Run away!!

ジャンル:ホラー

キャッチコピー:なぜ、走るのか。

紹介文:

少年二人は幼馴染みで仲がいい。 いつも一緒にいて気心がしれている。 放課後の学校、長い廊下を走っている今、この時も。

お題:「走る」


::::::::::::::::::::::::::::::;:::::::


放課後の校舎はどこかもの悲しさをたたえて、佇んでいる気がする。

遠くに聞こえる運動部の掛け声も、ボールを打つ音も、軽音部のギターやドラム、吹奏楽部のトランペットが鳴り響いたとしてもそう感じるのだから、静まりかえっている今はますます寂しさがつのる。


サイキは夕日に染まる廊下を見つめて、隣に並ぶトオルを見つめた。


「走るってさ、よく考えたらどういうことだと思う?」

「素早く足を動かす、歩くよりも速いスピードで移動する」


間髪入れずトオルが答えて、はあっと息を吐いた。


「今、考えることか?」


三階建ての校舎の一番上の階は、何故か自分たちの姿しか見えないがテスト週間なのだから放課後まで居残って勉強している者が少ないのだろう。

自分たちも先程までは教室で勉強していたのだが、さすがにお腹が減って続きは家に帰ってからという話になり、こうして廊下に出たはずだった。

そこまではいつもの日常だったのだ。


ところが、今の状況はどうだ。

学校の廊下をすでに一時間は走り続けている。

夕暮れ時の廊下が一時間。さすがに日は沈むはずの時間なのに、朱金に染まる廊下の様子は変わらない。腕につけたデジタル時計は明滅を繰り返し正確な時間もわからない。


「たとえばさ、ペンが走るとかいうと書いてるんだなって思うし、山脈が南北に走るとかもいうだろ」

「なんで用語の活用?」

「あとは、亀裂が走るとか悪に走るとか金策に走るとか」

「現実逃避しても状況は変わらないぞ」

「違う違う、さすがに足に痛みが走るって言いたかったんだよ」

「……一時間くらいは走ってるもんなあ。歩いてみる?」

「うわ、衝撃だな。戦慄が走ったわ。お前、この状況でよくそんなことが言えるな」


前にまっすぐ伸びた廊下は行けども行けども下に降りる階段にたどり着かない。廊下の端にある非常階段への扉にもいつまでたっても行きつかない。

だが、立ち止まるという選択は絶対にない。もちろん後ろに引き返すなどもってのほかだ。

背後からひたひたと足音が聞こえるからだ。うめき声のようなささやかな声とともに。


「振り返ったら仲間になるパターンだよな、ホラー映画とかなら」

「立ち止まったら襲われるとかだろ。でも歩くならいいんじゃないか。そもそも最初は全力で走っていたのに、今はマラソンくらいの速さだろ。歩いても変わらないような気がするんだよ」

「そこはスピードの問題なの? トオルは相変わらず能天気でどっかズレてるんだよな」

「走るの意味を考えてるサイキほどじゃない」


二人は小学校からの友人で、中学、高校とずっと同じだ。

周囲からも兄弟のように仲がいいと言われるほど、一緒にいる。気心も知れていて、だからこそパニックにもならず走り続けていられるのかもしれない。


「お前が一緒でほんとよかったよ。最後は俺を犠牲にしていいから逃げろよ」

「安心しろ、何が起きても二人一緒だ。そもそも逃げられる気がしない」

「いや、そこは最後まで走れよ。俺の犠牲が無駄になるだろ」


ふはっと息を吐くように笑って、サイキは痛む足を動かしながら走り続ける。

トオルと肩を並べながら、出口を目指してひたすらに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る