侵入者

 そこからの記憶は薄い。

 姉さんと星音さんが取っ組み合いを始めたまでは覚えている。


 凄く酷い罵詈雑言を部屋中を飛び交い、聞いているだけで頭痛がしてくるレベル。


 本当に過去の2人に関係はなんだったのか、と疑わざるを得なかった。


 俺はそこから逃げだした。あれから姉さんたちがどうなったかは知らない。


 ただ姉さんは既に家に帰ってきていた。


 自分の行動が無責任なのは分かっているつもりだ。でも俺一人の力じゃどうしようもない状況だった。


 俺が悪いと非難されようが受け入れるつもりだが、あの場を解決できる人などいないだろう。


 いたら教えて貰いたい。


 姉さんは凄くイラついた様子でリビング内を歩き回っている。チラチラと俺の事を見つめては、頭を掻き回していた。


 そういえば星音さんが言っていたことは本当なのだろうか。


 もし本当ならば大問題では済まないぞ。…もしかして俺って今、不味いことに巻き込まれてないか。


 平穏に日常を過ごしていただけなのに、どうしてこうなった?


 理解不能だ。


 空気が悪い。姉さんがずっと舌打ちを打っては壁をドンドンの殴りつけている。


 俺が話しかけたところで状況はますます悪化するのが目に見えている。

 ここはこの場を去ることが最適解だ。


 そう判断した俺は、自分の荷物を片手に2階へと上がると自室に入った。


 やはり、部屋は落ち着くな。自分以外誰もいないし安心感が凄い。


 そしてベッドに飛び込もうとした時…


 ガサガサ、とクローゼットから物音が聞こえた。


 あの中に入っているのは洋服だけなはず。何か音が鳴るのは有り得ない。


 服が落ちたなんてこともあるわけが無い。服は全てハンガーにかけてあるか、畳んで引き出しに入れているからな。


 ということは…


 俺は恐る恐るクローゼットに近づくと、ノックする。


 すると中からガタッという音が鳴った。間違いない、誰かいる。


 母さんでも父さんでも、姉さんでもない。星音さんなわけが無い。


 じゃあ誰だ。侵入者か?それなら警察を呼ばなければ。


 いやでも…侵入者ならこんな幼稚の所に隠れることをするか?いや、しない。


 迷っていてもしょうが無い。中が誰でも関係ない。変なやつだったら撃退するまでだ!


「開けますねー」


 ガチャっ勢いよくクローゼットの扉を開くと…中にいたのは。


「バレましたか」


 舞さんだった。


「舞さん?!」


「しっ!鈴にバレますよ」


 クローゼットの中から出てきた人が舞さんだったことに驚きを隠せず、大きな声を出してしまった。


 下の階から何か反応するような気配は無い。


「良かった、鈴に聞こえてはいなさそうですね」


「な、なんで舞さんがここに?なぜクローゼット」


「学校に行ってたのですけど、星音は休みで鈴は早退したのを見て嫌な予感がしまして、私も早退したのです。そして奏斗くんが休んでいるのは何となく察しが着いていましたので、この家にやってきたのですが誰もいなくて」


 続けて、舞さんは「なので家に入っちゃいました!」と言った。手を頬あたりに持って、てへっ、と笑う。


 そんな可愛い言い方しても結構ダメなことしてるんだが?


 てへっ、って舞さんのキャラじゃないでしょう。


「何となく事態は把握しています。星音に連れていかれたんですよね。そして鈴がやってきて…みたいな流れでしょうか」


 なんで分かるんだ。俺は今日初めて舞さんと会ったというのに。


「あっているようですね」


 俺の表情を見て確信したのか舞さんは勝ち誇ったようだ笑みを浮かべた。


「安心してください。私はあの二人のように乱暴なことはしませんから」


「…」


「恋愛というのはやはり、心が通じあっていなくては意味がありません。なので、まずは下準備としてキスをしましょう」


「え」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る