第18話 議事堂に降り注ぐ -3- 勝利の金曜日
『勝利の金曜日』当日を迎えた。
団長がアジトに集合させていたボクたち全員に向かって口を開いた。
「さあ、いよいよ決戦の日だ。ここにいる全員の力で自由を勝ち取るぞ。禁句法なんて悪法を、今日を限りに終わりにさせる。全国の力が結集しているんだ。勝利は間違いない。
それにこの俺にはお前たちヒカリの騎士団という心強い仲間がいる。あのマシンを倒したお前たちだ、自分たちの力を信じて行動すれば大丈夫だ。心配するな」
団長の言葉に勇気づけられる。
ボクたちは顔を見合わせてうなずき合った。
「まずリコとアッキについて説明する。
二人は福岡県内にしばらく潜伏した後、そこからは再び海路を使って東京を目指したようだ。海上の方が防犯カメラや盗聴の心配がないからな。二人とも使っていたスマホは、GPS追跡を防ぐために沖縄の海に捨てたらしい。
別府漁港から室戸、焼津、三崎と漁船を乗り継ぎ、三崎港から小型船に乗り換えて、勝どき橋の船着き場にさっき無事着いたと、東東京本部から連絡があった。海の男たちにも随分と支援者がいるもんだな。
二人は何かを計画していたようだが、今日のデモ隊集結の話を聞いて我々と合流することになった。この後、正午を目安に東東京関係者の車で現地に着く」
「アッキに会えるね」
「だから既読にならなかったんだ」
「海を使って東京まで来るってスゴイよ」
「会ったら、お前はマグロかって言ってやろ」
テルの冗談に普段以上の笑い声があがる。皆の感情が高ぶっているのがわかる。
「カコ、大丈夫?ほら水飲んで」
カコの呼吸が荒くなっていた。クミが背中をさすりながら椅子に座らせた。
「うん。大丈夫」
カコが小さく返事した。
「次に、今朝オリジンを無事救出した。先ほど都内の隠れ部屋に一旦お送りして来た。
お前たちにとっちゃ伝説の中の人物かも知れないが、あの人がいなければ今のレジスタンス組織はなかっただろう。あの人がそこまで人生を掛けて闘う理由もちゃんとあるんだ。
ご本人の強い希望もあり、国との決戦の場にオリジンも参加される。レジスタンスは総力をあげてこれをお守りする!」
過去幾度となく失敗に終わっていたオリジン救出が、この日の早朝に成功していた。
新設された朝霞プリズンに自衛隊関係車両を模した車で侵入し、収監されていたオリジンをレジスタンス精鋭メンバー四人が見事に救出した。
新規施設で警備体制がまだ不充分であったことと、プリズン監督者の交代時間を狙ったことが功を奏したらしい。四人のメンバーの中にはタケル団長も含まれていた。
団長がオリジン救出について以前ボクたちに話してくれた時、その熱のこもった話ぶりにレジスタンス創設者への強いリスペクトを感じていたのだが、実はそこにはタケル団長にとって別の思いも含まれていたことを、ボクたちは後で知ることになる。
国会議事堂へはデモ隊の混雑を避けるため、アジトから丸の内線で一つ手前の赤坂見附まで移動した後、騎士団はそれぞれの任務に振り分けられた。
テルとメグは桜田門周辺でリコ、アッキと合流。ヒロとハナは首都高霞ヶ関出口付近でオリジンを出迎え、それぞれレジスタンスメンバーと共に国会議事堂正門前まで誘導する。
ボクとクミとカコは正門前で団長らと共に、その到着を待つこととなった。
カコがアッキの出迎えに行きたがったが、冷静さを欠いている様子を見て団長が行かせなかった。
「カコ、心配いらないから」
「カコちゃん、ワタシたちと一緒に待ちましょう」
クミとアンナさんの慰めにも、カコは最後まで残念そうにうつ向いていた。ボクにはカコのその真っ直ぐさがまぶしかった。
午前中から集まり始めた全国からのデモ隊が、様々なプラカードを手に議事堂周辺を練り歩き始めている。
その人の数は既に歩道には収まらず、熱気を帯びた人の波が車道に溢れ出し、同じひとつの方向を目指している。
(言葉を返せ)(禁句法完全撤廃)
(ゴトウ退陣)(悪法断固反対)
(NO BAD LOW!)(国民を見よ)
(子供たちに未来を)(愛は法律に勝つ)
(あの言葉をもう一度)(愛を取り戻せ)
(ビクトリー・フライデー)(完全勝利)
プラカードの文字が力強く踊る。
そして地下組織が申し合わせた特別なシュプレヒコールが叫び上げられた。
『スキ!スキ!スキスキー!』
最初は言い淀んでいたデモ隊参加者も、恐る恐るその二文字を口にするうちに、その言葉の大切さと有り難さを再認識し、口にできる喜びを噛み締めて声を張り上げる。
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
キュルキュルキュルキュルキュルキュルーッ
コールはうねるように大きくなっていく。
当然ながら周辺の盗聴器が関知し警告音を発するが、ここまで大勢での発声に恐れる者はいない。
コールが益々大きくなっていく。
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
その時だ。
議事堂正門前に停めていた機動隊の大型特殊車両の屋根に、あの一度見たら忘れられない風貌の男が現れた。
渋谷スクランブル交差点を最後に、しばらく表舞台から姿を消していたドクター・ワカマツだ。
ワカマツが右手に持った拡声器を口元にあて、あのダミ声を大きく張り上げた。
「おい!おい!おい!愚か者どもよ。よーく聞け。禁句を直ちにやめろ。デモなどしても無駄だ!ハハハハハ、ハハハハハハハッ!」
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
拡声器の声に覆い被すかのように、デモ隊のボルテージが更に上がる。
「ええい、やめろと言ったらやめんか!どうなっても知らんぞ。ハハハハハハハハッ!」
ワカマツも負けてはいない。と言うより、なんだその余裕ぶりは。
「おい!おい!おい!愚民ども、目ん玉こじ開けてよーくこれを見るがよい」
ワカマツがムチで指した北の空に、飛行物体が突然現れた。
それは驚くべきスピードで飛んできたかと思うと、騒然となるデモ隊を嘲笑うかのようにボクたちの頭上で二度三度、轟音を響かせて旋回した。
そして広げていた翼を畳みながらまるでロケットが逆噴射するように、ワカマツが立つ車両の前にスルスルと静かに着地した。
「ハハハハハハハハッ!おい!どうだ!どうだ!どうだ!驚いたか!
これが、このワシが新たに開発した、スーパー・ソルジャー・マシン・ダブルエックスじゃ!」
なんとそれは、飛行機でもロケットでもなく、まさかの新型ロボットだった。
その姿形は渋谷で倒したものとほとんど同じだ。違うのは全身がメタリックな赤色をしていることと、背中に小型ジェットエンジンらしきものを背負っていることだ。飛行機のように見えたのは、太い両腕を真横に広げていたためだ。
着地した赤いマシンは首を僅かに傾げて「ガガガ、ギギギ」と発した。
血の色を思わせるようなその黒みがかった赤色の全身と、前のマシンと同じ笑い仮面のような不気味な表情から、底知れない迫力と威圧感が漂ってくる。
デモ隊のコールが一旦やみ、群衆もその突然の展開に息を飲んだ。
「いいか、よーく聞け!あの一号機はこの完全体ダブルエックスを生み出す為のいわばプロトタイプだったんじゃ。
初号機なら、いろいろ不具合も出るじゃろう。そんな事は端から織り込み済みじゃわ。実地活動の中であらゆる能力テストを行った。総てはこの究極戦闘マシン、ダブルエックス完成の為になー」
ワカマツは得意満面だ。黒いサングラスがキラリと反射した。辺りを見回して言葉を続ける。
「ハハハ、総ての能力をパワーアップさせ、更には飛行能力まで身につけてやったぞー。
そして、そして、そして、あのクソ忌々しい唯一の弱点も、完璧にクリアしてやったわい。
犬でも熊でもキングコングでも、何でも連れて来てみろ。このダブルエックスは何も恐れはせんわ!完全無敵の究極戦闘マシンじゃあ!」
なんと倒したはずのロボットが更なる進化を遂げ、それもこんな短期間で再び現れるとは思ってもいなかった。
取り囲むデモ隊に大きな動揺が走ったが、一度火がついてしまった途方もないエネルギーも簡単に引こうとはしない。
再びコールを叫ぶ大きなうねりが起こった。
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
『スキ!スキ!スキスキー!』
議事堂前でにらみ合うボクたちデモ隊と、一歩も引かない国家権力。
弱気になる気持ちを振り払うかのようにシュプレヒコールが一段と熱を帯び、議事堂周辺を大きく飲み込んでいく。
いよいよ決戦の時が迫っていることに、ボクは身震いを感じ、大きく深呼吸をして自分を落ち着かせた。
ええい、絶対に負けるもんか……
絶対に……
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