直観的門番の日常

ジャンル:異世界ファンタジー

キャッチコピー:「どっから見ても不審者だろっ」「はいはい、通っていいよ~」

紹介文:

サイ王国王都の門番歴16年のミッツは直観を頼りに、通行人を裁いていた。 だがここ最近、おかしな客に絡まれているのだった。 不審者扱いして欲しい者と勝手に通って欲しい門番のとある日常。

お題:「直観」


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サイ王国の王都には三つの門がある。

大門と呼ばれる城から真東にある玄関口になる門と北と南にそれぞれ小さい門があり、それぞれに門番がいる。

門番は基本的に王城で雇われた兵士が門番として派遣される。身分証と通行許可証を携帯している者を審査して王都の出入りを許可するため、それなりの権限がある。また犯罪者などを取り締まるため、鍛えた体とそれなりの剣の心得が必須だ。


ミッツは北門の門番として、16歳の頃から働いている。今年で16年目のベテランだ。北門の隊長としての地位も得た。


それだけの実績を上げるのに、コツコツ働いてきたわけだが、彼の資質によるところも大きい。ミッツは直観力に優れており、一般人に紛れ込んだ犯罪者や不審者を見つけるのが得意だ。検挙率も通行人の少ない北門のわりに、トップを独走している。

今ではミッツの評判を聞きつけて、犯罪者は北門には近寄らないと言われているほどではある。敢えて挑戦してくる犯罪者もいるので、相変わらず検挙率は上位を誇るのだが。


そんなミッツの護る北門に最近、自称不審者が現れるようになった。


「また、お前か。通っていいぞ」

「なんでだよっ、どっから見ても怪しいだろうが。不審者だろ、取り締まれよ」


だんだんと地団駄踏んだ小柄な者はボサボサの茶色の髪のおかげで表情はよく見えない。だが声と態度で怒っていることはわかる。


「今日は一段と気合が入ってるな。最近、見かけないと思っていたら髪を伸ばしてたのか?」


以前はフードを目深にかぶったり、帽子をかぶったり、メガネをかけたりと人相を隠すほうに力を入れていたが、こんなに髪が長かったことはない。


「がんばって風呂にも入ってないんだぞ、僕の力作だ。渾身の一発なのに、あっさり通すなよ」

「もうすっかり常連だもんなあ、今更通行止めるとかないわぁ…」

「隊長、別人のふりしてるんですから、ここは優しく初対面のふりをしてあげたらいいんじゃないですか?」


今日の門番の相方のテクが苦笑しつつ、声をかけてきた。

彼は既婚者で五歳になる息子がいる。子供にはつい優しくなってしまうのだろう。


「いや、だからって俺たち仕事だからさ。子供の遊びに付き合う義理はないだろう」

「そんな優しさいらないやいっ」

「そうか。じゃあ、さっさと通れ」

「では、失礼します」


騒ぐ少年の後ろにいた優男が荷物を背負ってお辞儀した。

そのまま通ろうとするのを片手で制する。


「ちょっと待て、お前はダメだ。詰め所で話を聞かせてもらおう」

「は、なぜです? あんな怪しげな浮浪者を見逃して、私を止めるんですか。あっちを捕まえてくださいよ」

「御託はいい。テク、取り調べだ。詰め所へ案内してやれ」

「なんでだよ、善良な国民を疑っていいのか?!」

「門番の権限だからな。怪しいと思ったら調べるだろ」

「根拠はなんだ」

「直観だ、騒ぐなら無理やり連行するが。やましいことがないなら、素直に受け入れるんだな」


問答無用でテクに押し付けて、門の横にある詰め所へと連れて行ってもらう。散々文句を言っているが、逃がすつもりはない。


「なんであんな人の好さそうな男を連れて行って僕を捕まえないんだ……」

「だから、俺も直観だから説明しづらいんだよ。それより、お前はさっさと家に帰れ。仕事の邪魔だ」


北門は小さな門だが、王都の門だ。

それなりの通行人がいて、出入りの許可を求めて待っている。

一人に長い時間かけているわけにはいかないのだ。


「安心しろ、俺がいる場所からは犯罪者は通さないから。王都に入れないし、もちろん王都から逃がすつもりはない」


ボサボサの頭を撫でてやれば、少年は声に詰まったように呻いた。

そのまま北門をくぐって王都の街中に入っていく。


「おや、ハイノン様はお帰りになられたんですか」


詰め所に男を預けたテクが戻ってきながら、雑踏に消える小さな背中を見つめた。

厄介な客の正体はとっくにわかっているが、本人には知らないふりをするのが北門の暗黙の了解になっている。

だから、貴族の子息相手のような態度はとらないように気を付けているのだが。


「犯人捜しはわかるが、こんな北門の門番の力量を試すのは筋違いだと思うがなあ」

「何かしていないと不安なのでしょう。十二歳で侯爵閣下だなんて、不憫ですよ」


一年前に王都に住むレレバル侯爵が何者かに殺された。犯人は捕まっておらず、動機もよくわかっていない。一人息子のハイノンが後を継いだが、実権はレレバル侯爵の実弟が握っているらしい。

つまり、彼はお飾りの侯爵なのだ。

仕方がないとは思うが、他にもやることはあるだろうに、それを指摘する者が少年の周りにいないことは確かに憐れだ。


だからといって、ミッツにできることは門番として犯罪者を逃がさないことだけだ。


「そういえば、さっきの男は窃盗団の一味でした。噂を聞きつけて隊長の腕を試したらしいですね。見事、玉砕しましたけど」

「噂のせいでおかしな輩が腕試しに集まってくるのもどうかと思うが…」

「犯罪者が捕まるんだからいいじゃないですかね?」


そういうものかと独りごちながら、やはりどこか腑に落ちない。

まあ、今日も平和な一日であることを祈るばかりだ。


「はい、どうぞお通りください。王都へようこそ」


北門をくぐる老人に、ミッツはにこやかに声をかけるのだった。

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