とく語りき3~妖精~
ジャンル:現代ドラマ
キャッチコピー:妖精
紹介文:
とある事務所のアルバイトをしている高校生が、先輩と一緒に依頼人のもとへと向かう途中。
お題:「妖精」
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事務所を出てから駅に向かって歩く。
徒歩5分も行かずに最寄り駅に到着するが、人の姿はまばらだ。
とくに雪が降っていて薄暗い中を傘をさして歩く人たちは足早に過ぎていく。
そんな中、トウノは先輩であるマーヤと共に傘をさして並んで歩く。
歩道にはうっすらと雪が積もっていた。多少防水がきく靴ではあるが、完璧には防げない。諦めて進みながら、マーヤに向かって声をかけた。
「どこに向かうんですか?」
「一つ隣の駅だよ」
「急行で?」
「普通」
一つ隣の駅と言っても歩けば一時間くらいかかったりもするので、普通列車といえども馬鹿にはできない。
素直にICカードをかざして改札を通りすぎれば、次の電車が来るまで五分程度だった。
「今日の依頼はなんです?」
「ひなまつりに桃の花を飾るの、知ってる?」
「花は飾りますね、桃の花? ああ、歌にも出て来ますね」
なんとなく童謡を思い出しながら、トウノは小さく頷いた。
「でも日本の旧暦の話じゃない? 今は桃の花は咲かないから、どうしたって造花になるでしょう」
「ふうん、そうなんですか」
外国人の顔立ちをしたマーヤの方が日本文化に詳しいことに、トウノは素直に感心した。
年の功かもしれないが、それは言わない。
気分を損ねることはないと思うが、人間離れした要素をまざまざと突き付けられる気がして。
トウノが落ち込むのだ。
きっとそんなふうに自分が思うことも、マーヤにとってはどうでもいいだろうし、気にもしていないだろうが。
「……トウノは男の子だから、興味ないの?」
「いや、どうだろう」
男児は端午の節句があるけれど、別に詳しいわけでもない。
マーヤが呆れたように見つめてくるので、トウノは小さく首を振った。
「娘の健やかな成長を願って飾るんだよ」
「そういうの、やったことあるんですか?」
「私? いやー妖精に育てられたからな……きっとそういう意識はないと思うなあ」
トウノはなんと答えてよいかわからずに、黙り込んでしまった。
だから、そういうところだ!
気を遣ったところで、馬鹿を見るのはトウノ自身だとわかっていた。
妖精に育てられた不老不死の少女に、なんと言えと?
日本で育ったごくありきたりの高校生には荷が重すぎるのだ……。
辿りつく前から疲労を感じつつ、トウノは口を開いた。
「……あの、それで依頼って?」
「ああ、だから造花を飾っているのだけれど、いつの間にか桃の花が本物に変わっているんだって。それこそ妖精の仕業かもしれないね」
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