幽霊役は適任者に

ジャンル:ホラー

キャッチコピー:だって相応しい人は、他にいるでしょう?

紹介文:

ナミの高校最後の文化祭。旧校舎演劇部の演目は『十三人目のクラスメイト』。

十二人しかいないクラスにいつのまにか十三人目がいて、彼女が実は教室に住み着いた訳アリ地縛霊でクラスメイトにいじめられた復讐をするというストーリーだ。

その配役決めで、もめにもめている。

なぜか皆、幽霊役をやりたがらない。

そして幽霊役を押し付けられるナミ。

なんで、どうして。だって相応しい人が他にもいるのに!

お題:「ホラー」


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阿佐野高校には演劇部が二つある。

一つは新館の中で大がかりな舞台装置や派手な衣装、お金も相当かかっていそうな演劇部。もう一つは旧校舎でこっそりと活動している旧校舎演劇部だ。

人知れず、演劇好きが集まって活動しているので、演劇の舞台も旧校舎を使う。衣装も自前で、セットは基本的に旧校舎にある者だ。

限られたセットと小道具での演劇は、脚本家の腕が鳴ると羽戸谷が意気込む。


そうして、毎度毎度高校を舞台にした台本ができあがるのだが、今回はホラー仕立てのミステリーだ。

タイトルは『十三人目のクラスメイト』という。

十二人しかいないクラスにいつの間にか十三人目がいて、その正体は教室の地縛霊だ。かつていじめを受けて自殺した者であり、十二人のクラスメイトに次々に復讐していくというストーリー。結局、誰もいなくなって最後に教室に残された幽霊が心当たりのないクラスメイトになぜ復讐し続けたかという独白で終わる。


内容は面白い。

面白いのだが、ナミは先ほどから終始無言を貫いている。

旧校舎演劇部は一つの教室に集まって配役を決めている真っ最中。目の前には自薦他薦で配役が次々と決まっていくのだが、怒号や嘲笑も混じる。

そしてなぜか主役の幽霊役だけはまったく決まらない。

十二人の生徒役で揉めに揉めている。


「俺はクラスではみ出してるちょっと悪ぶってる生徒役がいいな」

「タケトって優男にしか見えないんだから、委員長とかやったらいいじゃない」

「委員長ばっかりやってきたから、違う役がやりたいんだよ。お前こそ委員長やってみろよ。派手な化粧のけばけばしい委員長なんてサエカにぴったりの斬新な役だろ」

「やめてよ、私は常に学校一可愛い生徒役に決まってるでしょ。皆の憧れなのよ」


自称Hカップの胸を反らして、真っ赤な唇で艶やかに微笑む美女に、優男と称されたタケトの代わりに眼鏡をかけた真面目少年が思わずつぶやいた。


「サエカさん、それはちょっと無理あるかな」

「無理ってどういうことよ、左藤?!」

「まあまあ、落ち着きなされ。儂はこのクラスのむーどめーかーという役をやりたいの」

「コウゾウさん、ちょっと待って。話がややこしくなるから。あとツッコミどころが満載だから。絶対ムードメーカーの意味わかってないでしょ」


好々爺然とした老人がしわくちゃの顔で静かに意見を告げる。しわだらけの顔はいつも笑っているように見えるのだが、わりと言い出したらきかない頑固爺でもある。

その横で小学生の低学年の少年が目を輝かせて手を上げた。


「はいはーい。僕、このいつも教室の端で本を読んでる生徒役がいい。自前の絵本もあるからね」

「教室の端で本を読んでる生徒は陰キャって決まってるんだぞ。キラキラネームのタイガくんにやらせるのはイメージがなぁ」


タイガは虎威我と書くらしい。本人は可愛らしい顔立ちの男の子なのだが、字を聞いてのけぞったものだ。


「大体、台本作ったの羽戸谷だろ。お前はこうしたいっていう思いはないの」

「幽霊役がナミちゃん以外ならなんでもいいよ」

「え、なんで私?!」


静観を決め込んで黙っていたナミは突然、話を振られて思わず立ち上がった。

誰も主役をやりたいって言わない時点でおかしいと思ったのだ。

いつもなら主役は取り合いになるくらいに人気があるはずなのに。


「ほらナミちゃんの高校生最後の文化祭だもん。主役やってもいいでしょ」

「え、でも、私幽霊やったことないけど」

「経験なくても大丈夫だよ」

「いや、皆さん差し置いて幽霊役はちょっと……」

「なんでだよ、ばばーんとやればいいだろ。いつも虐められてんだから、自殺したくなる気持ちはわかるだろうに」

「タケト、さすがに失礼だよ」

「いや、それに関しては何も言えないっていうか、おこがましいっていうか、申し訳ないっていうか」

「気にしない気にしない。皆、わりと楽しくやってるから。で、ナミちゃんは決定なわけで。こうも他の配役が決まらないとは思わなかったな」

「幽霊を虐めていた教師役ならやりたいけど」

「ひとまず教師役は作らないことにしてるんだよ。幽霊役の子に語らせるだけ。左藤は意外にサディストだよね」

「最終的にナミに虐められたいドMでしょうが!」


この話はクラスメイトに嫌がらせをした幽霊がかつて自分を虐めていたクラスの担任教師に復讐する話だ。最後の幽霊の独白でそれが判明する。

確かに、教師役はつくらなくても話は完結する。


だがすっかり幽霊役はナミという話で流れていく。

しかし、一言言いたい。

なぜ、生きてる自分が幽霊役なんだ、と。


「適任者は他にいるのに……」


自分以外は皆経験者のくせに、未経験者におしつけるのはいかがなものか。

ナミは途方にくれた気持ちで配役決めを見守るのだった。

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