第18話「妹とデート……らしい(妹曰く)」

「お兄ちゃん、お願いがあります」


「やだ、絶対ロクな事じゃないだろう?」


 瀬々里の頼み事なんてどうせまたくだらない思いつきだろうし、そんなことを一々聞いていたら体がいくつあっても足りやしない。


「話くらいは聞いてくれてもいいじゃないですか!?」


「だってお前に付き合うと無茶振りするのがいつものパターンじゃん」


 ただでさえわがままを言うのが得意だった妹にスマホが加わって最強に見える、多分ネットでは『これで勝つる』とか言われてそうだ。承認欲求が悪いわけではないが俺を巻き込まない範囲でやって欲しいものだ。


「そう言わないでくださいよ、私が居ないとお兄ちゃんの人生は灰色で無味乾燥な物だったと思いますよ? むしろ感謝して欲しいものですね」


「そうかもしれない、そうだとしてもそれは自分で言う事じゃないだろう? 感謝はしても感謝を強要されるのは嫌なんだよ」


 確かに俺に友達が少ないにしても、別にぼっちが嫌いというわけでもないし、一年の頃は瀬々里がいなかったので休み時間はスマホを弄っていた。ただ、瀬々里が入学してから俺がデイリーを全てこなしていたソシャゲは少し減ったな。


 あの頃は依怙が時々話しかけてくることがあったくらいだろうか、なぜか瀬々里が入ってきてから依怙が絡んでくることが増えたんだよな。よく分からないが、瀬々里と友達にでもなりたかったのだろうか?


「お兄ちゃんとデートがしたいんですよ! 長い間お兄ちゃんが出てこないとイソスタで『別れたの?』とか思われそうじゃないですか!」


「そんな面倒くさいSNSはやめてしまえ」


 結局お前の見栄かよ、そんなもの俺が知るはずないだろうが!


「そんなもん俺が実際についていかなくても俺が居るような写真を撮ればいいだろ? どうせ真実なんて気にしない人が大半なんだからそんなくだらないことを検証しようなんて奇特なヤツはいないよ」


 みんなそんなに自分に興味は無いだろう。瀬々里のやつ、少し自意識過剰なんじゃないかな。


 正直、ネット上に真実なんてそんなにないと思っているのだが、そもそも瀬々里の彼氏という概念だって俺で代用しているのだから初めから嘘で始まっているんだ、どうせ嘘だったら俺が付き合うことさえ必要無いんじゃないだろうか?


「まあまあ、お兄ちゃんとデートがしたいんですよ。たまには二人でお出かけするのだって悪いことではないでしょう?」


「兄弟でするようなことかね……」


 俺の疑問はさらりと流されて、瀬々里は話を続けていった。


「そんな訳なので一緒にホテルにでも行きますか?」


「いくわけねえだろ!? どう考えればそうなるんだよ!」


「某ラノベでは行ってましたよ?」


「ラノベを人生の教科書にするんじゃねえ! 思い当たる物はあるがアレはファンタジーなんだよ!」


 妹ながらその安易な発想にはあきれてしまう。というか中学生がホテルに行ったら警察か学校の担当が乗り込んできそうだ。中学生として兄妹であると言うことを無視してもなかなか正気の沙汰ではない気がするんだよなあ。


「お兄ちゃんは妹モノの良さが分かっていませんね、気になったから検索したら、その作品、終わり方が当時ものすごく話題になったみたいですよ。つまりそうすればバズる可能性アップ!」


「一つ言っておくがどう考えても大炎上するからな? 写真なんて撮ろうものなら特定班が必死になって調べたあげくネットのおもちゃになるぞ、それでいいと思ってるのか?」


「まっさかー! そんなくだらないことで話題になるはずないじゃないですか」


 なるんだよなぁ……どれだけのやつがSNSに串すら刺さずに書き込んで実名までバレるぞ。ただ、瀬々里くらいのフォロワーなら多少減る程度で済むかもしれないが、フォロワー数が増えて過去の書き込みを漁られると一発アウトだからな。


「俺の妹の倫理観が心配になるようなことを言わないでくれ」


「倫理ってありますけど、それに遵守している人ばかりならそもそもそんなものは学問として成立しないんじゃないですか? 皆さん倫理なんて破るものと思っているからギャーギャー騒ぐ人がいるんじゃないですかね」


「屁理屈を言わない」


「それはともかく、家に居るだけだと面白くないんですよ! 何処かイキましょうよ!」


 なんか他意を感じる発言だが……多分気のせいだろう。それはともかくどこかに出かけたいと言われてもな、この辺に何か遊びに行くようなところがあっただろうか? 中学生の予算で行けるところなんてたかが知れているだろう。


「じゃあ図書館でも行くか? 空調は完璧で水も飲めて何よりタダだ」


 ただより高いものはないなんて言うが、図書館は税金で運営されているので問題無いだろう、高額納税者に感謝しながら使わせてもらえばいい。


「お兄ちゃん……正気ですか? 可愛い妹とデートができるというのに図書館なんてあり得ませんよ」


 どうやら瀬々里はお気に召さないらしい。仕方ないじゃん、金が無いんだよ。


「じゃあお兄ちゃんはどこに行きたいんですか? 私はお兄ちゃんと出かけられるならどこでもいいですけどね、なんならあの世までだってついて行きますよ!」


「しれっと恐ろしいことを言うんじゃない、四谷怪談じゃねえんだぞ」


 発想がヤンデレのそれなんだよなあ、顔はいいと兄の贔屓目に見ても思うが中身があまりにもアレ過ぎる。


「で、お兄ちゃんとしてはデート先の希望はどこですか? もちろんお兄ちゃんが奢れる範囲で構いませんよ」


「俺の予算でいけるところはファミレスがいいとこだぞ、今月ガチャ引いてキツいんだよ」


「お兄ちゃんも世話が焼けますね、じゃあファミレスでいいですよ、本当はしっかりとしたホテルの喫茶店くらいが憧れなんですがね」


 無茶を言うなよ、どう考えても無理だろうが。大体ちゃんとしたホテルなんてこの辺にあったか? あったとしてそんな所で飯が食えるほど金を持ってるわけないだろ。


「可愛い妹だというのに随分と安いですね」


 その言い方はあんまりじゃないか?


「確かに安い、安いけどさ、俺らはまだ中学生なわけで、居酒屋にすら入れない身分なわけよ。そんな程度の歳で雰囲気のあるところなんて行けるわけないだろ。つまみ出されるのがオチだぞ」


 高校生でも入れない場所はたくさんあるってのに瀬々里は中学生に求めすぎなんだよ。無理なもんは無理に決まってるだろうが。


「ふーむ……私が出せばもう少し……いえ、でもお兄ちゃんが奢ってくださるわけですし、私が払うのは無粋ですよねえ……」


 一人考え込んでいる瀬々里を見ながら、俺はもう少し金銭感覚をしっかりさせた方がいいんじゃなかろうかと思いながら瀬々里の結論を待つことになった。

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