愛い妻の〇っぱいの尊みが凄い
ジャンル:異世界ファンタジー? ラブコメ?
キャッチコピー:「いいんだよ、君はそのままで尊いんだから」
紹介文:
インワイゼン王国の毒霧の森に住む伝説の大魔女クロエを妻にした騎士バウロの話。
お題:「尊い」
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ワインワイゼン王国には伝説として語り継がれる大魔女がいる。齢五千年以上生き、太古の覇者であるドラゴンとも友人関係を築き、大陸に存在する数多の国々の興隆と滅亡に加担すると言われるほどの大魔女だ。
彼女はある日、人間社会が嫌になってワインワイゼン王国の毒霧の森と呼ばれる誰も立ち入ることのできない禁断の森の奥地に小さな家を建てて暮らし始めた。毒霧の森も彼女が作り出した森だと言われている。
王国の記録によれば、今から一千年ほど前のことらしい。つまりワインワイゼン王国は大魔女の恩恵により長く王国として栄えていると言っても過言ではない。
それからは大魔女は表舞台からはひっそりと姿を消しているので、その後の消息は誰も知らないのだが。
そんな大魔女の名前はクロエ。
そして、ワインワイゼン王国の毒霧の森の近くに住むバウロはそんな大魔女の監視役を担う一家の末裔である。
先祖代々大魔女に仕え続けてきたので、必然的に従者というか、下僕のような立ち位置に収まっている。
そして、この度めでたくも大魔女の夫になった。
だが、実際は第一九八代クロエの夫である。
初代大魔女は単に魔法の才能に優れた人間であった。もちろん寿命に抗えるはずもなく、子を産み育て亡くなった。だが不思議なことに子供は母にそっくりだった。まるで呪いのように、同じ髪、同じ瞳、同じ顔立ちで産まれてくる。そのため、しばらくぶりに会う人には同一人物と間違われ、伝説のような何千年も生き続けていると語られることになったのだ。
バウロとクロエは幼馴染みで、彼女のほうが二つほど年が下だ。
彼女の肩書が大魔女だなんて恐れ多いので、バウロは物心つく頃から大人になったらクロエを護れるような騎士になると決めていた。
年頃になって王都へ向かい、騎士見習いから初めて経験を積み、十八歳でようやく騎士の称号を受けると五年ほど勤めて故郷の毒霧の森の近くの村に戻ってきた。それからようやく結婚した二人だ。
バウロは二十四で、クロエは二十二になっていた。
王都でも珍しいが、田舎など婚姻は早い。二十歳になれば十分に行き遅れと呼ばれるほどだが、クロエは遅くなったことを一度も咎めなかった。
バウロは申し訳なく思いつつも、妻となったクロエにひたすら感謝をしたのだった。
そんな二人の新居はやはり毒霧の森の中にある。
歴代の大魔女の住まいだ。
二階建ての小さな家は、夫婦二人には十分な広さで掃除の行き届いた部屋は清潔に保たれている。
家の前には綺麗に整えられた花々も咲き誇り、いっそ幻想的な世界にも見える。
穏やかな午後の昼下がり、そんな可愛い家の中に爆発音が突如響き渡った。
「大丈夫か、クロエっ?!」
「うっ、けほっ、ごほっ…うん、私は大丈夫だけど。ごめんね、バウロは大丈夫だった?」
クロエが作った昼食の鍋がなぜか突然爆発したのだ。台所で昼食の洗いものをしていたバウロが一番近くにいた被害者だが、彼は真っ先に居間でお茶を飲んでいた妻を振り返って安否を確認する。
もうもうと緑やら灰色やらの煙が立ち込める家の窓を開け、玄関の扉を開き、視界をクリアにすれば、せき込んでいたクロエが傍らに立っていた。
「もしかして、またやらかしちゃった?」
「大丈夫だ。鍋が爆発しただけだ。きっと昼食のスープが原因だな」
「元気づけようと思っていれた材料が失敗だったのかなぁ。バウロ、顔が少し赤くなってるよ。火傷したんじゃない?」
「俺は騎士で鍛えているから平気だって言ってるだろ」
「騎士ってスゴイんだね。爆発しても家が燃えても、水が溢れてもバウロはいつも平気だもんね」
「それだけ強くなければ騎士になんてなれないさ」
実際は、騎士は人間なのでいくら鍛えても火に包まれれば熱いし、大量の水に包まれれば溺死する。その前に水の重さで圧死するほうが先かもしれない。
クロエは大魔女の子孫なだけあって魔法が得意だ。だが、なぜか日常生活の中に魔法を織り交ぜてしまう癖がある。
無意識に魔法を使っているのだ。
そのため、風呂に入っていると突然水が溢れだす、火を起こすと家が火事になる、料理が入った鍋の爆発などしょっちゅうで、朝に窓を開けた途端に竜巻に攫われたこともある。
大魔女の魔法はなぜか攻撃に特化している。それが無意識なのだから手に負えない。
はっきりいって、命懸けだ。
バウロが騎士になって体を鍛えたのも、強靭な肉体を手に入れるためだ。自分が傷つくと幼馴染みの心優しき彼女が泣いてしまうので。
それを大魔女の失敗と呼び、見守ってきたのがバウロの一族なのだから、宿命ともいえる。耐えることなど何一つして苦ではない。
彼女の魔法は偉大で神秘的で荘厳ですらある。
たとえ、鍋が爆発しようが、家が半壊しようが、倒壊しようが、彼女の失敗の前にはすべてが些事である。
それがバウロの本心だ。
「いいんだよ、君はそのままで十分に尊いんだから」
にっこりと心から微笑み、愛しい妻を見つめるのだった。
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