁ。これ、いつになったら立て直せるかな」
「知るか。完膚なきまでに破壊されたんだ。面倒な事だけは確かだ」
「…いやだなぇ。……っていうかなんで人とか出てきてるんだなぇ?感情動いたら消えるんじゃなぇ?」
「……元人、らしいぞ。まぁ、人が何かしら変わってても、生き残ってくれるのはうれしい」
「そのせいでわちらの村、ほぼ全損」
「……変人の宿屋だけ残ってんのはなんかイラつく」
『それはわかる』
「……でも酔狂にもあんな奴ら泊めて穴壁に開けられたのは笑う」
『それもわかる』
そんなことを言いながら復興作業を行う村の住民たち。その中の何人かは、疲労やエネルギー切れでアソシアードたちが戦闘終了した場である村の端に行き、その周辺に建っている宿屋を遠巻きに見に来ていた。
……まぁそれも、先ほど横に大穴が開く悲惨な事態が起き、管理人が怒り狂った事で、今は一切やらなくなっていたが。
ところ変わって宿屋の地下室。
「儂の宿になんてことをしてくれたんじゃ。最悪じゃ」
管理人は石造りの大きな空間にマスターや詩など、その他もろもろの者たちを閉じ込めていた。
「……な、なんなのよ。これが自然の脅威。恐ろしいわ……武器が全部、一瞬で取り上げられるなんて」
「……上総もそうだけど、ほんと自然界って意味わかんないぜ……なんであんな物語の産物みたいのがいるんだ?」
「……時間の無駄です。はやく都市の修理に……」
「ぐぅ……きゅ……ぐぅ」
「………よくわからんが……御枝を返せ!」
好き勝手に喋り、呟き、寝、叫ぶ者たちを、それぞれの牢屋の上にある監視部屋から見る管理人は呟く。
「……初めての客だ……と思って、せっかく泊めたのにこの結果とは。…誠に残念なことじゃ………作っておいてよかったな、念のための地下牢獄」
彼は肩をすくめてため息をついた後、
「息子、および娘カモン」
そう手を挙げて言うと、彼の背後には、忍者のような装束の者が二人現れる。僅かに見える神は、管理人と同じ色の植物で出来ている。
「お主らは連中を落ち着かせて来い。また暴れられても困る」
忍者モドキ二人は大きくうなずき、
『御意』
その声が聞こえた時には、二人は二つに分かれた囚われモノたちの所にいて、いがみ合いを始めた彼らを諫め始めていた。
「……どうしたものかの。どうやったら暴れないでいてくれるのやら」
管理人は深くため息をついて言う。
彼としても、村全体としても、またアソシアードたちが争いを始め、村を再度破壊されるようなことは困る。
しかし、どうすればいいのか、彼には分からない。
「……申し訳ない。仲間が勝手な事。昨晩も」
その声に管理人が振り向くと、後ろには申し訳なさそうに、死んだような目はそのままに、俯く上総と、微笑を浮かべる宇沙があった。
「……この責任は取る。仲間たちに呼びかけて、村の復興を手伝おう」
「……それはいいんじゃがな。それよりも、出した途端に暴れないようにしてくれないか?仲間だという事じゃが、それなら説得してくれんか」
「それは……」
(……過剰な敵意を持っているし。全員を出したら、確かに宇沙側の奴らを攻撃しかねない……。どうするべきか………)
上総がそう考え、腕を組んで唸っていた時だ。
「………話し合い、でもすればいいんじゃないかな……」
「宇沙?」
彼女はいつもの表情のまま、呟いた。
(話し合い……それはいいかもしれない。……過激派の口から出たのが、なんだか気に食わないけれど…)
変な気持ちになりつつ、上総は管理人に提案する。
「すまない。話し合いの場を整えてくれないだろうか」
「……それは、どういう」
「こちらの仲間は本来、話し合い……討論に向いている。研究者だからな。そういう場では落ち着いてくれるだろう。そしてこちら側は、相手側…そこの宇沙の仲間を討論で負かす」
「なぜ、そんな必要があるのじゃ」
「どうもお互いに主張があるにはあるようで。あちら側の主張は、こちら側とは相いれない。だから揉めるわけだ。……だが、相手側は基本的に、そこの宇沙に丸め込まれているだけだろうと、考えている」
上総は宇沙の方をちらりと見る。
彼女は表情を変えず、ただそこにいる。
「ならば、論破できるはずだ。どうも覗き込んだ感じ、単純な感情で動いているようだし。あちらが敵意を持つ理由は、ある人間を奪ったからだが……」
「なら、その人間を返せばいいじゃろ」
首を傾げながら管理人は言う。
「いや。それでは、あちらが交戦する理由はなくなるかもしれないが、こちらの仲間が持つ敵意をどうにもできない。誠に勝手だが、後顧の憂いを経つために、ここでやっておきたいのだ」
「……なにおじゃ」
「相手側を論破し、こちらに引き入れる。丸め込まれているだけなのなら、主張は弱いだろう。全員が仲間になれば、派手に揉めることもなくなる。少なくとも戦いになるようなことはなくなるはずだ」
「へぇ。面白い事を考えるね」
宇沙は感心したような、そうでないような感じでそう言う。
「物理で君を止められないなら、言葉だ」
上総は睨みつけるように宇沙を見る。
「そもそも、過激派と暴力で争うのはくだらないと思いなおしたんだ……今の説明で、十分?」
「……まぁ、のぉ。それで暴れないで、村の復興でも手伝ってくれるのなら………手伝わせないと儂の立場、危ういしな……ダメ元でもやらせてみるかの」
彼は村の破壊者を、自分の宿は破壊されなかったからと意気揚々と泊めた。それは村人にとってはいい印象はない。
先の戦闘で花枝たちがまた揉めて村を壊す可能性も、村人には既に伝播してしまっている。ここでその問題を放置しておくと、管理人が泊めたからだと責められ、村からたたき出されるかもしれない。それが嫌なのだろう。
「……少し待ってくれ」
管理人はそう言い、その場を去った。
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