第二章[相容れない二つ]その4

 一方、彼女の足元の空間では、動けないように縛られたアソシアードと花枝が口論をしていた。

忍者モドキ二人は、詩とアーフが今にもアソシアードに襲い掛かりそうなので、そちらを宥めるので手いっぱいのようだ。

「……おい、御枝を返せ」

「知らないわ、黙ってて。……壊す手段がないのはムカつくわ……悪の手先を倒せないなんて」

「悪の手先、だと?」

 妙に暗い感情の言葉がこもった花枝の言葉に、眉をピクリとさせるアソシアード。

「そうよ、悪よ。アンタらの行動は悪よ。自覚がないなら生粋の悪ね」

「……。それは御枝の思いをバカにしてるという事なのか」

 妙に、心が熱くなるのをアソシアードは感じた。心の底から、それを許すなと言う衝動が沸き上がる。

「……知らないけど。その反応、発言から考えると、アンタは少なくとも、あの背中腕モンスターの従者か協力者当たりね」

 花枝は冷たい目でアソシアードを見る。

「背中腕モンスター………。バカにしてくれる。……その悪だと断定する考えが、私たちを襲った理由とかか?」

「……そうだけど?それがどうかしたの?」

 当然とでも言いたげに花枝は言う。

「ふざけるな。そんなことで………。御枝を悪とは言わせない。あいつには、悪意なんてない……ただ純粋な思いがある」

(……そう、あいつには、会う事以外……まるで、理性が壊れてしまったようだ…)

 彼がそう思う中、花枝は鼻を鳴らす。

「……なんて最悪な純粋な思いなのかしら。反吐が出るわ。どうしてただ人の死を呼び込むようなことを思うのかしら。……アンタは、なんでそんな奴のことを気に掛けるのよ」

 少しだけ興味が湧いた様子で花枝は言う。

「……可哀そう、だから……。……いいから返せ!私は御枝と一緒に行かなきゃならない!御枝を、御枝を、御枝を」

「ふぅん。……可哀そう、か。同情、ね。………それにしては、妙に強いじゃない」

「何?」

 花枝は目を細める。

「ただの同情だけで、あそこまで必死になれるのかしら。私には、アンタがそんなに誰かに尽くすような性格をしているとも思えないんだけど。パッと見。可哀そうな誰かのために、そんな聖人みたく」

「…………」

(同情………にしては)

 彼はようやく自覚する。

(そういえば、私は何で………)

 最初から、今ある全ての衝動はあった。全て湧き出てきていた、自身の心の底から。

 同情は確かにあった。大いにあった。だがはたしてそれだけで、一緒にいなければ、などという衝動は湧いてくるのだろうか。

 それ以外のものがあるというのは、決して気のせいではないと、うっすらとしていた感覚をはっきりと感じ、彼は思う。

(……分からない。同情以外……仲間意識…そんなのが最初からあるわけがない)

 分からない、分からない、分からない。不明な何かが、自分の中にあるのを感じ、彼は惑う。

 それを見る花枝は、

「…アーフもそうだけど、何か変ね。そもそもコードAでも持たない完全な自我を、一回の機械人形が持っているなんて。あの時は気にしなかったけど……自然界のせいかしら。さっきのもあるし」

 女神機関が持つ判断機能は、自我ではない。コードAも、自我に似たようなものこそもっているが、やはり完全とは言えない。

 そんな中で、こんな時代で、彼のような存在が出てくるのは、花枝が言う通り、少々おかしいのだ。先程の彼の摩訶不思議な力を併せて考えると、いろいろと奇妙なことが多かった。

「………私は」

 結局、いくら考えても分からない。だから、今は御枝の無事を考えるしかなかった。

「……もしかしたら。一目惚れだったりして。愛ゆえに、だったりして」

「…は?」

 急に妙なことを言いだした花枝に驚くアソシアード。

「……それならいい事ね。愛する人に何かをするのは本当に楽しいわ。詩君へ日夜送る夜這いも……うふふふふふふ。ま、アンタらの行動が許せないのは確かだけど」

 恍惚そうな表情浮かべ、半分妄想の世界に浸かりながら花枝は言う。

 そんな彼女の前に、唐突に長すぎる袖が出てきた。

「……って、なに!?」

「…ではその理由を教えてもらおうかな?お互いの主張をぶつけ合ってみたら?そしたら論破さえすれば、相手を排除できるかもね?」

 宇沙である。

「………上総の提案でね?討論することになったんだけどね?」

「え?」

 花枝は驚いて声を上げた。

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