第5話 加速 ~美人オペレーターと、“操作練習”~

「実は、ちょうど、今、うちの“入団試験”を、しているところなの。」



「私たちは、あなたのような、強い人を、探しているの。」


 少女は、コックピットの複座の後席に、体を落ち着け、シートベルトを締めた。


「私が、試験会場まで、案内してあげるわ。」


 少女はモニターに投影された、地図上のグリッド座標に、マーカーを置いてくれた。



 “首輪付き”の若者は、美少女を乗せたまま、機動兵器を動かす。

 灰色の巨人が、ゆっくりと立ち上がる。


 “姿勢制御”機能に、問題はなさそうだ。


 素早く、若者は機体の確認を行う。


 “エネルギー”も問題なし。

 武器の“残弾”も問題なし。


 カタパルトから発進する訳でもない。

 高速で移動しなければ、訓練されていない少女でも、Gの負荷は、大丈夫だろう。


 格納庫の外まで、ゆっくりと移動し始める。



 メールが、複数件きているようだ。

 きっと、定時報告を欠かしたからだろう。

 メールの内容が気になるが、入団試験が終わった後で、ゆっくり見よう。


 新着メールの通知は邪魔なので、切っておく。


『トゥル、トゥル、トゥル!!』


 けたたましく、音声通信を求める“コール”が鳴り始めた。

 若者は、慌てて接続を切る。


 しばらく、定時連絡を怠っていたので、上司が怒っているのだろう。

 部外者を乗せている、今は、連絡できそうな状況でない。


 鳴ってほしくないときに、限って、仕事の電話を、かけてこないで欲しい。



 少女は気づいただろうか?


 “首輪付き”の若者は、後席を伺うが、気づいた様子はなさそうだ。

 美しい少女は、ぼんやり外の景色を、眺めている。

 コックピットから、眺める街の景色は、普段と違って、見えるのだろう。


 少女は、こちらの視線に気づくと、笑顔で言った。


「わたしは、大丈夫よ? どうぞ、遠慮なく。お好きに、なさって?」



 若者は、車両や障害物を踏まないよう、慎重に操作してきた。


 少女が大丈夫そうなら、“ジャンプ移動”も駆使しつつ、機体を加速しよう。


 ゆっくり、二足歩行で歩くのではなく、“ローラーダッシュ”しようか?


 少しずつ、加速し、機体の動作を確かめる。


 機体は、問題ないが、パイロットの方が、具合が悪そうだ。

 若者は、尋問で殴られた場所が痛く、体にダメージが残っており、万全ではない。


 機体が少し加速すると、後ろの少女が笑顔になって、キャーキャー大きな声を出す。


『この世代の兵器はいいね!加速がスムーズだ! 標準的な探査仕様は、いいね!

 性能は、うちのと、大差ないかな!うん!合格、合格! 高速戦闘、最高ぉ!』


 どうやら、少女は、ミリタリーマニアらしい。

 ずいぶんと、“機動兵器”に、詳しい様子だ。


 やがて二人は、廃墟となった高層ビル群が立ち並ぶ、“旧市街”に、たどり着いた。




「わたしは、一旦、ここで、お別れかな。 試験、頑張ってね。」

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