とく語りき4~あの夢9~
ジャンル:現代ドラマ
キャッチコピー:あの夢9
紹介文:
事務所に一人、留守番させられた男の独白。
お題:「あの夢9」
:::::::::::::::::::::::::;::::::::::::
「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」
そう9回目。
だからこれほど疲れているというのに、自分は今もたった一人だ。
それほど広くない事務所に、独白する声がぽつりと落ちた。さらに、一人だと実感する。
アルバイトと実力者はすでに依頼主のところへ出かけていて、時折車道を走る車が水しぶきをあげる音が響いてくるだけだ。
静かな、静かな場所。
男は自分のデスクにつっぷしていた顔をのろのろと上げた。
二人が出かけていく、そんなところまで夢では見なかった。
夢はあの老婦人の話を聞くことだけだったから。
だが三時間以上にもわたる話を9回も聞かされると、さすがにうんざりする。
だんだんこれも夢かと思うようになったが、新たな登場人物が現れたことでようやく現実だと実感した。
おかげで脱力感に見舞われている。
――これでようやく解放される。
夢が現実に追いつけば、同じ夢は二度と訪れることはない。
事務所の所長は男の能力を予知夢だと言うけれど、正直、役に立ったことはない。たいていは仕事の依頼を受けているだけで、こういう依頼を受けると知るだけだ。
解決策を提示できるわけでもないので、雑談程度に話す程度で終わる。
他人に夢の内容を話せば現実には起こらないというけれど、男の場合は叶わない。昔はそれを信じていろんな人にせっせと夢の内容を話していたけれど、現実は変わらなかった。
それほど男の予知夢は完璧だと言われたけれど、役に立たないんだ!と何度憤ったことか。
褒め言葉にならないことを誰よりも理解しているのは男自身である。
「今回も無事だといいけどな……」
窓の外を振り仰いで、男は溢した。
出かけて行った二人が、何事もなく依頼を解決して戻ってくることを願う。
老婦人の話は要約すれば、雛人形を飾ったら、いつの間にか造花の桃の花が本物になっているということだ。
そこには別に悪いことが起きることもない。
誰の仕業か、どういう意図があるのか。
それを思えば不思議になるが、怖いという感情はあまりわかない。
実際、老婦人も戸惑いはあるが、気味悪がったりはしていなかった。
終始落ち着いた様子の老婦人を思い出して、男は短く息を吐く。
「それで、なんで誰も戻ってこないんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます