危機回避&危機の予感

「いや、普通はそうなりませんよ」


 舞さんの突然の世迷言に頭が混乱しかけたものを平静を取り戻した俺は冷静に突っ込んだ。

 舞さんは普通であることを願っていたのだがどうやら期待するだけ無駄なようだ。


「そうかな?やはり私は心がつながるには接触が一番だと思いますけど」


 それだと星音さんと同じ考えなんだが。結局は性行為に至る予感しかしない。

 もう舞さんも星音さんも、姉さんさえも普通には接せない。身の危険が、いたるところに潜んでいる。


「心がつながるためには信頼関係が一番大切だと思います。そのためには一緒に買い物に行ったり、旅行に行ったり遊んだりすると育まれます」


「…そうなんですか?」


「はい、少なくとも俺は」


「じゃあ私と今度旅行行きます?」


 舞さんと旅行。

 想像してみると案外楽しそうである。注意したら舞さんは変な行動はしなさそうだし、誰かと旅行に行ってみたいとも思う。


「まぁ、悪くないかもしれないですね」


「ほんと?じゃあすぐに行きましょう。私予約取るから今週末にでも」


「あ、はい。楽しみにしてますね」


「じゃあ準備するから今日は帰りますね」


 舞さんはそう言って扉から出ようとして扉を開けると…


 扉の前に姉さんがいた。








「は、舞?」


「え、なんで鈴が…学校はどうしたんですか?」


 舞さんの肩が震えてるのが遠くから見ても分かる。明らかに姉さんに怯えている。

 姉さんはどんな顔をしてるのか分からない。

 ただ物凄い怒りが、姉さんの心の中に眠っているのは伝わってきた。


「舞もなんだね。私、失望したよ」


「鈴…?すみません。あなたを騙すわけでは…」


「どこから入ったの?部屋で何をしていたの?荷物を全部見せろ」


 怖い…今の姉さんの言葉を聞いて最初に出てきた感情はそれだった。

 口調が男っぽくなりより威圧感が増して、誰もが逆らえる緊張状態じゃなかった。


「それは出来ません。流石に鈴にもそれだけは許容できません」


「は?じゃあ二度と奏斗には会えなくなるけど、大丈夫なんだよね?」


「いや、です…」


「じゃあ見せろ。大人しく見せてくれたら今日は見逃してあげるから、さっさと見せてこの家から出てって」


 舞さんは観念したのか、姉さんの前に自分のバッグを置いた。


「上着、下着、髪の毛…はぁ」


「すみません鈴。もう二度としませんから見逃してください」


 そう言って舞さんはバッグを持って一階に消えていった。


「ごめんね奏斗。下着取るとか気持ち悪いよね。気を付けてね」


「う、うん」


 まさか下着を盗られてるとは思わなかった。やっぱり舞さんも警戒しとかないとだめだ。


「はぁ、本当に私は馬鹿。もっと早く行動しとけば、既成事実を作っとけば…」


 姉さんは突然部屋の中に入り、カギをかけるとぶつぶつを呟きだした。なんでカギをかけたんだろう。

 この家には俺と姉さんしかいないはずなのに。

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