第14話 戦闘魔人の出現 -4- 団結のチカラ
【マシン 若者狩り 戦慄の夜】
政府発表によると、昨夜、新宿歌舞伎町周辺において、国家特殊兵器開発室所属の特殊ロボット、スーパー・ソルジャー・マシンによる禁句法違反者の大規模捜索が行われ、一日としては過去最大の摘発者数となった模様で、若者に人気のクラブでは三百人を越える一斉逮捕となった。
一方で、SNSでは混乱の様子を撮影したと思われる動画が拡散しており、中には誤認逮捕や無実を訴える多数の若者の姿も含まれている。
特禁警による行き過ぎた暴力行為を証言する声もあり、国家による強硬な摘発行為に国民の怒りと不安が高まっている。
政府は改めて国家安全禁句法の厳正なる遵守を国民に呼びかけた。
「何が厳正なる遵守だよ」
ノートパソコンでニュース記事を読んでいた団長が吐き捨てるように言った。
続けて、そう言えば言うほど、反発心から違反者が増えると計算してるんだと、説明してくれた。
昨日の食事会でマシン対策を考えようと、皆で話し合った直後に今朝のこのニュースだ。気が重くなる。
「昨日帰ってから動画チェックしていて、こんなの見つけたんだけど、これどう思う?」
カコがそう言ってスマホを皆に見せた。
公園の入口のような場所でマシンを撮影したものだが、マシンがじっと固まったように動かずに立ち尽くしたままだ。
「どうしたコイツ」
「急に動かねーぞ」
「故障だ、故障だ」
「キャハハハ」
撮影者らしき数人の声が入っている。遠巻きに撮っていた画面がマシンにだんだんと寄っていく。
「おい、どうした」
「腹へったんじゃねえの」
「ガス欠か」
「ギャハハハハ」
マシンは全く動かない。
「触ってみ」の声に、一人が恐る恐る足先で軽く突っついてみるが、それでも全く動かない。
「壊れちゃったー」
「ギャハハハハ」
マシンの顔にアップで寄ろうとした瞬間、「ガガガ」と声を発しマシンが動き出した。
撮影者たちは相当驚いたようで、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す場面で終わった。二分ほどの短い投稿動画だ。
「何だろうね」
「動かなくなることがあるってこと?」
「気になるなあ」
これだけではよく意味がわからない動画だった。
ところがこの動画をきっかけに、その直後から「#マシンフリーズ」の動画が、何本もSNSにアップされるようになった。
フリーズ。どれもまさしく、凍りついたように動かなくなったマシンが映っている。
長くて数分、短いものは数秒だが一度完全に動きが停止して、どれも何事もなかったように再び動き出す。
原因が不明だが何らかの理由により、マシンは突然停止することがあるようだ。
性能に起因する機能障害のようなことが起こっているのだろうか。
動かなくなったマシンの動画が、数多く投稿されていった。
「昨日皆に見せた最初の動画を見直していて気づいたんだけど、あれ代々木公園の前みたいなの」
その日、カコがまた動画の件で切り出した。
「なんでわかるの?」
「後ろに参宮橋門って書いてあったから場所を調べたの」
「カコ、よくそんな小さな文字見つけたなー」
「ありがとう。それでね、他のフリーズ動画も注意して確認したんだけど、どうも撮影場所に傾向があるように思うの。繁華街で撮ったものがほとんど無くって……」
「繁華街って、渋谷や新宿ってこと?」
「うん、渋谷も新宿も広いからいろんな場所があるだろうけど、雑踏や賑やかな街なかの動画はなくって、公園近くや住宅街ばかりというか」
「公園や住宅街?」
「あー、そういえばそっかなあ」
「うん、確かにそうかも」
「センター街や歌舞伎町の映像ってないよね」
「確かに、確かに」
「共通点かあ」
「カコ、すごい。よく気づいたな」
団長に誉められてカコは照れたようにはにかんだ。
「あと、夜の映像がないよね?」
ボクも気づいたので言ってみた。
「本当だ」
「ないね」
「明るい時間の映像ばっかりだ」
「うん、確かに」
「共通点らしきものがあるってことは、そこに何か必ず理由があるはずだぞ」
団長が腕組みし、顎に手をやった。
「さて、何だろうな」
マシン出没の共通点が公園付近や住宅街、夜間よりも昼間……皆で頭をひねるが、答えが出て来ない。
「この謎解きはコナンに頼もう!」
「コナンはいないから自分たちで考えるのよ」
「えーと、公園、住宅街、昼間、ウーン、わかんないよー」
メグに突っ込まれたテルが頭をかいた。
マシンの活動により連行される違反者が増えたが、逃亡を図る若者の数も増えていた。
その多くは以前より短い潜伏期間で摘発されてしまうのだが、隠れ部屋の稼働状況は前より活発になった。
この日も団長の指示で立川の隠れ部屋にクミと二人で食料を届けに行った。
その帰り道、中央線快速に乗り吊革を握った途端、クミが堰を切ったように話しかけてきた。
「ねえねえ、タカシ、犬ってどう思う?」
「え?何?イヌ?質問の意味が分かんない」
「あ、ごめん。えーと、マシンの弱点が犬じゃないかなって」
「犬?犬ってあの犬?ワンワン吠える」
「ワンワン?……ってタカシ、子供なの?ワンワンって」
クミがハハハと笑った。
「あのね、これ見て。二つ見つけたの」
(さっき犬連れた小学生が、マシン止めたーって走っていった どういうこと?)
(あらら~うちのワンコ見てマシン固まったよ マジ)
クミがSNSコメントのスクショを二枚見せた。
「ね、ね、どう思う?」
「どう思うって、ウーン、どうだろう。関係あんのかな」
「わかんない」
「あんなにいかついロボットが犬苦手って、あり得る?」
「そうなんだけど」
機械が特定の動物に反応することなんてあり得るだろうか。しばらく考えてはみたものの、半信半疑っていうのが正直なところだ。
アジトに戻って皆に意見を聞いてみることにした。
「犬なら、公園、住宅街、昼間とつながるんじゃない?」
「なるほど、犬の散歩の場所や時間っていうわけ?」
「繁華街には犬連れて行かないかー」
「夜もねー」
「でも動画に犬映ってた?」
「見てないね」
「散歩だから通り過ぎるんじゃない?だから映ってないとか」
「どうかなあ」
「どうだろう」
クミの仮説の話を聞いて、皆が次々に口を開いた。
「それって、ドクターワカマツの犬嫌いと関係あるかな?」
「え?ハナ、どういうこと?」
ハナの問いかけにクミが聞き返す。
「ウィキペディアで読んだんだけど、あのワカマツって人、幼い頃に犬に噛まれて大の犬嫌いなんだって。犬が怖いらしいよ」
「へー本当?」
「でもウィキペディア情報鵜呑みにするのもなあ」
「そうなんだけど」
「うん。よし、それ面白そうだな。やってみよう。ものは試しだ。犬連れて行ってみるか?マシン退治に」
ボクたちのやり取りを聞いていた団長が、そう言って皆を見渡すと、テルがパッと顔を輝かせて口火を切った。
「面白そう!うちのゴエモン出動させます!」
「じゃ、うちのマロンちゃんも!」
「オレ、どっかで借りてくる!」
「鬼ヶ島に向かう桃太郎ね!ワタシたち!」
団長の発案に飛びつくように皆が乗った。
誰もそんな簡単にマシンを退治できるなんて考えてはいなかったが、何もせずにいることが不安で居たたまれなかった。
どんなことでもいいから、とにかく自分たちにできそうなことを何かやりたかった。
そうすることで胸の中に膨らんでいく言いようのない不安と戦いたかったのだ。
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