第9話 十二月のこどもたち -3- 謎のメッセージ
昨晩クミから「明日来れる人 9時に来て」とグループラインが届き、翌朝全員揃ったところでクミが話を始めた。
「あのね、これを見て」
クミはそう言うと動画の再生ボタンをタッチして、机の上にスマホを置いた。
「なに、なに」
皆、机の回りに集まり小さな画面を覗きこんだ。
動画には誰かがギター演奏している様子が映っている。
自撮りだろう、カメラは固定で、やや下から見上げる角度で顔出しはしていない。首から上と膝から下が切れている。
「これがどうした?」
テルがクミを見た。
「わかんない?」
「何が?曲?」
「違う、曲名を聞いてるんじゃない。これ、アッキよ」
「えーっ!」
「アッキ?」
「うそー」
皆声を上げてクミのスマホを取ろうとして揉み合った。
「あーもう、ちょっとちょっと、皆落ち着いて。ユーチューブで、ディセンバーズ・チルドレンで検索して」
「ディセンバー?何て言った?」
「ディセンバーズ・チルドレン。十二月の子どもたち」
皆、自分のスマホを操作する。
「あ、あった、あった」
「うん、何本も出てきた」
「観てみて」
しばらくそれぞれが自分のスマホを覗きこんだ。
「うーん、確かにそう言われるとアッキっぽいかな」
「そうね、体格とか、手の感じとか」
「でも断定まではちょっとなあ」
どの動画も毎回同じ黒のパーカーに黒のデニム。ギターも特徴のない黒のストラトキャスターを一人で弾いている。背景も白い壁だ。何も映り込んでいない。
「でも、ギターはめちゃくちゃ上手いよな」
「そうそう、スゴいスゴい」
「指使いとか見入っちゃう」
「チャンネル登録数一万人越えてるよ。スゲー」
「クミ、この動画どうやって見つけたの?」
「笹塚の高校生カップルがこの名前言ってたの。ディセンバーズ・チルドレン。それで何となく観たのが最初。最初は気づかなかったわ。でも色々想像働かせたらね、アッキに間違いないって思ったの」
「その色々って何、クミ」
カコが目を輝かせる。
「うん、まずその名前なんだけど。アッキ確か十二月生まれだったでしょ」
「そうよ。誕生日が二十二日で、毎年クリスマスと一緒にされて損してるってぼやいてた」
カコが大きく瞳を見開く。
「だから十二月の子どもってわけ。そういうこと?」
メグが続いた。
「確かディセンバーズ・チルドレンって、古いアルバムのタイトルになかったっけ?」
「えーと、あー出てきた出てきた。ホントだあ。えーと、歌ってるのは、ザ・ローリングストーンズ?だって」
ヒロの言葉を受けてスマホをググったカコが答えた。
「昔のバンド?ヒロ、よく知ってたね」
「うん、うちのじいちゃんがよく聴いてる。白黒のアルバムジャケットがカッコいいから、タイトル覚えてたんだ」
ヒロが得意気にニッコリ笑った。
「ビートルズ派かストーンズ派かって時代があったんだって。じいちゃんが言ってたよ」
「そうかあ。アッキ、昔のロックもよく聴いてたよね」
「ユーチューブでもよく古いの観てた、観てた」
「だったら、そのアルバム名に掛けたのね」
皆、改めて手元のスマホを覗き込む。
「それとここを見て」
クミがスマホ画面をボクたちに向け映像を再生した。それは演奏を始める前の部分で、右手に持ったギターピックを指でもてあそぶ動作が映っていた。
「アッキ、これよくやってたでしょう?」
「やってた。クルクルやってた」
カコが更に目を輝かす。
「なるほどなー、アッキだ、これ」
テルの声に皆が色めきだつ。
「それでね、いい?この動画、投稿の日付見て何か気づかない?」
いよいよ本題に入るわよとでも言いたげな様子で、クミが皆の顔を順番に見た。
「あ、きれいに七日毎だ」
「そうなの。二か月ほど前から毎週金曜日、時間は夜の七時丁度にアップされてるの。時刻は何度か七時に待ち構えてチェックしたから間違いないわ」
「毎週金曜夜七時って、投稿日時にこだわってるの?アッキそんなに几帳面だっけ?」
「どっちかっていうと時間にはルーズだったよね」
「だから逆に何か意味があるのかなって。でね、毎回サムネイルと動画の最後に謎のメッセージ出してるの」
「これか!」
RICO 777 TT
「なんだこれ!意味深だな!」
「暗号?」
「どういう意味?」
「まずRICOは間違いなくリコのことよね。動画でロスグランデスの曲ばかり弾いてるし」
「うん。だとして、じゃあ、777とTTは?」
「何かの予告だとしたら、普通は時間とか場所とかじゃない?」
「そう。でね、次の金曜日は何日だったっけ?」
クミが皆を見回す。
「あっ!」
ボクはつい声を上げてしまった。
「そう、七月七日!」
ボクの目を見てクミがうなずく。
「777は七月七日夜七時って意味よ。毎週金曜日の七時って決めてるんだったら、わざわざ告知しなくていいのに、敢えてしてるってことはそこに何か意味があるはずよ」
うん、クミの推測通りかもしれない。
「それとギタープレイが終わった最後のシーンだけ、いつも二人加わって三人の姿で終わるの。顔は見せないけど。
その日その時間にアッキたち何かやろうとしてるんじゃない?」
クミの説明に皆が黙って顔を見合わせた。
部屋の中に緊張の空気が流れた。
もう一週間を切っている。
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