悪役令嬢×決闘×赤いきつね

ジャンル:異世界ファンタジー

キャッチコピー:「あなたは誰派?」

紹介文:

乙女ゲームの悪役令嬢は、卒業舞踏会でヒロインの子爵令嬢に決闘を申し込む。 古式伝統に則って、貴族の決闘は赤いものを相手に投げつけることで始まる。 そうして悪役令嬢は決闘を申し込んだ、投げつけたのはもちろん『赤いきつね』である。 二人の令嬢の決闘の行方は――?


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「レセナ・サルージャ子爵令嬢さまに、私、アデスーラ・トレディンルは決闘を申し込みますわ!」


腰に手を当ててまさにのけぞるように背を反らして、居丈高に言い放てば、相手は絶句したまま震えていた。


時は、学院の卒業パーティ。

本来ならば、ここでアデスーラと王太子との結婚の発表が華々しく披露され、二人は周囲の祝福を受けて微笑み合うはずだった。

だというのに、王太子は同級生のレセナのエスコートをし、卒業舞踏会のワルツまで彼女と踊る始末。


兄に付き添いを頼んだアデスーラは壁の花よろしく独りぼっちで、未来の夫と同級生の少女が躍る姿を眺めるだけだった。

けれど、二人のワルツを見ても、もうアデスーラには何の感情もわかない。


学院にレセナが特別枠として編入してきたときから、王太子は彼女に一目惚れし、何かと彼女と一緒にいたがったからだ。権力を使って同じクラスにし、同じ教科をとり、昼食も一緒にとる。四六時中、彼女につきまとって、すでに二年の月日が経っている。

たかが卒業舞踏会で一緒に踊ったからなんだというのだ。

好きにすればいい。


それよりも、今日、アデスーラがレセナに決闘を申し込むことになったのは、別の理由からである。

そもそも貴族の決闘は、この国では赤いものを相手に投げつけることで始まる。たいていは赤い布や赤い花。時折、赤く染めた手紙などである。

なので、古式伝統にのっとって、レセナに向かって赤い物体を投げつけた。


彼女はそれを受け取り、震えているというわけだ。


「正気か、アデスーラ! 高位貴族である侯爵令嬢の君が、決闘だなんて……」


レセナの隣にいた王太子は怒りに顔を歪めて、きつくアデスーラを睨みつけてくる。けれど、アデスーラは一度も、レセナから視線を動かさなかった。


彼女は震える唇をなんとか動かして、言葉を紡ぐ。


「……嘘でしょう……なぜ、『赤いきつね』なの…」

「れ、レセナ…? どうかしたのか?」


様子のおかしいレセナの言葉がよくわからないようで、王太子は怪訝そうに問いかけたが、彼女の視線は手元の赤い物体に注がれている。


「『赤いきつね』ですわ。なぜ、なぜなの。これがあるなら、『緑のたぬき』だってあるはずでしょうぅぅぅぅぅっ!!!」


狐は黄色だし、たぬきは茶色ではないのか、という周囲の疑問の声はもちろん彼女に届いてはいなかった。

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