限りなく無関係な僕らの関係
ジャンル:ラブコメ? ある意味現代ドラマか?
キャッチコピー:紆余曲折すれば、関係があるのかもしれない
紹介文:
深夜のワンルーム。
一人暮らしをしている高校生のタツヤの部屋には、同級生のユイナが涙ながらに復讐したいと押し掛けてきていた。
彼女が復讐したい相手は、同じく同級生のコウタだ。
あれ、俺は全く関係ないんじゃないか?
深夜のハイテンションな彼女を前に、タツヤは首を傾げつつ、話を聞き続ける。
限りなく無関係にも思える、三人をつなげる唯一の関係とは?
作者:あれれ? 本気で覚えてない、なんで書いたんだっけな?
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タツヤは高校生だが、ワンルームマンションに一人で暮らしている。
理由は単純で、親が他県に転勤となったが、念願の第一志望の高校に通いたかったタツヤは両親を説得してこちらに残ったためだ。
もともとあった家は人に貸すため、住むところはないぞと強硬手段に出た親に、次の日には高校近くの家具つきワンルームマンションの賃貸契約書を提示した。伯父を保証人にして部屋を借りたのだ。
その行動力に、親も泣く泣く折れて、高校一年生から一人暮らしが始まっている。二年目ともなれば慣れたもので、家事全般は一通りこなし勉学にも励んでいる。昼だって手作りのお弁当を持っていっているくらいだ。
さすがに部活をやる気力はないが、学級委員を任されるくらいには成績は優秀だ。
親には一人暮らしを始める際に、いくつかのルールを設けられた。
まずは、きちんと生活すること。これは先程も言ったように家事を疎かにせず、ご飯を三食食べることを指す。
次に勉学に励むこと。学年で20番以内になることが条件で、これも今のところ問題はない。
そして最後に、異性を部屋に入れないこと。
中学では別に異性に嫌われるタイプではなかったが、だからといって特に親しい相手がいたわけでもない。好きな子はいたけれど、告白して付き合ってなんてこともないまま、終わった。
だからこそ、最後の条件は自分の中で起こり得ないはずだった。にもかかわらず、小さなテーブルを挟んだ向かいに女の子が座っている。同じ高校の見慣れた制服に身を包んだ少女だ。
しかも時間はすでに0時を回った。真夜中といっても差し支えない時間だ。
そして彼女は先程からずっと泣き続けている。
異常事態だ。
なぜ家にあげてしまったのかといえば、彼女が同級生の顔見知りであり、泣いていたからだ。インターフォンを鳴らした時からずっと泣き続けている。彼女がやってきてからかれこれ二時間ほどが経つ。夏の盛りを過ぎて秋に差し掛かっている今日この頃だが、そろそろ干からびるのではと心配になるほどだ。
適度に麦茶を勧めているのだが、彼女は一口も飲まずに滔々と話し続ける。
嗚咽まじりに、苦しい胸の内を。
復讐したいほどに、憎い相手がいることを。
そして、その話を聞きながら、何度も何度もタツヤは内心で独白する。
―――あれ、俺には全く関係がないのでは?
だが、あまりに真剣に、当然のように語られるので、今はまだ告げていない。というか、告げる勇気がない。それほどに、彼女は切羽つまっている。
彼女は榎本ユイナ。高校一年生の頃から同じクラスの女の子だ。隣の席になったこともある。彼女は吹奏楽部のトランペット担当で、クラスの主要な女子と良好な関係を築いている。気配りが上手く、明るいムードメーカーでもあり、何人かは彼女に好意を寄せている男がいることも知っている。
何を隠そう自分もそのうちの一人だ。いつでも楽しそうで、元気に跳び跳ねるポニーテールをなんとなく眺めているうちに好きになってしまった。
人を好きになる理由なんて、結構ささいなことなんだなと思う。
だからこそ、不覚にも家にあげてしまったともいえる。
「でね、だから……藍原に復讐してやりたいのっ」
「いや、でも、復讐ってどうやって?」
藍原とは同級生の藍原コウタだ。軽音楽部でバンドを組んでいるわりと派手な部類の少年で頭の方は残念ながら最下位を争っている。
自分とは縁遠い相手でもある。
「とにかく同じ目に遭えばいいのよ」
「いや、女の子ならともかく男で同じ目に遭うって、特殊な状況だと思うよ。それに、そんなにダメージを受けないというか、需要もないというか……」
正直、自分は見たいと思わない。それとも異性にとっては違うのだろうか。
女の子の感覚はわからないので、強くは否定できなかった。
「じゃあ、どうすればいいのっ……このままじゃ、私の気が済まないのよ…ううっ、ぐすっ」
盛大に鼻をかみながら、真っ赤な顔をして少女が震える。
小さなテーブルの上にはティッシュの山が出来ている。ティッシュの箱と一緒にゴミ箱も渡すべきだったか。
「うーん、なんとも難しい話だけど……あのさ、ずっと聞きたかったんだけど榎本さん、今日学校休んでなかった?」
「うん、風邪引いたの。実は今も熱があって。風邪薬は飲んだんだけど、熱がなかなか下がらなくて」
「なんで、そんな状態でうろちょろしてるんだよ?!」
「ここに来るまではちゃんと寝ていたのよ。だけど一日寝てたらだんだん悔しくなってきて…涙が止まらなくなっちゃったの。だから制服を着て、こっそり家も抜け出してこうして麻生くんの家に押し掛けてきたんだけど」
「え、制服で夜に出歩いてよく無事だったね」
「私の家も学校の近くなの。ここから五分くらいのところよ」
高校は住宅街の真ん中にあるので、確かに周辺に住んでいる生徒がいても不思議ではない。だがやはり、なぜ自分が訴える相手に選ばれたのかは謎だ。直接コウタに訴えるのは怖いとしても、せめて彼の友人に訴えるくらいはいいのではないだろうか。もしくは、教職員に話すか。
ただ、彼女の感情がやたらと昂っている理由は明白だ。深夜の謎テンションもあるだろうが、風邪の熱も多分に影響を与えていそうだ。
夜中にラーメンが食べたくなる衝動と同じだろう。もしくは夜中に愛の歌を書きたくなる衝動だろうか。
というか、彼女の意識はしっかりしているのだろうか。今のところ泣いているので、瞳はうるんで熱っぽく自分を見上げているけれど、理知的な眼差しは変わらないように……見えなかった。随分と、熱に冒されているようだ。
今更ながらに、危機的状況に気がついた。
あれ、これ彼女が襲われても文句が言えないのでは?
いや、親とのルールはどうした。
いくら熱のこもった視線を向けられていたって、許されているわけではない。落ち着け、自分!
思考はどんどん毒されていくが、なんとか理性を保つ。
大体、彼女の吐く吐息が熱すぎる。ついでにタツヤの体温まで上がるかのようだ。
やはり、思考は毒されている。
「麦茶じゃなくて、もっと飲みやすいほうがよかったね。あ、夏に買った経口補水液があるよ、飲む?」
「えと、大丈夫。麻生くんって一人暮らしなんでしょ。でも、なんかきちんとしてるんだね」
「親と約束させられているから。ルールが守れないならすぐに転校だよ」
「そうなんだ。こんなに頑張っているから、きっと大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
現在進行形で限りなくアウトなのだが、元凶に励まされてしまった。
「今さらだけど、よく俺の家がわかったね」
「学校の近くだし、ワンルームの一人暮らし。高校生にとっては魅力的な位置にある好き勝手できる友人の家ってわりと有名だよ。知らなかった?」
ぶんぶんと首を横に振る。
誰だ、そんなバカなことを言いふらしている奴は。
何人か遊びに来たことのある友人の顔を思い浮かべながら苦々しく思っていると、すんっと小さくユイナが鼻をすすった。
「熱があるなら、とにかく帰って寝るべきだよ。ここにいても悪化するだけじゃないかな」
「でも、私……まだ目的を果たしてないもの」
「え、目的? 藍原に復讐したいっていうことなら聞いたけど」
「それは別に今じゃなくてもできるでしょ。そうじゃなくて、だから、本当は初めに麻生くんに見て欲しかったの」
「え、何を?」
聞くのではなく、見る?
タツヤの頭は軽く混乱した。
「散々、説明してたのに……麻生くん、私の話をちゃんと聞いていた?」
ずずっと鼻をすすって、ユイナは恨めしげに涙で濡れた瞳を細めた。
「聞いたよ。軽音楽部と吹奏楽部の練習場所が近くて、トランペット持って音楽室横にある吹奏楽部の部室から移動してたら二階の渡り廊下で強い風が吹いてきて、楽器を持ってたから制服のスカートを押さえることができなかったんだよね。それを中庭で練習していた藍原たちが下から眺めていた、と」
コウタたちは確信犯なのだろう。
中庭のその位置からなら、風が吹けば合法的にスカートの中を見られることを知っていたのだ。
つまり、彼女の復讐とはコウタも同じ目に遭わせることをいう。だから、タツヤは消極的にそんな光景は見たくないとユイナを止めていたのだが。
彼女の真の目的は別なところにあったらしい。
「だ、だから……、私、麻生くんに、……を見て欲しいのっ」
相変わらずの嗚咽まじりで肝心なところが聞こえなかった。
「え、何を見てほしいって?」
「だから、私のパンツを見て欲しいって言ってるでしょ?!」
叫びながら彼女は制服のスカートを持ち上げた。
深夜のワンルームマンション。
高校生の男女が向い合わせで二人きり。
二人の想いが通じるには、あと五分ほど時間を有した。
とにかく、限りなく無関係な自分たちの関係は、紆余曲折して積み上げていけば関係があるかもしれないと知ったのだ。
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