第4話 起動 ~美人オペレーターと、“ガレージ”~

「初めまして、私の名前は、“キサラギ”。 貴方の名前は?」




 若者と少女は、機動兵器の格納庫“ガレージ”と呼ばれる場所に、向かっている。


 二人が談笑しながら、狭い通路を抜けると、広い空間が広がっていた。 


 灰色で細身、2脚の美しい“機動兵器”が、中央に置かれている。

 

 探査用の機体で、一般的な量産機だ。

 整ったデザインの細見に、先端が尖った胸部が特徴的だ。


 ボロボロの外装とは似合わぬ、真新しくピカピカな銃と剣を、片手にひとつずつ持つ。

 この作戦のために、新たに支給された武器は、高価なものだと聞いている。

 

 本来、頭部の一つ目には、赤い光が灯っているが、今は暗く沈んでいる。

 まるで、主である、若者の帰りを、静かに待っているかのようだ。



 若者は、愛機の様子を見て、思わず声をあげそうになった。


 俺の愛機を、見知らぬ連中が、勝手に触っている!


 若者は、怒りを覚え、大きな声を、上げたくなったが、グっと、こらえた。

 

 ここは、敵地なのだ。

 下手な行動は、助けてくれた少女のためにも、ならない。

 

 銃を持つ男が、高い場所に立って、整備兵達が、若者の“機動兵器”を触るのを監視している。



 美少女が、格納庫に入ってくるのを見て、周囲の兵士達がハッと息をのむ。

 

 若い少年兵には、彼女に気づき、敬礼をする者もいる。


 格納庫内の視線が、少女と若者に、集まってくるのを感じる。



 少女が、腕をさっと大きく上げて、手を払うようにして振り、“人払い”をする。


 偉そうな監視の男が、格納庫内に響く大声で、撤収を指示する。

 格納庫内の全ての作業が中断され、全員が、別の場所に移動していく。



 しばらくして、“ガレージ”にいるのは、若者と少女の二人だけになった。


 美少女は、憮然とした様子で、両腕を組み、若者に話しかける。


「もう、あなたの機体は、誰にも、触らせないように、するわね。」



「この子、とっても、カッコイイわね!!」


 少女は大きな声をだして、若者の愛機に、走って近づいた。


「私、こういう、人型のロボットに、とても興味があるわ!」



 少女は、ひとしきり機体の周囲を回り、機動兵器をじっくり眺めていた。


 美少女は、急に、後ろを振り返り、若者に近づいてくる。



「ねぇ。もっと、あなた達の事、知りたいの。」


 美少女は、若者の耳元で、妖艶にささやく。


「お願い。ハッチを開けて、中を見せて、下さらない?」


 若者が所属する軍の機体では、一般的な量産機だ。

 民間に払い下げられた機体の数も多い。


 コックピットを見せるだけなら、問題あるまい。

 

 若者は、生体認証を起動し、コクピットハッチのロックを、解除する。


「ありがとう! 素敵なコクピットね。」


「ねぇ、動かして下さらない? あなたが、操縦するところを見たいわ。」



 コクピットハッチに入った若者に続いて、するりと少女が入ってくる。


 少女は、若者の首に両手を回して、抱きついた。


「ああ、忘れていたわ。この“幸運なお守り”を渡したいの。」


 少女は胸の間から、銀色に光る、大きくて太いリングを、取り出して見せた。


「この、“通信装置”を、首に、着けておいて? 

 これが、あれば、離れた場所でも、いつでも、私と会話できるわ。

 どんなに、離れても、あなたを守って、あげられるように、なるわ。」


 若者は、自分自身の意思で、“幸運のお守り”とされた首輪を、装着した。




「実は、ちょうど、今、うちの“入団試験”を、しているところなの。」

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