不可避
俺は星音さんの言葉を聞いた瞬間、走り出していた。
身の危険を本能的に感じたらしい俺の身体が、俺の言うことなど聞く間もなく勝手に動かしたのだ。
だが、もう遅かったらしい。
『ガチャガチャ』
と部屋内に響く鍵のかかったドアノブの音。
既に寝室の扉には鍵がかかっていた。
慌てて星音さんを見てみると、凄く不気味に笑っていて先ほどまで俺の隣に立っていた優しそうな彼女の姿はもうない。
「さ、そんなことしないでベッドに座りなよ。奏斗くんは初めてだろうから私がリードしてあげるね」
ドアを何度も開けようと試してみるが、一向に開こうとしない。
どういうことかさっぱりわからない。
今さっき入ったばかりなのに、星音さんに鍵を閉める素振りなんてなかったのに。
「それね~。自動ロックになってるんだー。こっちから開けるには私の指紋が必要なの」
「なんでこんなことをするんですか?俺を閉じ込める意味が俺には分からないです」
「ん?聞かないでも昨日好きだって伝えたじゃん。好きな人とエッチしたいのは当たり前でしょ」
確かにそうだが、エッチするのは恋人同士、お互いに了承を得てする行為だろう。
「ここから出るには私が手をかざすしか方法がないんだからだ。おとなしく食べられてよ。鈴がいる奏斗君のお家じゃ危ないからね」
姉さんはどこも危なくないだろう。少しブラコンなところがあるが、別に気になるレベルではない。
そもそも弟を心配するのは家族として普通の感情であって、いちいち気にしていたら俺の方がおかしなやつになってしまう。
「ここから出たいのなら、私を疲れさせて無理やり指紋認証させるしかないよ。…あぁ、奏斗くんに無理やり触られるのを想像したら濡れちゃう…」
そういって星音さんはベッドの上で股を大きく開き…俺は直ぐに彼女から目をそらした。
「なんでこっち見ないのさ。奏斗くんも見たいでしょ。私の…」
興味がないなんて嘘はつかない。
俺も健全な男子高校生。女子を見て興奮することを避けるなんてできない。
舞さんや星音さんは学園でもトップレベルの美貌を持った美少女だ。
告白される回数は尽きないと聞く。だが、誰かと付き合ったという話だけは聞いたことがなかった。
姉さんに関しては、恋愛関係のことを話題に出すとなぜかいつもいらついていた。
よっぽど学校で嫌な目に合っていたのかもしれない。
「あ、他の女の子のこと考えてたでしょ」
星音さんはベッドからゆっくりと立ち上がると、俺の腕に勢いよく抱き着いてきた。
俺は無理やり彼女を引きはがそうとするが、女性に力とは思えない力のせいで放せない。
「一応確認だけど、奏斗くんには彼女なんて塵いないんだよね?」
抱擁する力が強くなり、苦しくなる。
「いないです」
「…そう、よかったぁ。居たらどうしようかなって思ったよ」
星音さんはニコっと俺に笑顔を向けてくる。顔は笑っているが、本心から笑っているようには見えなかった。
「いたらどうしたんですか?」
「さぁ?それはわからないかな」
目からはハイライトが消え失せていて、どこを見ているか分からない。
明らかにおかしいのは言うまでもなかった。
「じゃ、やろうか。私も初めてだけどいっぱい勉強してきたからリードできるよ♡きっと、奏斗くんを幸せにできるから早く寝て」
「嫌です」
「なんで?初めて、したくないの?」
「…」
「なんで沈黙なの?あ、もしかしてもう経験済みなの?」
とたん、部屋の空気が一瞬にして凍り付いた…気がした。
「ねぇ、答えてよ」
「…」
経験なんて俺がしているわけがない。しっかりと童貞だ。
「まぁ、答えないならいいや。上書きして私のことを忘れられないようにすればいいし」
なぜか返事が出来なかった。心では話そうとしていても、口が動かなかった。
「寝て。今すぐに」
星音さんは机から水の入ったコップを持ってくると、俺に無理やり飲ませてきた。
「ゲホッ、ゲホッ」
「どう、おいしい?」
至って普通の水だ。
…まずい、頭がくらくらしてきた。
瞼が重い。
身体がフラフラとして、ベッドへと倒れこむ。
「予想以上に強かったね。じゃ、次奏斗くんが目覚めたときには気持ちよくなってるよ。おやすみ♡」
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★100突破ありがとうございます。
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