とある彼女のごコマ

ジャンル:ラブコメ

キャッチコピー:彼らの日常はお題にかかっているんだなぁ……。

紹介文:

大学生のフユは、冬のある日、恋人のハルの家のこたつを片付けていた。 そこで筋肉について聞かれ―― まったり恋人同士のとある日常の一コマ。

お題:「筋肉」


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最近暖かい日が続いてきたからコタツを片付けたい――。


真剣な面持ちで同棲中の恋人のハルが切り出した。

3月に入って確かに暖かくはなったけれど、コタツを片付ける勇気はない。

そんな気持ちをフユは押し殺した。


なぜなら昨日は二人で酒を飲みつつコタツで寝てしまったのだ。

朝起きたら机の上に飲み散らかした酒瓶と中途半端に残ったつまみがある。

体はバキバキで、節々が痛む。


うん、暖かいうんぬんはきっとハルの建前だ。

コタツは生活を病ませる。

フユの終わりにようやく気付いたと言える。

暦の上では春だし、問題は何もない。


朝食を食べ終えて片付けをすませると、コタツとおさらばする。

つまりコタツ布団をたたんで、コードを外す。掃除機をかければ、一瞬で冬の風物詩がなくなった。


残ったのはコタツ布団である。


こんなに大きいと近くのコインランドリーの大型でしか洗濯できない。

袋に詰め込んで運べるように荷造りしていると、ハルはぼんやりとつぶやいた。


「やっぱり筋肉つけようと思うんだよね」

「うん、どうしてその考えに至ったのか聞いてもいいかな?」


ハルはぼんやりと思考をつなげて考え込む。朝食の卵焼きを見て卵の黄身ってなんで黄色いんだっけ、そういやタンポポも黄色だな。黄色ってなんかかわいい。それはひよこをイメージするからかな。そんな感じで思考が飛ぶ。

結果、口にするのは朝食は……ひよこか……なんてことになる。


つまり最初から彼女の思考を聞いておかないと、意図がよくわからない。

こたつを片付ける作業からなぜ筋肉の話になったんだ。


「ほら、昨日異世界に行ったら舞踏会は必須だからダンスの練習しようってことになったじゃない」

「ああ……」


楽しそうなハルには申し訳ないが、フユにとってはすでに黒歴史に近い。

フユが入っているサークルは『異世界探求同好会』という。

昨今の異世界召喚ならびに異世界転生ブームに対応するため、日夜、異世界への扉を探し異世界に召喚(転生)された際にどんな世界でも対処できるためにどうすればいいかを追求する同好会である。


昨日のサークル活動は異世界に飛ばされたら踊りは重要だというテーマだった。

だが西洋文化ばかりが注目されるが世界の踊りというのは多岐にわたる。もしマサイ族に似た部族に召喚されたらどうするとなって、結局ググ様頼りに世界の舞踏についてひととり試してみることになった。


その後の結果など推して知るべしである。

結果、フユの黒歴史が量産された。


「コタツで寝たからかもしれないけれど、筋肉痛でも体が痛いんだよね。だいたい、筋肉って異世界に行ったらわりと重要な要素じゃない?」

「えーと、どういうところで?」

「騎士さまとか冒険者とか、わりと筋肉必要だと思うけど」

「まあ、細いよりかはあったほうがいいと思う程度かな。なくてもなんとかなりそうで」


たいていの物語ではそこまで筋肉をフューチャーすることはないと思う。時々すごいムキムキの人も転移していたりするが少数派ではないだろうか。

それほど熱い思い入れもないので、詳しくは知らないけれど。


「もう、フユはわかってないなあ。脱いだらすごいってのは異世界でも結構重要な要素でしょ。それで周囲から可愛がってもらうっていうのもお約束だよ!」


ああ、そちらのジャンルでの需要でしたか。

それに関しては少しもわからないので、フユはコタツ布団を抱えた。


さて、洗濯しに行きますか。

今日もいい天気だなあ――。

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