第8話 選択 ~美人オペレーターと、“少年兵”達~

『 サンキュー、助かったわ! 』



 “首輪付き”の若者は、執拗にミサイルを放っていた武装ヘリの群れを、殲滅した。


 ジャンプ回避していた、旧世代の“機動兵器”から、若い女性の声がする。

 コードネーム:“ディノ・クライ”だ。

 

 もう、“ディノ”で、いいんじゃないか?


 彼女は、首の皮一枚のところで、ミサイルを回避できていた。

 荒い息づかいと深い呼吸から、ギリギリのところだった事が、うかがえる。


 無事で、なによりだ。



「どういたしまして。お互い様、だろう。」


 俺は、努めて、明るく応答する。


「周囲は、俺たちで、見張る。 少し、休め。」


 この兵士も、ずいぶん若いなぁ。

 子供や女性のパイロットを、投入するということは、人手不足なのだろうか?


 “反乱軍に、兵なし”という、将軍の演説も、まんざら嘘ではないらしい。

 てっきり、戦意高揚のための、プロパガンダなのかと、思っていたが。



「ところでさ、

 なんで、名前が、“首輪付き”なの? アンタ、囚人兵なの?」


 コードネーム:“ピーチ・ボーイ”から、質問が来た。


「どこかの、飼い犬の、ワンちゃん、なのかしら?」


 女パイロットの、“ディノ”が、からかう。


 少し休んで、心の耐久も、だいぶ、回復してきたようだ。

 いい傾向だ。


「説明しよう。

 俺、実は、飲酒運転“未遂”で、捕まったんだ。」


「「ええっ~!!」」


「お前たちも、酒場に行くときは、愛車を、家か職場の、駐車場に、置いていけ。

 車で、酒場に来た時は、水か、ソフトドリンクにしろ。それか、代車を頼め。

 間違っても、酔いが覚めたから、とか、少し休んだから、運転しても、大丈夫だ、なんて考えるんじゃないぞ!」


 “首輪付き”の若者は、熱く長文で、語りだした。


「すぐに、憲兵に捕まる。

 奴らは、俺たちが、車のエンジンをかけるのを、待っているんだ!」


 軍隊では、飲酒運転は、一発で、降格処分だった。

 当然、給料は、大幅に減額される。



 もちろん、俺は、そんなヘマはしない。

 そもそも、仕事以外では、あんまり酒は、飲まないのだ。

 

 新兵が、やりがちな、ミスを、事前に、教育しなくては。

 

 こいつら、入団試験に合格したら、酒を飲んで、バカをやりそうだ。

 酔っ払いに、後ろから撃たれては、かなわん。

 

 酒場で捕まったのは、“連絡員”と合流する前だった。

 なんで、俺が怪しいって、バレたんだろう。

 

 やっばり、酒場に向かう際、“機動兵器”で行ったのが、マズかったに違いない。

 

 飲酒運転を、絶対にしない!させない! 



「へいへい。なんか、このオジサン、説教臭いなぁ~。」

「……そう。懲罰で、ここに、送り込まれたの……。大変ね……。」


 少年と、若い女の反応は、様々だ。

 



 さて、“国”側の武装勢力のレーダー反応は、少なくなってきた。


 もう、あらかた、片付いただろうか。

 残敵は、どこだ?


 レーダーとアンテナを展開し、周囲を“スキャン”する。


 探査用の“機動兵器”で、良かった。

 目視では、見えない位置に居る、遠い場所の、敵の探知が、非常にやりやすい。


 敵のほとんどは、工場地帯に向かった。

 戦力の再集結を、図っているようだ。

 早めに、各戸撃破を狙うべきか?


 一部の車両が、列を組んで、旧市街中心部から、抜けようとしている。

 なんとなく、直感的に、気になる動きだ。重要人物でも、乗ってるのか?


 方向からして、輸送トラックの目的地は、病院や大学のあるエリアのようだが……。

 飛行場に、向かうでもなし、捨ておくべき、だろうか?


 そもそも、こいつらが、“国”側の勢力なら、ここで攻撃をやめるのも一つの手だ。


 現在は、反乱軍側で、戦闘しているが、それは、“潜入任務”だからだ。

 今後の任務では、この武装勢力と手を組んで戦うことも、ありうる。


 余計な恨みを買っては、仕事がやりにくく、なってしまいそうだ。

 攻撃自体を中止するか?


 ……どうする?




 もちろん、車列を、襲う!

 弱そうな奴から、狩るのだ。


 車列を逃したら、任務失敗でした、という可能性もある。


 工業地帯の敵は、俺が、単独でヤるわ。

 新兵だと、“事故”が、怖いし。



「護衛の“歩行兵器”が少ない車列から、叩くぞ。」


 

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