第6話 飛翔 ~美人オペレーターと、“人機一体”~

『わたしは、一旦、ここで、お別れかな。 試験、頑張ってね。』



 美少女を降ろすため、首輪付きの若者は、“機動兵器”を路肩に、優しく止めた。


「あなたの操縦技術は、素晴らしいわ。 自信を、持ってね。」


 美少女はベルトを外して、コクピットの出口に、手を伸ばした。



「それから、これは“預かっておく”わね!あなたの治療費は差し引いておくわ!」


 コクピットから降りる際に、少女は、とても笑顔で言った。



 あっ!!!

 俺の、札束が、ギッシリつまった、高級ブランドのボストンバッグがぁ~!!


 嫌ぁ~!! 俺の、お金ぇ~!!



 別に、若者の、お金ではない。

 渡された数千万の紙幣は、若者が所属する“国”からの工作資金だ。


 まあ、いいか。

 いずれにしろ、奴らに奪われていただろう。


 彼女の、満面の笑みは、初めて見る。

 美少女の笑顔には、千金の価値がある。




 少女が無事に、降り立ったことを確認し、若者はコックピットのハッチを閉める。

 首輪付きの若者は、“機動兵器”のシステムに、低い声で呼びかける。


「神経接続、開始。」

 

 座席の後部から、細い針のような回路が、若者の首筋に刺さる。


 まるで、脊髄注射のようだ。

 一瞬、激しい痛みが首筋を走る。

 

 もう、この鋭い痛みにも慣れたものだ。

 最近は、麻酔が、あまり効かなくなってきた気がする。

 

 若者と“機動兵器”は、まるで、一心同体になったようだ。

 若者は、まるで自分自身が、数十メートルの体躯を有する、巨人になったような感覚を覚える。


 “マニュアル”操作は、不便だ。

 やはり、"オートマ”で、なくてはな。



 灰色の巨人は、頭部を振り、周囲に目を向ける。


 “機動兵器”から降りた少女が、こちらに大きく手を振っている。


 若者が操る、“灰色の巨人”も、応えるかのように、軽く手を振った。

 

 少女は、目を見開き、驚きながら、喜んでいる様子だ。


 少女は、もう一度、体全体を使って、ひと際おおきく、手を振った。



 さて、行こうか。

 

 灰色の"機動兵器”は、バーニアを吹かして、垂直に飛翔し、目標地点に向かった。



 首輪付きの若者は、廃墟となったビル群の一角、試験の予定地点に到着した。

 少女から示された無線のチャンネルに合わせて、開始の合図を待つ。 






「直接、会場に来たのか。遅れてきた奴の中では、根性があるな、“首輪付き”。」



 

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