心優しき部下たちへ

ジャンル:異世界ファンタジー

キャッチコピー:「今、何回目だ?」

紹介文:

王都警備隊の小隊長たちはとある建物の庭に身を潜めていた。 彼らの視線の先には、白い小さな光が灯る。 「おい、今何回目だ」 「十七?」 「いや、十九だろ」 先に建物に侵入している隊長からの二十一回目の突入の合図を待つ心優しき部下たちのお話。

お題:「21回目」


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深夜の刻限。

王都のとある建物の中から、白い小さな光が灯る。一瞬光ってすぐに消えた。白い光は発光石と呼ばれるもので、特殊な石どうしをぶつければ白い光を発生するのだ。石は数分の間光るが袖や懐で隠してしまえば見えなくなる。

庭の植木の中から、身を隠しつつそれを眺めていた男は騎士団の制服に身を包んでいる。黒に近い藍色の隊服は闇夜に紛れるのにちょうどいい。


「あれ、おい。光ったぞ」

「え、光った? 俺、見逃したぞ」

「いや、確かに俺も見た。建物の二階の左端の部屋だろ、光ったな」

「ちょっと待て、話してる間も光ったから」

「やめてくれよ、それ困る!」


その場にいるのは王都警備隊に配属されている第三騎士団だ。総勢二百人を超える騎士団だが、この場所にいるのは小隊長たる五人。

今日は前々から噂のあったこの国の大臣を務めるママラナー侯爵家の闇で取引されている人身売買の証拠を見つけるために、こうして泥棒のような真似をして潜んでいる。

王都の外れにある侯爵家とは縁もゆかりもない建物に、奴隷たちは囚われているらしい。その解放を目的にしているのだが。


「落ち着けよ、お前たち。結局、今、何回目だ?」

「十七じゃないのか」

「いや、十六だろ」

「ばっか、十九だ」

「おい、十九ならやばいじゃねえか、そろそろだぞ」


王都警備隊の隊長であり、第三騎士団の団長でもあるウィード=マクスナーから待機を命じられている小隊長たちは、身を潜めながら混乱していた。

隊長は一人で建物の中に入って、証拠となるものを探している。めどがついたら合図が来るので、待機している小隊長が小隊を率いて閉じ込められている奴隷たちを解放するように突入するのだ。


だが、その合図が問題だ。


なぜか、二十一回光が灯ったら突入するようにと言われているのだ。


「なんで二十一回なんだよ、数えんのもめんどくせぇ」

「隊長が言い出した時になんで止めなかったんだよ。おかげで現場が混乱するだろうが」

「お前も止めなかっただろっ」

「さらりと合図に発光石を二十一回光らせるから、それを見たら突入してくれなんて言われたから聞き流しちゃったんだよ」

「あれ、だろ。この前、隊長がえらく感動していた歌劇の影響だろ。教会の司祭とお嬢様の悲恋の話」

「ああ、あの…教会の鐘を二十一回鳴らしたら、会いに行く合図に使ってたやつ? 私用で教会の鐘をそんな回数鳴らすなよな」

「何度聞いても、迷惑極まりない行為だよな。絶対うるせぇぞ」

「いや、今まさに、隊長権限で合図二十一回光らせるなんて付き合わされてる俺たちのほうが迷惑極まりないだろうが。そういうことは彼女とやれって。なんで部下とやるんだよ」

「お前、それ言っちゃう? 女ってだけで子供が近づくだけで真っ赤になっちゃうピュアな隊長が恋人なんて作れるわけないだろ。合図送れる関係とかどれほどかかるんだよ」


彼らの隊長は二十二歳の好青年だが、なにせ女性に免疫がない。思春期になる前から男たちに囲まれて鍛えられてきたためだ。

女性を神聖視していて、近寄るのもおこがましいとさえ思っていそうなのだ。だが夢見がちで、歌劇は恋愛ものばかり観に行っている。


「おい、馬鹿なこと言ってないで、集中しろよ。結局、今、何回なんだよっ」

「もういいんじゃないか、突入しようぜ」

「ばかやろう、隊長の夢をかなえてやろうぜ。あんなに楽しそうに潜入していっただろうが」

「じゃあ、今、結局何回目なんだよ」

「俺、二十一回目な気がするんだよなあ」

「え、俺まだ十五なんだけど」

「ぶはっ、俺らがさっきからしゃべってる間も光ってたぞ、なんでお前そんなに少ないんだよ」

「数もまともに数えられないとか、お前らそれでも王都警備隊の小隊長か!」

「だから、そういうお前も数がわかんないんだろ」

「お、おい、おい。あれ見ろよ!」


揉めだした男たちの一人が声を上げて、全員で一斉に建物に目を向ける。

そこには激しく明滅を繰り返す白い光が見えた。


「あれ、なんだ。めちゃめちゃ点滅してるけど」

「とっくに二十一回超えてたんじゃねぇの。なのに俺らが突入しないから隊長も切れたんだよ」

「いや、隊長も数がわからなくなったんじゃ…」

「俺は飽きたとみるね。二十一回なんて面倒だろ」

「しゃべってないで、突入だろ。さっさと行くぞ!」


話ながら、男たちは素早い動きで建物に近づく。突入するために。

こうして深夜の王都の夜は更けていくのだった。

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